+++第四十話:パータイス
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「―――—つまり、私たちに捨て駒になれって⁇馬鹿げてる、そんな作戦飲むわけないでしょう」
どなるようにそう言うと、【アイズ=マリカナス】は目の前の女をにらみつけた。
「お姉ちゃんの言う通り・・・・だいたい、私は最初から怪しい人だと思ってた」
追い打ちをかけるのは【シシナ=マリカナス】。彼女はフードの奥から、静かにそう分析した。
「はは、ひどい言われようだ。私はきみたちに力を与えた・・・・。それに先日、実験も成功しただろう?これ以上、どう信頼を得ろと?」
ベルセベルデ―――—この女が、”パータイス”に接触したのは半年ほど前の話。彼女からの提案は、もともと打算尽くしの話だった。エルク・ダンヴァードは、そう切り捨てる。
解放戦線本隊から分裂した俺たちは、ゴロツキの集まり状態。それがいまのように影響力を持っているのは、彼女がこの組織を変えたからだ。
たしかに、実力は十分。
「————いいじゃねえかァ」
リーダーの言葉に、ベルセベルデ以外の三人は驚きの反応を示した。
「ちょっと待ってよ、王国軍と正面でやりあって勝てるわけないじゃないか!」
普段は方針について口を出さない【マット・シー】でさえ、この場では反論を口にする。
「・・・・。メガネが曇ったぜ、シー。
そんなに俺は馬鹿げたことを言ってるか⁇」
「あ、当たり前だよ。シュルクは騙されてるんだ」
慌ててガラスを拭きながら、小太りの男性はそう言った。
(・・・・)
この女に――—―たしかに、そうなのかもなァ。
「だとしても、成功すりゃそれでいいはずだァ。俺たちの目的はなんだ?なんのための”パータイス”だよ?」
(それはそうなんだけど・・・・)
マット・シーも、彼の考えをよく理解できる。だからこそ、次の言葉に詰まった。
そんな中で、二人姉妹の姉がシュルクの前に立ちはだかる。
「シュルク、死ぬのは違うでしょ。
私やアンタはともかく、シシナは死なせられない・・・・‼」
(・・・・!)
「私も、お姉ちゃんには、幸せになってほしいよ!」
シシナもまた、彼の服を引っ張りそう訴えた。
「―—――ちょっと待て、死にに行くわけじゃねえよ。俺たちは町を守りに行くだけだろ・・・・王都が危険な状態になれば、元老院は部隊を引き換えさせるはず。
それに、セントレーネは協定の範囲外だからなァ」
(ジジイ・・・・いまのアンタは、はたしてどうするかねェ)
「つまり、十分に勝算のある戦いということか」
「あァ・・・・またとねえ機会だ。俺は、ひとりでもやるぜェ――――――――」
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一人でって、そんなの私たちが付いてきた意味ないし!街を駆けながら、ふとあのときのことを思い出す。
私たちはただ、平和に暮らすだけで幸せなのに・・・・それを取り戻すために。自分たちだけじゃ駄目、だからシュルクと一緒に解放戦線を抜けた。
(ごめんね、巻き込んで・・・・)
でも、自分の気持に嘘はつけないから!!
そんなアイズの気持ちは、意図せずと妹に伝わったのだろうか。不思議とシシナはこちらに顔を向け、笑顔を作った。
「お姉ちゃん、私も一緒だよ」
「シシナ・・・・」
思わず、緊張が和らぐ。
ああ、この子と、ずっと一緒にいたい。
「絶対、平和な国を作ろうね」
そう言って微笑み返す。
次の瞬間には、姉妹の表情は固く引き締まっていた。
「—―――誰?
コソコソと、ストーカーかよ」
前方の民家の影―――—高度な感知魔法を扱う二人だからこそ、彼を見つけることができた。
じゃなかったら、たぶん殺されていた。うまく隠されているとはいえ、とてつもなく洗練された殺意。
「はァ・・・・簡単に処分しようと思ったんだけど、失敗か」
現れたのは、王国軍の制服をまとった男。意外にもその容姿は若く、十代にすら見える。手には剣が握られ、さらにそれは赤く染まっている。
「・・・・・・何人殺した?」
「覚えているわけないでしょ?そんな、どうでもいいことを」
煽るわけではなく、本心でそう答える。サナバラ・ノバシャード大将位・・・・彼はこの作戦の責任者にして、きっての剣術使いである。
(—―――ッ‼)
「お姉ちゃん‼」
(オッケー、シシナ)
シシナ・マリカナスの掛け声で、ふたりは一斉に動きだす。
「・・・・」
流石に鹿の脚力。瞬発力は一級品といったところ。
距離を詰められるのは仕方ないと考え、ノバシャードは反撃の構えに転じた。
「―—――!!」
背後からの空音を感じ、剣を振る。
(短刀!死角からの攻撃――――!)
