+++第三十九話:魔神VS.魔神
金色の光、曇天の空に輝き――――――――瞬く間に空を駆ける、シャイニングロードッ‼
「冠―――――――芯――――――ッ‼」
<―――――――――――ドオ――――――ッ‼‼‼>
空中でぶつかり合ったふたつが、大きな衝撃波を放った。
「むっ‼」
振り出された男のこぶしを、グリエンティスは見事に受ける。奇形・・・・この男、首から腕を作り出したのか‼
どこまでも底知れぬ不気味さだ。
(なるほど、ガノーシャが私を呼んだ理由がわかった)
「—―――貴様、魔神か・・・・?」
「イエス、アイ、アムッ‼
そしてまたの名を、正義の味方:【マーシ=マシン】――――ッ‼」
マーシ=マシンが左腕を振りぬくと、グリエンティスはそのまま吹き飛んでいく。
(なんて力だ―――—ッ⁉)
男は地面に打ち付けられると、体の形を元に戻した。やはり的が大きいと、それだけリスクはあるな。
彼の眼には、少女の体を抱えて悠々とあるじの下へ飛び戻る魔神の姿が映る。
(・・・・。一本取られたようだ)
「―――――大丈夫かい?ポニー少女よ」
「・・・・⁇」
自分を救ってくれた謎の人物を、少女は絶句しながらただ眺めた。
「ああ、無理もない。あれだけの相手では、呆然としてしまう気持ちもわかるさ」
おそらく、そうではない。いや、それもあるが。
筋肉質の体に、堀の深い顔つきとサングラス。
タンクトップでピチピチのスーツを身に着け、下半身はふんどし姿の男性は、なぜか常に淡い光を放ち続けていた。
「――――――――変態の人ですか⁇」
「ノオオオオオオオウッ‼⁉」
「・・・・・」
疑惑、そして彼女は軽蔑するような視線を男に送った。
16歳という若さのセイヤッタ。このくらいの年頃が、一番"おっさん"という生き物に厳しいのかもしれない。
「むう・・・・とにかく、ガノーシャに聞いてみてくれればわかる。私は、正義の味方だ」
その言葉は、よりセイヤッタの猜疑心を強めた。彼女にとってヒーローは特別なものだからだ。
「そうなの、ヘルル?」
「・・・・う~んと、自称?ヒーロー?
まあ、あんたと同じようなものじゃない⁇」
「――⁉私は自称ではなく、本物のヒーローだぞ⁉ガノーシャ、それは主・従の深い関係にあるきみにも、わかっているはずだろう⁇」
「・・・・え゛⁇」
(主・従――――⁇)
セイヤッタは彼女の純粋な心に、どこかで聞いたことのある薄い知識を思い浮かべた。
「ああ゛、だからあんたは呼びたくなかったのッ!セイヤッタ、違うからね。いますぐそれは忘れなさい?」
そう念を押すと、彼女は再び敵の方を向き直った。
「とにかくこいつは仲間、味方だから。それも、かなり強力な・・・・ね。なぜか知らないけど、私に協力してくれてる」
こうなれば、この人とふたりで戦うしかない。マーシ=マシンを呼ぶことで、かなり魔力は消費してしまった。でも、セイヤッタにこれ以上不可はかけられないし、私も前線に出て―――――――。
「――――ノン、ノン。それはナンセンスだろう、ガノーシャ」
彼女の考えを呼んだように、マーシ=マシンが口を開いた。
「・・・・どういうこと?」
「簡単なことさ。ポニー少女、きみはなんだ⁇」
「・・・・・・・え?」
脈絡のない意外な問いに、セイヤッタは戸惑う。
「さっきガノーシャは私たちに言ったんだ、《《自称》》ヒーローってね。私は否定したよ・・・・きみは⁇」
「ちょっと?そんなこといま関係――――」
「―――—あるよ、私はポニー少女に聞いている」
(・・・・)
よくわからない。
しかし護神の真剣な声色と、まっすぐな視線に・・・・ガノーシャはあきらめて引き下がる。
「私は―――――――」
「そう、きみは?
