+++第十二話:ようこそ、第43地区へ
「ふん、ふ~ん」
鼻歌を歌いながら、スキップで道を歩く。【セイヤッタ・ミーナルス】は、この通り・・・ご機嫌である。
見ているだけで心が温まる。そんな彼女に対しては、町の人もみな笑顔で声をかけた。
「―――お帰り、セイヤッタ」
たまたま店の前の枯れ葉を掃いていた、初老の店主も例外ではない。
「たっ、だいまー‼テンスおばあちゃん!」
「うん、今日も元気だね?学校は楽しかったかい?」
「もちろんだよ!今日はね~、学食で期間限定メニューが残ってたんだ!昨日までは売りきれちゃって食べれなかったから、最高だぜ!」
少女は指をくるくる回し、自慢気に語る。
「そうかい!」
(うんうん。このぶんだと、最近は勉強も順調みたいだね)
「あとねえ・・・・あれ?あとは、なにしたんだっけな。あはは、忘れちゃったあ。また明日行くし、いいよね?」
・・・・。
(勉強も―――――――――)
いやいや、学校はそれだけの場所じゃないはず。
「あ、ああ。そうだよ、楽しいのが一番さ。いい子には、あとでお饅頭持って行ってあげるよ」
「わーい、おばあちゃん大好き~」
(お饅頭、お饅頭っ~!)
彼女が下宿先につく頃には、頭の中はもうそれでいっぱいだった。と、言っても徒歩で一分ほどの距離しかないわけだが。
「着いたあ~!」
軒並み古い家が並ぶ、この特別地区。そのなかでもひときわ目立つのが、この築百年超えの木造二階建て。名を茜荘というが、巨大な敷地には庭もあり、旅館の如く大浴場も完備する。
そこでは物干しざおの上でカラスが鳴き、ぼろぼろの三角屋根の上では二匹の猫が盛んに体を重ねあう。セイヤッタがその行動の意味を知るのはまだ先の話ではあるが、ともあれ彼女はにこやかにほほ笑んだ。
「―――――うんうん、今日も平和だねえ」
(って、あれ?)
そのとき、彼女の視界に見慣れないものが写った。届け物だろうか、固紙製の縦長箱である。最近はやりの”段ボール”というやつだ。それにしても・・・・すごく大きいようだ。
「あれま。普通は、本人に直接渡すはずなんだけど」
そう思いつつも、セイヤッタは箱に顔を近づけた。
「誰宛だろー、なっ?」
(・・・・・・。)
「なんだ、私宛じゃないのかぁ。
・・・・・・重そうだし、後にしよ」
一人でそうつぶやく。別に意図した状況ではないのに、なんだかどっと疲れた感じだ。彼女は、リュックを再度拾い上げ、玄関に手をかけたところだった。
「――――のか?」
「え?」
辺りに彼女以外の人影はない。だというのに、男の人の声が聞こえたような気がした。
(いや、まさか、ね・・・・)
そう思いながら振り返ると、今度は明瞭に単語までを聞き取れてしまう。
「誰かいるのか??」
「・・・・‼」
「うわあああああああ‼‼⁉??」
(箱が喋ったああああああ!!)
*
そこは木材のにおいが古心地よく香る、エントランス。中央には大家族のような大きめの机が置かれ、ソファーは窓からの日差しに照れされる。
アンティークなのっぽ時計は、暗がりから振り子で時を刻み、ちょうどそれは午後五時を指すところだった。
さて、前置きはここまで。
こげ茶の木目の上にぽつんと鎮座するそれは、意外にも周りに溶け込んでいるようだ。土で汚れてぼろぼろではあるが、それはそれで味を出している。
(一応魔力で運んだけどさ・・・・)
「う~~〜~やっぱり無理だあ!怖いよお‼」
いきなり現れた謎のしゃべる箱。誰かを待ってるみたいに、でもきっとそれには意味があって・・・・。
私が・・・・。
セイヤッタは【ごくり】と生唾を飲み込んだ。
「私が勉強しないからだあ~‼」
(神様は見てたんだ!)
