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+++第十四話:勇者であるということ

 一週間がたった。


 「うおおおお⁉ち、遅刻だあああ!!」

 「ったく、馬鹿の一つ覚えじゃねえか!昨日も言ったろ?早く寝ろって!」

 朝七時。悲鳴を上げて、ようやくセイヤッタ・ミーナルスの朝が始まる。彼女は新しい同居人を指差し、非難の言葉を浴びせた。

 

 「あ!!セシル、起こしてって言ったじゃん!裏切り者ぉ!」

 「失敬な、俺はちゃんと起こしたぞ。部屋に入って布団まで剥いでやったのに・・・・そうなればもう、起きないお前が悪い」

 

 (え―――――――⁉)

 俺の言葉に、一転彼女は勢いを失い口ごもる。次の瞬間、飛んできた部屋着が俺の顔面にヒットした。

 

 「もう!変態!!」

 (じゃあ、どうすればいいんだよ)

 

 「ふああ・・・・ごめんねセシル君。セイヤッタまで任せちゃって」

 そう言って、ノセアダが通路の奥から現れた。彼女は黄色のふわふわした防寒着を身にまとい、ゆっくりと歩を進める。

 

 「ああ。まさか、セイヤッタが高等校生とは思わなかったよ!どうなってるんだ、お前らの部隊は!?」

 「うーん、いろいろ複雑でしてねえ・・・・」

 

 「それはそれとして、お前はもうすこし寝ていたほうがいいんじゃないか?昨日も遅かっただろ?」

 「ありがとう。でも大丈夫、やることがあるから」

 差し出したコーヒーカップを片手に、ノセアダはテーブルで新聞を開いた。

 

 「いまはフェルスたちがいないから、忙しくてねえ。セシル君にはすごく助けられてるよ」

 「まあ、仕事だしな」

 そう言い残すと、俺は問題児の方に向かって行った。

 

 「――――クリップが逆だ。ティラノサウルスが後ろ向いてる」

 「げ!ま、まじで?直して直して!」

 セイヤッタは制服のボタンを付けながら、あたふたとこちらに背を向けた。

 

 「まったく、歯磨きは?」

 「したよ!バッチリ!」

 「威勢だけは良いようで・・・・顔は?」

 

 「洗いました!ちょっとセシル、私を舐め過ぎなんじゃ――――」

 「――――はいはい、じゃああとは朝飯だな」

 

 「えー。時間ないよ」

 俺の言葉に、彼女は不満そうに口をすぼめた。いままでどんな生活をしてきたのか知らないが、こいつらはかなり生活習慣が終わってる。忙しいのは仕方ないが、直してもらわなくては困る。

 

 「はあ。いいかよく聞け、これは俺の爺さんの古知恵なんだが。朝飯を食べないと――――」

 「――――食べ、ないと?」

 

 「脳みそが腐るらしい」

 「⁉⁇

 ――――ッ‼⁉⁇

 つまり馬鹿になっちゃうってこと!!!!????」

 「・・・・。」

 

 

 ・

 ・

  

 

 「怒られたらセシルのせいだからね!」

 玄関を出ると一度こちらを振り返り、そう恨み節を吐いた。

 

 (ていうか、だったら急いでくれよ・・・・)

 

 まったく、俺はここになにをしに来たのだろうか。すこし料理ができるからって、まるでカフェの店員と世話係。でもむしろ、それは幸せなことだ。戦わなくても平和が保証されていて、種族が関係なく協力して暮らしている。

 

 (・・・・)

 「肌で感じて、ようやくわかった気がするな。第43特別地区が、なにを目指すのか」

 保守・維持――――でも、それだけでいいのだろうか?

 

 "「元々捨て駒に使うつもりが、あなたのせいです・・・・この子がただの気持ち悪い獣人になっちゃったのは」"

 

 あの女の言葉を思い返し、拳を握りしめた。一度外に目を向ければ、考えられないほどの人たちが虐げられているままだ。それを思うと、じっとしているほうが難しい。

 

 「なら、俺はこの部隊になにを求めていたんだろうか?」

 せっかく命拾いしたのに、また王国に歯向かうつもりなのか?