《《自称》》ヒーローでいいのか?
それは、耐え難いものではないのかな?
なにか信念があって言っていたんだろう?
―――――人を、助けたいんじゃないのかい⁇」
(――――ッ‼)
そうだ!私は――――――ッ‼
「正義のヒーローだよッ‼みんなを、守るんだ‼」
(・・・・・‼)
その変化に、ガノーシャは思わず目を見開いた。セイヤッタの魔力はいままでにないほど洗練され、話す言葉もなぜかそれだけで頼もしい。
「―—――イエス、そう来なくては。
目の前の悪者を、倒しに行こうか」
(・・・・。)
強力な”正”。魔力にもし、正負があるとすれば――—―いや、現にそのような微細な感覚の違いというのはある。あの者たちから発せられているのはそう、間違いなくこちらとは正反対の性質だ。
グリエンティスもまた、局面の変化を感じ取っていた。
(しかし、俺がそれを許すと思うか⁉)
愚かな・・・・言ったろう⁇
「俺が捕食者、お前たちは被捕食者だッ‼」
男の身体から、無数の腕が伸び散る。
グリエンティスはそれら一つ一つを意識的に動かし、彼らの体を狙う。
「―――‼風魔法:シュッカー!」
ガノーシャに迫っていた腕。マーシ=マシンはそれに気づくと魔法で切り落とした。
「ありがと、助かる」
「ふはは、感謝されたぞ。正義パワーが溜まっていくッ‼」
みるみる湧き上がる魔力。彼はそれらを腕にため込んだ。
(わずかな隙間を狙う―――—ッ)
直接当てることで、まずは戦闘能力を下げるねらいだ。
「ここだァ――――ッ‼」
狙いすました位置から、マーシ=マシンは魔力を解放した。
人を思う気持ちから生まれた魔法――—―それはお前には理解できないだろう⁇だからこそ、強力に効果する。
「くらえ、必殺――――光魔法:正義・ビーーーーーームッ‼‼‼」
「―――—‼‼⁉」
マーシ=マシンの両掌。そこから放たれた太い光線は、瞬く間にグリエンティスの左わき腹を焦がし貫いた。
「~~~~~~~~ゲボァ!!???」
馬鹿な―――—ッ!体の周りには何重にも魔力障壁を張っていたはずッ⁉
(・・・・!)
傷ついた魔神はその場から飛び退き、魔力を落ち着かせる。案ずることはない・・・・人間ならチェックメイトだろうが、魔神は違う。
欠損部位は再生できる。 そして俺の場合、人間を取り込むことで魔力を生成できる。つまり、ゴミのように人間族が固まっているこの場所で・・・・俺の魔力に際限はない‼
「―—――残念だったな、小娘。
貴様らに勝ち目は、なイッ!ふははは、あハははははッ‼」
「・・・・」
目の前に現れたセイヤッタにそう言うが、彼女は先ほどのように取り乱すことはなかった。
「なんだ、張り合いのない・・・・なんとか言ったらどうだ⁇」
「・・・・謝った方がいいと思う」
「なんだと―――⁇」
「死ぬ前に、傷つけた人たちに謝ろうよ。そうすれば、天国に行けるかも」
悔しそうな表情をしつつ、セイヤッタはそう呟いた。
(この女、本気で――――)
「グアッハハハハハッ!
傑作だ、本当に・・・・馬鹿がッ‼
死ぬのは貴様の方だと言っているだろう?