「今日だって、宿題やってなくて怒られたのをいま思い出したよお!だから私を食べに、幽霊魔獣が現れたんだあ‼うえ~~ん、ごめんなさあい!たべないでくださぁいっ‼‼‼」
彼女の脳内回路はとんでもない結論を導き出し、狼狽する。同時に、こちらにも状況が理解できず、混乱を極めている人物があった。
彼こそ、箱のなかの人物:【セシル・ハルガダナ】である。
両者の状況は似て非なるものだ――――――。
(身動きが取れない。おそらく魔力で縛られているのだろう)
わかるのは自分が、とても狭く薄暗い空間に閉じ込められているということ。そして外には、謎の人物が騒いでいるらしいこと。
(あれからどうなったんだ!?)
ミレイユ・エリクアッツェという兵士と戦うことになって・・・・・・くそッ、その後の記憶があいまいだ。こうして生きているということは、勝利したのか⁇
いや。彼女の実力は相当のものだった。敗北し、閉じ込められていると考えるのが妥当だろう。
問答無用ってことか⁇
「状況くらい説明してほしいんですが!?罪の話はどうなったんです?」
「つ、罪――――?」
「ええ、そうです!」
セシルの言葉に、すこし沈黙があった。なにを考えているのか―――お互いに探り合う状況だが、しかし前提条件がそもそもかみ合わない。
「ごめんなさい許してください。これからは宿題頑張るし、寝る前はちゃんと歯も磨くので見逃してください」
「・・・・はあ?」
(さっきから、いったいなんの話をしているんだろうか?)
「・・・・・・⁇」
「――――ふぁあ。ん?どうしたのセイヤッタ」
誰か来たらしい。
セシルが感じた気配の正体―――――――【ロッカ・ノセアダ】は階下の異変に気が付き、眠そうにしながら階段を降りる。
「き、来ちゃだめだよロッカ!ここは私がなんとかするから――――」
「ふふふ。セイヤッタちゃ~ん?なになに、隠し事かなあ?」
あの大きい箱、見覚えないなあ。彼女もまた事態を把握していないが、その違いには気がついた。お菓子でも届いたかなあ?独り占めしようなんて、そんな風に育てた覚えはないぞ!
ノセアダは地面を蹴り駆けだし、威勢よく箱に手をかけた。
「どれ、お姉ちゃんにも見せてごらんっ!」
「あああ‼待ってそんなことしたら呪われてバチがあたっちゃ――――――――って、うわあああ⁉⁉ひ、人だあああ⁉」
セイヤッタは思わず飛びのき、そう叫んだ。恐る恐る視線を移したそこには、仏頂面の青年が横たわっていたからである。
「あれま。きみ、誰?」
(――――ていうか、なんで箱に入ってるの?)
考察を進めるにつれ、青ざめた少女とは対照的に、ノセアダはニヤッと口角を緩めた。
「なんだよ~う、彼氏連れてきたのか~。ごめんねえ?お姉ちゃん気が利かなくって」
「ち、違うよッ‼」
セシルの視界の端で、セイヤッタの肌が紅潮した。事実だが、なぜ俺が振られたみたいになっている?
「・・・・」
「ほら、可愛いセイヤッタちゃんが照れてるぞ~ぅ?」
「そういう関係じゃないし、まずここから出してください。体が動かないんですよ」
まったくをもって意味不明な状況。彼女らは何者なのか。俺はいま、どういう立場にあるのか。聞きたいことがたくさんある。
「ふうん、まあなんというか。変に隠そうとしてるのが、初々しくって良いねえ」
(まだやるのか)
「じゃあ、私は部屋にいるからさ。ごゆっくり」
いやいやッ。彼女は一言残すと、体を回転させ・・・・よもや本当に自室に戻ってしまう雰囲気だ。
(ここまで来て放置⁇)
まさか、本当に恋人云々だと思っているんじゃないだろうな⁉馬鹿げてる、こっちは本当に困ってるんだ!
