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たくさんのおみやげ  作者: 朝山 みどり


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10/11

10 山本部長 同僚目線

昼休み、山本部長は机に寄りかかるように座っていた。


なんとなく、今日は朝から元気がないようだ。


定年まであと一か月。延長して働いて欲しいとお願いしているが、まだ返事を貰ってない。

是非とも残って欲しい。頑張れば、人のいい部長は負けてしまっていいよって言うはずだ。


よし、お願いするぞと部長の机に向かった時、部長の体が揺れた。

『倒れる』体が動いた。


部長が倒れたとき、わたしは真っ先に駆け寄った。

昼休みのざわめきの中、部長の姿がふらりと揺らぐのを見た瞬間、反射的に動いた。

「部長!」

肩を支えると、部長はかすかに笑った。

「土産話が、たくさんあるよ」


その時は意味がわからなかった。救急車が来て、部長は運ばれていった。

そして帰ってこなかった。


葬儀は家族葬だと聞いた。会社で黙祷した。



常務はかねがね、言っていた。

「本当は山本さんがこの席にいるはずだったのだ。代理で行ったわたしがなぜか出世した。こんなのはおかしい。山本さんのことを知っているわたしが恩を返す」



そして納骨の日、有志が集まった。常務が仕切っているのが不思議だった。

墓前で手を合わせる。


墓を見て気がついた。部長の家族の命日は全員、同じ日だった。



風が吹き抜ける。

部長のデスクに置かれていた写真。

わたしが入社して二十年間、一度も変わらなかった家族の姿。


誰かが質問したとき、部長はただ微笑んでこう答えていた。

「一番かわいい頃だからな」

その言葉の本当の意味。その言葉が含む悲しみ。誰も言葉を発せなかった。

わたしたちの目から、静かに涙がこぼれ落ちた。


「土産話が、たくさんあるよ」

部長の最後の言葉だ。


迎えに来た家族に部長が言ったんだ。だから部長はあんなに優しく微笑んだんだ。


家族を亡くした部長の人生を想像する。

仕事を続け、出張をこなし、部下たちに頼られ、穏やかに日々を過ごした。

机の写真は変わらなかった。でも、犬の写真が増えた。

公園へ行き、温泉へ行き、庭で桜を見た。

それを机の写真で知っている。

それは全部、家族への土産話となった。

だから部長は、あの時、微笑んでいたのかもしれない。

わたしは目を閉じて、風の音を聞いた。




誤字、脱字を教えていただきありがとうございます。

とても助かっております。


いつも読んでいただきありがとうございます!

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