10 山本部長 同僚目線
昼休み、山本部長は机に寄りかかるように座っていた。
なんとなく、今日は朝から元気がないようだ。
定年まであと一か月。延長して働いて欲しいとお願いしているが、まだ返事を貰ってない。
是非とも残って欲しい。頑張れば、人のいい部長は負けてしまっていいよって言うはずだ。
よし、お願いするぞと部長の机に向かった時、部長の体が揺れた。
『倒れる』体が動いた。
部長が倒れたとき、わたしは真っ先に駆け寄った。
昼休みのざわめきの中、部長の姿がふらりと揺らぐのを見た瞬間、反射的に動いた。
「部長!」
肩を支えると、部長はかすかに笑った。
「土産話が、たくさんあるよ」
その時は意味がわからなかった。救急車が来て、部長は運ばれていった。
そして帰ってこなかった。
葬儀は家族葬だと聞いた。会社で黙祷した。
常務はかねがね、言っていた。
「本当は山本さんがこの席にいるはずだったのだ。代理で行ったわたしがなぜか出世した。こんなのはおかしい。山本さんのことを知っているわたしが恩を返す」
そして納骨の日、有志が集まった。常務が仕切っているのが不思議だった。
墓前で手を合わせる。
墓を見て気がついた。部長の家族の命日は全員、同じ日だった。
風が吹き抜ける。
部長のデスクに置かれていた写真。
わたしが入社して二十年間、一度も変わらなかった家族の姿。
誰かが質問したとき、部長はただ微笑んでこう答えていた。
「一番かわいい頃だからな」
その言葉の本当の意味。その言葉が含む悲しみ。誰も言葉を発せなかった。
わたしたちの目から、静かに涙がこぼれ落ちた。
「土産話が、たくさんあるよ」
部長の最後の言葉だ。
迎えに来た家族に部長が言ったんだ。だから部長はあんなに優しく微笑んだんだ。
家族を亡くした部長の人生を想像する。
仕事を続け、出張をこなし、部下たちに頼られ、穏やかに日々を過ごした。
机の写真は変わらなかった。でも、犬の写真が増えた。
公園へ行き、温泉へ行き、庭で桜を見た。
それを机の写真で知っている。
それは全部、家族への土産話となった。
だから部長は、あの時、微笑んでいたのかもしれない。
わたしは目を閉じて、風の音を聞いた。
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