「――――!ちょっ、待ってださい!!」
「一人にしないでえ~!」
「あはは、青春って感じだ」
二人の二様の救済の叫び・・・・そして、勘違いからそれをスルーするノセアダ。そんなときだった。天高くつき抜けていくような遠吠えが、俺の頭蓋を揺らす。
(――――ッぐ⁉)
「なんだこれ、犬の声か⁇」
「・・・・!!聞こえるの!?彼氏君」
驚いたように声を上げ、こちらをのぞき込む。しかし彼女の表情は、さきほどとは変わって真剣そのものだ。
「そりゃ、こんな轟音だ。聞こえない方がおかしいですよ」
「まあ、そうなんだけど。それがただの音ならね」
「??」
「いまのは魔獣の鳴き声でさ。特殊な音波で、通信魔法の一種。だから限られた人にしか聞こえないんだよ」
(テラーリオ、もしくはガノーシャ)
どちらにせよ、彼に新しく権限を付与したんだ。彼女は冷静にそう判断した。となれば、彼も私たち・・・・第43部隊の関係者。
でも、ならどうして箱に詰められているの⁇
「待ってください、俺にもなんとなく状況がつかめてきたんですが」
(さっきからまったく話がかみ合わないが、こちらに敵意はないように思える)
ということは、ここは別の場所。箱から連想されるのは、郵便⁇
俺を助けたヤーマ・テラーリオは、第43部隊の指揮官と名乗った。仮に思惑通りに事が進み、俺が解放されたとしたらどうなる?
”「起きないし面倒くさいから、家まで郵送しちゃえッ!」”
「・・・・‼」
((あり得る‼))
すくない時間とはいえ、テラーリオの暴挙の数々を目撃したセシル。そして部下として彼女の性格をよく理解している、ノセアダ。
両者の考えはこのとき、初めて一致したのだった。
「な、るほどね。きみの状況はなんとなく理解したよ。でもごめん、そっちは後回し。さっきの鳴き声は、緊急度が高いほど大きく響くんだよね」
「ロッカ!早く・・・・もう行っちゃうよ⁉」
それを証明するように、玄関前でセイヤッタも急かすように声をかける。さきほどまでのあほっぷりが、まるで嘘のようである。
「うん、すぐ行くから‼・・・・って、ことで。少し待っていてくれるかな。【後輩君】?」
「いや、だったら俺も行きます!さきにこっちを解いて―――――ああ‼行きやがった」
(まじかよ)
どんな神経してるんだ?仮にその緊急事態がここに来たらどうするつもりだろうか。
「はあ・・・・」
天井のシミだけでも、建物の年期がわかる。転がって、目を開ければ常に見慣れない光景というのが・・・・もう、何度目だろうか。
緊急事態らしいが、駆け付けたくてもできない。誤解は解けたようだし、このまま戻ってくるのを待つだけだ。なにかあっても俺のせいじゃない。話を聞かないあいつらの責任だ。
「ていうか、なんでこんなことになってるんだっけ?」
俺は死んだほうが良い。そう思っていたはずなのに。
”「――――――43部隊、私の下でなら世界を変えられる。きみは、ここで死ぬには惜しい人材だよ」”
そうだ。俺は、自分の意思でここにいる。状況を変えるチャンスだと思ったから、望んでこうなったんだ。
緊急事態とか、ここで動けなきゃ・・・・意味ないだろうが!
