表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/30

主文後回し

「あー、主文後回しされた。死刑かね?」


「主文後回しだと、死刑なの?」


「いいや、その可能性が高いだけだよ」


と研究員の方は優しく僕に教えてくれた。表情一つ変えずに、判決理由をアサトよりも真剣に傍聴席で聞いている彼。対してアサトはというと、ずっと俯いた様子で椅子に座って、授業中に寝ている僕のようだった。


春原 麻人は


「よって、被告人を死刑に処する」


死刑になった。

だけど、アサトは満面の笑みだった。それが僕は腸が煮えくり返るほど気に入らなくて、傍聴席の柵を飛び越えて、彼をぶん殴ろうと拳を振り上げた。が、暴力罪で現行犯逮捕がオチなので、その手で彼の胸ぐらを掴んで、背伸びをしながらキスをした。


「僕が絞首刑にするから、それまでに死んだら許さない」


「……ああ、ほんっと可愛いなァ♡♡」


アサトは僕を抱き寄せて、もう手離したくないようにギューッと強く抱き締めてくれた。


「春原死刑囚、少年を離しなさい!!」


「やーだねっ!」


彼は子供じみた無邪気な笑顔を警察へと向けると、僕を抱き上げてお姫様抱っこして、法廷から走り去った。そして、僕を抱えたまま彼はトイレの個室へと逃げ隠れた。


「逃亡するの?」


僕は彼の腕から降ろされるや否や、まず疑問に思っていたことを口にした。


「いいや、少しだけ時間が欲しい。君を愛する時間が」


とアサトは恍惚とした表情で僕の頬を撫でる。僕の恋心がまたアサトへと揺れ動く。


「……愛してるんだ、僕なんかを」


「もちろん、愛しているさ。俺にとって、君は特別なんだよ」


いつもの僕を慰めるときの優しい口調。僕の自尊心が補われていく。


「何で?僕のこと嫌いって言ったじゃん……」


「あ?そんなん言ったっけ??」


彼は思い出せないと言いたげな顔をした。


「お、覚えてないの?」


「きっと君が俺に執着して、人生を棒に振るのを恐れたんだよ。だから、それは俺の優しい嘘だね」


アサトが僕に言った「嫌い」は僕のためを思った「優しい嘘」だった。


「……そうだったんだ」


僕はアサトが死にたがりだから、アサトに嫌いって言われたから、ムカついて「大っ嫌い」って勢いで言っちゃってた。僕ってまだまだ幼稚で、天才で大人なアサトとは釣り合わないと、また思い知らされるみたい。


「でも、今はルイくんと幸せに暮らしてるみたいで良かったよ」


「それだけ?言いたいことは」


「……ホダカ、愛してるよ。死ぬ前にちゃんと伝えておきたくて」


彼は不格好に顔を赤らめて情けなさそうに笑った。


「この、エゴイスト……!だから、嫌いなんだよ……」


最後の最後になるまで、アサトは本心を言わない。僕の心を奪ってから死のうとするくせに、僕には忘れてくれって矛盾を言うんだ。


「そっか。それでも愛してるよ」


彼は僕を抱き締める。その鎖が付いた両手でぎゅっとして離さない。


「……アサト」


「何?」


「僕もアサトのこと、愛してるよ」


彼の腕の中で、僕はやっと本心が言えた。勿論、ルイくんのことも好きだし、ルイくんと付き合えて楽しいことばかりだ。だけど、そんな日々の中でアサトのことを忘れたことは一日たりとも無い。それくらい僕はアサトに心を奪われている。


「じゃあ、俺のこと殺してくれるよなァ?ホダカ」


「……え?」


この、エゴイストめ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