 

 「・・・・そりゃないよな。みんな、リスクを負って俺を受け入れてくれたのに」

 でもやはり、ここは俺のいるべき場所ではないと・・・・どこかそんな気がするのだ。

 

 「俺は、こんなことをしている場合じゃないんじゃ・・・・」

 途方もない不安が浮かんだところで、前方から女性が近づいてくることに気が付く。こんなこと、みんなに見せるわけにもいかない。

 (現状は信じるしかないか。俺たちの行動が、平和に貢献しているってことを)

 

 「――——おはよう。大変そうね、ハルガダナ君」

 「おはようございます、イルバシャノルタさん」

 

 「――――!ふふふ、ありがとう」

 ここで彼女がお礼を言った理由を、すぐに理解することはできなかった。しかし、なんだかうれしそうだったのでそれはそれでよしとする。

 

 「名前・・・・憶えてくれたのね?」

 「そりゃ、もう何度も会っていますから」

 

 彼女は俺の言葉に対して、「今日も飲みに行くわ」と口元を指でさすった。

 「あなたの淹れる珈琲の味は特別だから。でも無理は禁物よ、今日は血圧が少し低いみたい」

 「え?」

 

 「わかるのよ、顔色も少し悪いわね。まあ、私ほどじゃないけど?」

 (・・・・)

 彼女は綺麗な黒髪を長く伸ばす、魔人族の女性である。たしかにその灰褐色肌は、人間族のそれと比べて、少し血色悪く見えるだろう。

 

 「それも、俺は好きですけどね」

 「・・・・。即答、自分で聞いておいて恥ずかしいわ。ハルガダナ君、あなたモテるんじゃない?」

 

 「いきなりなんですか」

 「いいや?でも少し興味が湧いてきたよ。いままで、茜莊には女の子しかいなかったから」

 

 朝日とマッチする艶髪の隙間から、彼女の楽しそうな瞳が覗く。

 (・・・・。

 恋愛的なことを言っているんだろうか?)

 そうであるなら、俺の悩みと比べて些細な問題だ。そもそもこんな状況で、恋愛話が発展するとは思えない。 

 あいつらがどうなのか知らないが、俺自身ここ数日の経験を話せば―――――。

 

 「――――なにかあるなんて、考えられませんけどね」

 「そう?でもまだ一週間だし、わからないんじゃない?部隊にはまだふたり、可愛い女の子がいるわよ」

 彼女はそう言ってこぶしを握ると、こちらに見せつけた。

 

 「それはそれとして。これを食べるといいわ、元気が出るわよ」

 「・・・・なんすかこれ?」

 

 彼女の手提げ袋から取り出された、黒い物体。それを見て、俺は思わずそう返す。たしかイルバシャノルタさんは、薬やポーションを扱う店を商っていたはずだが。

 

 (・・・・マジでなんですか、これ)

 「安心して?特製栄養補完かりんとう、よ。和菓子屋のおばあちゃんと共同開発した、うちの一押し商品」

 「へえ」

 

 懸念が晴れると、俺はさっそく一口それをかじった。

 「――――おいしいですね」

 「ありがとう、もうひとついかが?」

 

 「いや、そりゃ悪いですよ」

 「ふふ、いいの。二つ目からは、しっかりとお代をいただくつもりだから」

 

 「あ・・・・そうですか」

 

 

 ・

 ・

 ・

 *

 

 

 同日、王都エヴミナの中心部。

 政治・経済――――王国のあらゆる要素を文字通り司る、王都第7地区。この場所では、いつも通りの優雅な昼下がりのときが流れていた。

 

 【第7地区中西部:王国軍本部】

 

 「納得できません‼我々は勇者のはずです!で、あれば・・・・なぜ彼女は牢屋に入れられているのですか⁉」

 初めて入った執務室。【エリミシア・グラディアーニェ】太極位の、のしかかるようなプレッシャーに緊張しながらのこと。勇者シバウラは、彼女に同郷仲間の窮状を訴えた。それに一方の太極位は、まったく冷静に対処する。

 

 「彼女――――とは、ロロカ・ミヤダイのことでしょうか?で、あれば・・・その扱いに対しての説明は成されているはずですよ」

 「ッ!彼女は日本にいたときから、アリさえ殺さないような子でした。それをいきなりの変化で、戸惑っているだけなんです‼」

 軽い魔力の脅し程度では、引き下がることはない。マモル・シバウラは本気だ。 


 (・・・・)

 勇者の気迫に、エリミシア・グラディアーニェはやっとペンを置いた。

 「まあ、異世界から来たんだから・・・・戸惑う気持ちもわかるけれど。それでも彼女は度を過ぎる。それは、王国ではタブーでしょう?ガラムバトでの行動だけなら、ここまではしません。国王への不敬に始まり、奴隷施設での解放事件」