「――――こんにちはぁ」
ときを同じくして、郵便少女マルベリーもまた茜莊に舞い戻った。彼女は玄関先に荷物がないことを確認すると、恐る恐るなかに入る。
(荷物を置いて来たって言ったら、適当な仕事をするなって本部の人に叱られた・・・・)
まあ、そりゃそうか。て、いうか、ここって!そうだ、気が動転してて気づかなかったけど、第43部隊の拠点。
「――――エルシアちゃん?ロッカ⁇荷物、届いたよね⁇
って!うわあ⁉だ、誰ですかあなた⁉??」
「俺はセシル・ハルガダナ。
たぶんすこし前から、第43部隊に所属しています」
「たぶんって、どういうことです?っていうか、なんで箱で横になっているんでしょうか・・・・」
「話はあとにしましょう。俺もここから出たいんです」
「・・・・」
(なに?どういうことでしょうか?マゾヒスト??)
マルベリーは変人的な状態に疑惑を向ける。
しかし状態を確認して、彼がどうしようもないということを理解した。
「これは・・・・!
すみませんが、私じゃ助けようがありませんね。かなり複雑に魔力で縛られていますから、専門家に見せないと」
「いや、それでもお願いします!このままじっとしているわけにもいかないんです」
「本来であれば、これは人にかけるような魔法じゃないんです!下手をすれば体が麻痺してしまう危険性もありますよ?」
「はい。わかっています」
「・・・・はあ。なにを言っても聞いてもらえないのですか。わかりました。それでは、あとで文句を言わないでくださいね!」
前置きをすると、マルベリーは魔力を練り上げた。
・
・
・
「アオオオオオッ‼ワウ、バフバフッ‼」
立派な白毛の大型犬は、ノセアダたちが近づくと嬉しそうに飛び跳ねた。
「はいはい、ありがとうエレ丸。たしかにこれは、緊急事態だね」
彼女は上空を見上げ、顔をしかめた。周りには多くの人も同じように、心配そうな視線を送る。そこには巨大な怪鳥の姿がある。巨大な二つの翼で宙を舞い、強靭な足には小さな男の子を掴んでいる。
「ロッカに、セイヤッタか‼」
町の用心棒と警察、相談役のすべてが彼女らに該当する。そんな第43部隊の到着は、彼らにとって待ちわびたものであった。しかしそれでも、住民は複雑な表情を浮かべる。
(それほどまでに状況は良くない)
「――――みんな!ねえ、どうしてこんなことにッ!」
「わからねえ。奴は、西の空から急に現れて民家を襲ったらしい」
「そんな⁉」
(あり得ない)
郊外とはいえ、ここは一応王都だよ⁇結界もあるし、魔獣が出るなんて・・・・こんなこといままではなかった!)
背後で、なにか得体の知れない存在が動いているのではないか?不気味な考察が、ロッカ・ノセアダを支配した。
「ロッカ、とりあえず羽を狙ってみる!」
「待ってセイヤッタ」
感覚派のセイヤッタ・ミーナルス。ノセアダはすかさず、勇んで魔力を練り上げる彼女を制止した。
「冷静になろう。魔法であの鳥を落とすことはできるかもしれないけど、その後は?あの子も一緒に落ちちゃうでしょ?」
「――――!そう、だよね。ごめん」
セイヤッタは素直に、自分の考えが足りていなかったことを反省する。
(――――とはいえ、、、、)
もたもたしていても、いつ飛んで連れて行かれるかわからない。
考えろ、どうしたら無事に助けられる⁇
「キヤ――――ッ‼‼‼」
(――――⁉)
黄土色の巨鳥が強く羽ばたくと、強風があたりを揺らす。いまはこちらを警戒しているようだが、もう時間は残されていないだろう。
そんな顔しないで、アカンジさん。フトーくんは必ず助けるから。
って、言えよ私!いま部隊には私たち、ふたりしかいない。不得手な空中戦にくわえて、救出という高難度のミッション。荷が重いが、なんとかしないと。
(このままじゃ、本当に――――)
悪い予感が頭を支配する。せめてあと一人、誰か魔法が得意な人がいれば。そうよぎった瞬間。
背後から力強い声が届いた。
「【茶髪お姉ちゃん】、あの鳥を落とせますか⁇」
(――――え⁉)
振り返ると、郵便配達用のサイに乗って駆けてくる二つの人影が見える。
「郵便屋のマルベリーと・・・・後輩君⁉」
ってことは、茶髪お姉ちゃんって私か!