甲高い金属音とともに、大将位は右腕がしびれるのを感じた。
なるほどね・・・・かわさなければならなかったのか。どうやら飛んできたナイフには、雷の魔法が付与されていたようだ。
電圧ではなく電流に重点を置いて変換されて魔法―――—なかなか上質な操作じゃないか。
(となれば、保険は作っておくべき)
壁際まで下がろうと一歩うしろに踏み出すと、ノバシャードの足は水面を叩いた。
――――水⁇
いつの間にか、足元には一面の水が溜まっていた。
(これは――――‼)
咄嗟に飛び上がるが、シシナ・マリカナスはそれを追いかけるように腕を上げた。
「水魔法:ポルーダ=ジョルダ――――!」
地面から浮き上がった渦水が、サナバラ・ノバシャードの足首に絡みつく。
「・・・・‼」
そのとき――――彼の視界に移ったのは、青金にエネルギーをまとったアイズ・マリカナスの姿だった。
「雷魔法:ジョ=レンテッ‼‼‼」
」」」」
【――――――――バジィッィィッ‼‼‼】
「「「「
強烈な弾音とともに・・・・閃光が散り、辺りに焦げ臭いにおいが漂った。
「――――終わりだね」
目の前の光景・・・・アイズはそう呟いた。
おそらく、あの男は中短距離を得意とする戦闘スタイルだった。撹乱しつつ、単純な広範囲攻撃で一気に片を付ける選択は正しかっただろう。
(――—―じゃなくても、私たちにはほかに108の遊撃パターンがある)
選択肢は戦闘において重要なファクター、1+1=無限大であるべきだ。
「慢心、傲慢・・・・」
冷たい声が乾いた空気を突く。アイズの横を青い閃光が通った。
「――――――ッ⁉」
正体はもちろん、ノバシャードである。
あの男―――体の周りを私の電流が走っている。
そりゃそうだ。
高出力の雷魔法・・・・さらにシシナの水でヒットも確定させた。
(被弾したのは間違いない―――—じゃあなんで⁇)
「・・・・!」
そこで、アイズは彼の手にあるはずのものが握られていないことに気が付いた。
剣は・・・・?
地面に――――突き刺さっている⁉
(まさか、あれはただの剣じゃないの――――⁇)
理論的には鉄以外の極伝導物質でできているなら、あの剣を避雷針に最小限の被弾で済む。
でも・・・・そんな、用意周到なッ。
まるで、私たちの戦い方を知っていたような感じ。
「――――――半分正解」
そう呟くと、大将位は容赦なく、魔力を込めたこぶしで彼女の腹部をえぐった。もともとは鉄でも、物質魔法で変えてしまえばいいだけのこと。
状況に応じて瞬時に対処法を考え、実行する。
その力がある――—―王国軍の兵士をなめるなよ。
彼は地面の泥水と体液で、ぐちゃぐちゃになったアイズを見下ろす。
(息が・・・・・・・‼‼‼)
地面に転がり、痛みと苦しみに悶える。
内臓が、飛んだんじゃ―――――大丈夫⁇
(私の体、穴開いたんじゃないよね――――――⁇)
「ハア・・・・ゲボゲボ・・・・オエエエエエエッーーーーッ」
これほどの威力があるなんて・・・・直撃したとはいえ、だ。
もう無理。
(いや、だめだ)
こんなことしている場合じゃない、動けるならそれでいいでしょ?
早くシシナを・・・・妹を一人で戦わせるわけにはいかないッ‼腹部を押さえつつ、ふらついた頭で立ち上がる。
しかし―――――――――――。
(・・・・!?)
「シシナ―――――――??どこ、どこに行ったの??」
アイズが焦るのも無理はない。
彼女は近くにシシナの魔力さえ、感じることができなかった。あり得ない、すこし前まで姿はあった―――—それに。
あの兵士の姿もない・・・・?私が目を離していた、あの数秒になにがあったの――――――⁇
(・・・・・?)
周囲を見渡していると、50メートルほど前の空間が《《ゆがんだ》》。
幻覚でも見ているかのように、視界がうねうねと曲がりだす。私の頭が壊れた?いや、そっちはまだ正常だ。見る場所をずらせば、そこにはあるべき通常の光景が広がる。そうなれば――――――。
だんだんとひずみが解消され、ある人物の姿が現れ始める。
「――——領域魔法。
自分と対象を、完全に別の世界に隔離できる・・・・《《固有魔法》》」
彼は淡々と状況を説明しだした。
「厄介だと感じたなら、分けて考えてしまえばいい。実際、一人では僕に少しと脅威を感じされることができない」
「・・・・‼
う・・・・あぇぁ・・・・・‼‼‼」
アイズの視線はその瞬間に、ノバシャードの足元に釘付けとなった。赤く染まった塊・・・・しかし彼女にはその正体がわかる。
(シシナ―――――――ッ‼)
「心細そうに戦っていたよ。
一人ではなにもできない・・・・僕の嫌いなクズの典型だ」
「貴様ァ――――――ッ‼」
(自分がなにを言われてもいい・・・・でも・・・・・・っ)
耐え難い侮辱を受け、よろけながら駆けだす。
「お前らは、どうして・・・・だったら、なんでこんなことをッ‼‼‼」
流した一粒の涙は、妹の亡骸の前に落ちた。彼女の視界はぐるぐると回転し続け、そのまま地面と接触。首から上を失った胴体もまた、弱弱しく崩れ落ちた。
「――――さあね、忘れたよ。そんなこと」
一度空を切り、剣を鞘に納めると・・・・サナバラ・ノバシャードはゆっくりと視線を移した。
*第四十一話につづく