 「それは――――ッ‼」

 

 言葉に詰まり苦悶の表情を浮かべるシバウラを眺め、太極は愉悦の笑みを浮かべる。

 「それは――――なんでしょうか?」

 「いえ・・・・なんでもありません」

 勇者シバウラは同じように主張し、王国軍を追放された人物のことを思い浮かばせた。セシル・ハルガダナの行方はわからないが、王国に逆らうべきではない。

 

 「ふふ、やはりあなた方は頭がいい。一見感情的に思えるハヤト・キリヤもまた、打算的な行動ができるでしょう?その点、彼女はそれができていないのです。よほどの決心があるのか、私には測りかねますが」

 (・・・・)

 「ロロカは――――」

 

 ”

 「芝浦君!どうしよう⁉

 人が――――みんな血が出てて――――ッ‼‼」

 ”

 

 いや、違う。ガラムバトで、俺は混乱していたんだ。だから、極限まで頭を回し・・・・状況を分析して結論を出した。


 ” 

 「――――ううん、私にだってできることはあるよね⁇とにかく、怪我をしている人を集めて!必ず私が助けるから‼」

 「・・・・ロロカ?なにをしているんだ?」

 

 「芝浦君、早く‼」

 「あ、ああ・・・・」

 ”

 

 俺の結論は、ロロカと違った。だけどそれが間違いだったとは思わない。

 

 ”

 「お前たち‼ここでなにをしている⁉」

 「~~~~‼すみません、俺たちは日本から来た者で――――」

 ”

 

 俺の言葉は弱かった。だからロロカにすぐさえぎられてしまった。

 

 ”

 「あなたたちこそ、なにをかんがえているんですか⁉⁇いますぐ、こんなことはやめてください‼‼‼」

 「ああ、お前たちがニホンジンか。話は聞いている。亜人族への共謀は犯罪だが勇者であれば話は別だ。付いて来い」

 「は、放してください‼」

 

 (ロロカ・・・・)

 「芝浦君もなんとか言ってよ、どうしてこんな――――」

 「ロロカ、ちょっと落ち着いて」

 

 「私はあなたたちに協力はしません!この犯罪を絶対に止めて見せますから‼」

 「ロロカ、ここは話を聞かないと!」

 

 「もう一度言う。この場で死にたくなければ、従え」

 「断ります!そんなことより、はやくこの町の人を助けないと――――」

 「ロロカ――――ッ‼‼‼」 

 

 最後に、シバウラの魔法が彼女の意識だけを奪い去った。

 ”

 

 目を覚ましたとき、彼女はどう思っただろうか?幻滅しただろうな。でも俺は、彼女に生きていてほしかったから――――。

 

 「くッ・・・・」

 シバウラは自身の無力感に、こぶしを強く握った。

 「安心してください、勇者ですから。それに、彼女ほどの回復魔法は貴重ですよ?丁重に扱い、悪いようにする気はありません」

 

 「本当に、彼女は・・・・あの子は、ただ・・・・」

 「ええ、ですが時間は必要です。状況を理解し、適応するための時間が。その間、彼女に外で暴れられては不都合・・・・ただそれだけの話ですよ」

 

 状況の理解・・・・適応。シバウラは日本にいたときから、いつだって優等生だともてはやされてきた。

 

 (俺は――――)

 この世界で、生きていかなければならない。覚悟が決まると、彼は小さく口を開いた。

 

 「一日に一回は――――」

 「・・・・?」

 

 「一日に一回は、風呂に入らせてあげてください。ずっと我慢していたと思いますから。それからできれば、好物のオレンジを差し入れたいのですが」

 

 変わらず辛そうな顔だが、事情は受け入れたようである。勇者が、すこしだけだが明るさを取り戻したのを太極位は感じ取った。

 

 「受け入れましょう」

 「あ、ありがとうございます!」

 「ええ、ですが・・・・彼女につらい思いをさせたくないのであれば、あなたは活躍しなければなりませんね?」

 

 (――――ッ‼)

 偶然か、あるいは故意か。彼女の追い打ちをかけるような発言に、彼は強くこぶしを握った。

 

 「期待していますよ」

 「はい・・・・!」

 

 

 *第十五話に続く

 

 

 

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