01 知らない番号
雪がやんだ。
駅前の土産物店に並ぶ菓子や小物を見ながら、俺は家族の顔を思い浮かべていた。息子は甘いものが好きだから、定番の白い恋人を。妻には手触りのいいストールがいいかもしれない。娘には・・・そうだ、あの木彫りのクマ。気に入るかもしれないな。いや、怒る顔が目に浮かぶ。娘が怒った顔は妻にそっくりだ。俺は最近目立って綺麗になった娘を思った。ストールも買っておいた方がいいな。妻とお揃いだ。
その時、スマホが鳴った。
知らない番号だ。普段なら無視するが、無言で出た。
「山本透さんですか?わたくし、吉野病院の者です」
悪い知らせだ。子供が怪我でもしたのか?
「はい、山本です」
そう答えた。夕方の飛行機を早いのに代えられるか?と咄嗟に思った。
そして次の言葉が、最悪のことを知らせてきた。
「ご家族が事故に」
俺はテキパキと動いていた。それをどこかで俺が見ていた。
飛行機を早い便に変更して、会社に連絡を入れた。お土産も予定通りに買った。会社の土産もちゃんと買った。
普段なら宅急便で送るお土産を、俺は抱えて飛行機に乗った。
病院の自動ドアが開くと、消毒薬の匂いが俺を包んだ。
荷物を抱えたまま、歩き出した。そして気がついた。どこに行けばいいのだ。
ロビーの受付で名乗る。
「山本弥生の家族の者です」
受付はさっと調べるとどこかに連絡を入れてから俺を見た。
「迎えが来ます」と簡単に言いながら長椅子を指した。
だが、すぐに呼びかけられた。
「山本透さんですね」
白衣の女性が俺を見た。その目には、すでに答えがあった。
可哀想な人を見る目だ。家族を失ってしまった気の毒な人を見る目だ。無駄に優しい目だ。
「あちらへ・・・」
声が優しいほど、胸の奥がひび割れる。俺はかすれた声で礼を言い、指された方向へ歩き出した。
足を踏み出すたびに、現実が重くのしかかる。
俺は、俺は・・・何をしに来たんだ。
会いに?それとも、別れに?
答えがほしい。でも、その答えを聞くのが怖い。
葬式が終わった。
俺は思ったより多い会葬者に頭を下げるのを繰り返した。その合間に妻の親御さんにも、謝罪とお礼を言った。
二人は一気に小さくなってしまっている。
お骨のそばに置かれた北海道土産をぼんやりと見ていた。
喪服のまま座る俺の横を、時間が通り過ぎていく。妻の妹が話しかけてきた。
「形見を少し下さい」
断りの余地などない。
俺はこの人が苦手だった。やんわりとした声。いやな感じの女だ。
彼女の手が妻のコートを抱える。これを買った時、娘がこっそりと俺にこう言った。
「お父さん、あれはすごく上等なんだって、カシミアだって。将来わたしも着るから長い目で見たら安いって。本当かな?」
やってくれたなと思ったが、まぁそうなったら安い買い物だ。ここは賛成して置くのが家庭の平和だ。そう思ったコートだ。
樟脳の匂いがふわりと広がる。和ダンスを開けているようだ。妻の和服姿が好きだった。
これも娘に譲ると言っていた真珠。そう言った物が次々と袋に詰め込まれていく。
「ねえ、これもいい?」
甥っ子の声がした。
振り向くと、義妹の子供が息子のゲーム機を抱えている。
春から中学に行く娘の制服がクローゼットから出されていた。妻も卒業した中学に頑張って入ったのに、娘がこれを着ることはない。
何か言おうとしたが、言葉が出なかった。
目の前で、俺の家族の形が崩れていく。服がなくなり、持ち物が減り、部屋の気配が変わっていく。
まるで彼らがここにいた痕跡すら、少しずつ消されていくような感覚だった。
祭壇に並べていた北海道土産に姪っ子が笑いながら手を出した。
「やめろ。それはだめだ」呪縛が取れたように俺は大声をだした。
「帰るよ」と妻の妹が二人に声をかけて出て行った。
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