それに、魔神の俺に天国もクソもあるか――――ッ‼」
(・・・・)
グリエンティスがそう言うと、セイヤッタは無言で彼の方に駆け出した。彼女の拳には、以前のように魔力が視認できるほどに溜められている。
(面白い。そのうえで、か)
「――——来てみろ、少し前を忘れたわけではあるまい。返り討ちにしてやる‼」
そう叫ぶと、グリエンティスは魔力を―――――――――――――――――。
(――――――――⁇)
・・・・・・・
・・・・⁉⁉⁇⁇
(練れない――――――――――――――ッ⁉)
どういうことだ⁇
枯渇、使い切ったのか⁇
いや、そんなはずはない。だとすれば――――――――。
ここまで考えたところで、強力な一撃が魔神の頭蓋を破壊した。魔法効果ではない、真の意味での”変形”。
魔神にとっての死―――――それは致命傷と死の定義的な【擬製】である。
待てよ―――――このままじゃ、本当に――――――――。
「アアアアアアアアア、まずい、死ぬ、死んでしまう―――――‼」
この俺が・・・・こんな小娘共に――――。
ありえない、ありえないありえない。
ありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないッ‼‼‼‼‼‼
必死に体を再生しようとするが、やはり魔力が練れない。
「なぜだ――――――⁉」
「私の魔法・・・・縛地魔法だよ」
「—―――⁉」
縛地魔法・・・・自分を中心にある一定の同心円上に様々な縛りをくわえることができる魔法・・・・。しかし、相手の魔法を使用不能にするなど―――聞いたことが――――。
「―――――いや待て!
まさか貴様、ミーナルス家の人間か⁉」
(人間族の、忌むべき天才の血筋!)
「―――‼
知らない知らないッ‼」
その名前は彼女にとっても良い思いはないのか、セイヤッタは頭を左右に振った。
(・・・・!)
なんにせよ――――――。
(ここが最後のチャンス!)
そう直感し、グリエンティスはよろけながらも駆けだした。
このまま、縛りから出ればまだ勝機はある。
「所詮はまだまだガキのレベル・・・・待っていろ、すぐに殺してやるッ」
悪づいたグリエンティスの視界には、しかしオレンジの炎が広がった。
「炎魔法:院=弦歌!」
(――――――‼‼‼)
渦巻く炎が、瞬く間に魔神の体を飲み込んだ。
「熱ヅ~~~~~~~~~‼」
なにも見えない、熱い以外の感覚がない‼
「ああああああああああ・・・・・・!」
彼の意識は次第に遠くなっていく。まさか、これで―――終わりなのか⁇
「ぎゃあああああああああ!!!!!!あああああああああああ・・・・あああああ・・・・」
「ああ、そんな――――――――もっと食べた・・・・い゛―――――――――――――――――――」
・
・
・
・
・
「ヘルル・・・・」
「まったく、最後まで気を抜かないでよ」
そう言いつつも、ガノーシャはセイヤッタの頭を撫でた。
「うん・・・・?あれ、変態さんは⁇」
「ああ、あいつならさっき戻したわ。いるだけでとんでもなく魔力が持ってかれるのよね」
そう言って、彼女はやれやれと腕を伸ばした。
「あはは、じゃあ今度また会わせてよ。あの人、ガオレンジャーわかるかな⁇」
「あーうん、多分知ってると思う」
笑顔が戻ったセイヤッタに、ひとまず安堵する。
この子は家族のこともあるけど、それはみんなで支えていければいい。
本当に無事でよかった。あとは――――――そう。
どこか憂わしげなガノーシャに、ちょうどセイヤッタは《《そのこと》》について口を開いた。
「まったく、セシルはこんなときに帰省だなんて・・・・たぶんホームシックだよね、あれは。帰ってきたら絶対、美味しい料理作ってもらわないと」
「・・・・!」
(あいつ・・・・)
なにも言わずに出ていくなんて。私が言えたことじゃないけど・・・・相談くらいするべきだわ。
「・・・・。
そうね、ま・・・・帰ってきたらまず、一発殴るけど」
彼女が思わずそう言うと、珍しくセイヤッタがツッコミを入れる。
「――――え、なんで
それはかわいそうだよ」
*第四十話につづく