「できるけど、それじゃああの子が落ちちゃうでしょ!」
「それは、任せてください」
「でもさ・・・・」
口ごもるノセアダが、困惑してもおかしくない状況。それはセシルのためでもあった。
(失敗すれば、自分のせい・・・・そういう罪悪感からは、一生逃れられないんだよ?)
しかし彼はまったく動じることはない。
「信用してください。俺はあなたたちの仲間です」
「――――!」
(うう・・・・)
どうして、そんなにまっすぐな目で見るの。
さっき会ったばかりで、信頼もなにもないはずなのに・・・・なんでこんなに、安心できるんだろうか⁇わかったよ、どちらにせよ、時間がないんだ。だったら私は仲間をを信じる。一緒にあの子を助けよう、後輩くん!!
「――――⁉ロッカ⁇⁇」
隣で魔力が大きくなるのを感じ、セイヤッタは混乱して声を上げた。
(どういうことなのか、全然わかんないよ~~‼)
あの人が仲間⁇二人は、さっきからなんの話をしてるんだろ⁇
「【ポニーテール】は後だ。聞こえてるか、変な髪飾りの――――」
「――――変じゃないもん!ティラノサウルスだぞ、がおおお!ってあれ?」
思わず反応してしまった自分に、不思議な感覚を覚える。
「――――そう、俺たちで捕まってる子どもを回収する」
「え?でもどうやって」
「俺がサポートするよ」
セシルがそう言うと、セイヤッタ真下の地面が隆起する。そしてそこから、太い木の幹が現れ始めた。
「う、うおおおおおおおお⁇⁉な、なんだああああ、これえええええ‼⁉」
「森林魔法:ガイゾック・レーク。茶髪お姉ちゃん!いけますか⁉」
「うん!ふたりとも、任せたよ!風魔法:ラヤリ‼」
【びゅうんッ‼】
激しい音を立てるながら進む風槍は、目視できるほどに乱れた気流を伴って進む。
「そおら、返してもらうぞおおおッ‼」
ノセアダは魔力で、その進行方向をち密に定義する。そしてそれは防ぐまもなく、一瞬で怪鳥の羽に押し出すようにして穴をあけた。
『ギャビューシュッ‼⁉』
巨鳥の叫びが地を揺らし、思わず耳をふさぎたくなるような轟音が届く。
「後輩君‼」
「――――⁉」
ノセアダが指さす方向に、巨鳥が掴んでいた子供が落下していく。
「――――ッ!」
(あの鳥・・・・面倒な方にぶん投げやがってッ‼)
すぐさま木の伸長方向を変える。
(申し訳ないが、最高速度でいかせてもらう)
「振り落とされないでくれよ!」
「――――なんのこれしきいいい‼」
後方への強い引力がかかるも、セイヤッタは持ち前の体感でなんとか体制を維持する。
(でもこのままじゃ、間に合わない)
彼女は直感的にそう判断した。
落ちる⁇あの子が・・・・そしたら間違いなく死ぬ。
(――――ッ‼)
「おりゃああ!」
セイヤッタは魔力をうまく使い、飛ばされないようにしながら立ち上がる。
死んじゃうなんて――――そんなの、だめだ‼
「私は、みんなを笑顔にする!スーパーヒーローだああああぁぁぁッ‼」
子どもの体が目の前にを過ぎようとしたとき、彼女は足の魔力を発散させ飛び出した。
「とう、どけえええええ‼」
(届け‼)
(届けぇ――――‼‼)
―――――――――――ッ‼‼‼
その場にいた全員の気持ちが伝わったのか、彼女の右腕はしっかりと小さな体を捉えた。
「よっしゃあい!
このままいくぜ――――!!」
(うん⁇)
「あれ。この、まま――――どうするんだっけ?」
ロッカ、私この後・・・・どうしよ?
「落ちる――――ッ!!」
思わず目を閉じたるが、彼女は男の子を離すことはしない。
このまま落ちても、なんとか彼は助けよう。そう決意するが・・・・しかし結果としてそうなることはなかった。セイヤッタの足首に巻き付いた木の根が、空中でふたりを支えたのである。
(・・・・‼、‼、、)
『うおおおおお―――――――ッ‼‼‼』
周囲から一斉に歓声が上がった。
ゆっくりと二人の体を下ろすと、母親らしき女性が涙を流しながら近づいていく。
「よかった・・・・ロッカ、セイヤッタ・・・・みんな本当にありがとう!!」
「うえーん!本当に良かったあ!!!!」
「ほらセイヤッタ、鼻水は拭くの!でも、アカンジさんとフトー君が無事で本当になによりだよ・・・・」
出来上がる歓喜の輪に加わり、彼女らも住民たちと抱き合う。一方でノセアダは、そこにあるべき姿がないことに気が付いた。
(後輩君は――――?)
キョロキョロと辺りを見回すと、端のほうで静かに腰掛けているらしい。あんなところで――――なにしてるんだろうか。
「ちょっとごめん」
しばらくしてノセアダはその場を離れ、彼の方に向かった。
「――――浮かない顔だね」
「茶髪お姉ちゃん、ですか」
いい感じの再会を演出したのに。彼女は、小馬鹿にされているような感じを受けた。
「敬語なんていいよ。
仲間でしょ?それに、セイヤッタにはフランクに話してたよね」
「ああ。じゃあそうするよ、茶髪お姉ちゃん」
「ねえ・・・・その呼び方やめない?」
「お前だって、好き放題呼んでただろ?」
(うっ――――)
「まあそうだけどさ。で、どうしたの?どう考えても、ヒーローの顔じゃないよね」
「いや、ヒーローなんかじゃない。一歩間違えば、二人とも死なせてしまった。たまたまうまくいっただけだ」
「うん?どういうこと?」
「あそこにいたのが俺だったら・・・・たぶんあの子を助けることはできなかった」
俺がそう言うと、彼女は目を丸くして表情を変えた。
「――――‼
まあ、そうかもね。でも周りを見て?
きみがいなかったらそもそも、こんなに暖かい雰囲気になってたかな」
「・・・・」
彼の言うことは理解できる。でも、私が躊躇した一歩をきみは踏み出した。間違いなくそのおかげで、あの子は助かったんだよ⁇
(むしろ私のほうが、情けない)
「きみはもうすこし、自分を評価してあげることも大事だと思うかな。今日から、きみのお姉ちゃんなる私から、アドバイスだね」
「まあ」
セシルは照れくさそうに視線を背ける。
「うんうん、それでいいと思うぞ!」
ノセアダもそれを見て、自分の気持ちに整理をつけた。私も、もっと頼もしくならないと!第43部隊の人間として、恥のないように。
「あ!そうそうそれから、言い忘れてた。うちに来るんなら、背中には気を付けないとねぇ」
「――――は?」
ニヤッと笑った彼女の顔が、右上に傾く。
「うおおおお!やったぜ〜‼」
「ッ!ポニーテールか⁇おいやめろ、そんなにくっつくな!って――――おいおい!!!?」
目線のさきでは、その場にいた全員がこちらに向かって来ている。
「お前、すごいな!」
「聞いたことない魔法だったぞ!?」
「お兄ちゃん、魔法今度教えてよ〜」
「うちの店に来いよ!ぜひ奢らせてくれ!!」
「43地区に来るんだって?歓迎するよ」
「大変な仕事がけどな、頑張れよ!」
「ちょ、待って・・・・ください!ひとりずつ」
「あはははは!やっぱりね」
実力だけじゃない。彼の人間性も、周りを引きつける魅力があるのだろう。
「うん、私もきみのこと気に入ったよ。あらめてようこそ、43地区へ!」
*第十三話に続く




