主文後回し
「あー、主文後回しされた。死刑かね?」
「主文後回しだと、死刑なの?」
「いいや、その可能性が高いだけだよ」
と研究員の方は優しく僕に教えてくれた。表情一つ変えずに、判決理由をアサトよりも真剣に傍聴席で聞いている彼。対してアサトはというと、ずっと俯いた様子で椅子に座って、授業中に寝ている僕のようだった。
春原 麻人は
「よって、被告人を死刑に処する」
死刑になった。
だけど、アサトは満面の笑みだった。それが僕は腸が煮えくり返るほど気に入らなくて、傍聴席の柵を飛び越えて、彼をぶん殴ろうと拳を振り上げた。が、暴力罪で現行犯逮捕がオチなので、その手で彼の胸ぐらを掴んで、背伸びをしながらキスをした。
「僕が絞首刑にするから、それまでに死んだら許さない」
「……ああ、ほんっと可愛いなァ♡♡」
アサトは僕を抱き寄せて、もう手離したくないようにギューッと強く抱き締めてくれた。
「春原死刑囚、少年を離しなさい!!」
「やーだねっ!」
彼は子供じみた無邪気な笑顔を警察へと向けると、僕を抱き上げてお姫様抱っこして、法廷から走り去った。そして、僕を抱えたまま彼はトイレの個室へと逃げ隠れた。
「逃亡するの?」
僕は彼の腕から降ろされるや否や、まず疑問に思っていたことを口にした。
「いいや、少しだけ時間が欲しい。君を愛する時間が」
とアサトは恍惚とした表情で僕の頬を撫でる。僕の恋心がまたアサトへと揺れ動く。
「……愛してるんだ、僕なんかを」
「もちろん、愛しているさ。俺にとって、君は特別なんだよ」
いつもの僕を慰めるときの優しい口調。僕の自尊心が補われていく。
「何で?僕のこと嫌いって言ったじゃん……」
「あ?そんなん言ったっけ??」
彼は思い出せないと言いたげな顔をした。
「お、覚えてないの?」
「きっと君が俺に執着して、人生を棒に振るのを恐れたんだよ。だから、それは俺の優しい嘘だね」
アサトが僕に言った「嫌い」は僕のためを思った「優しい嘘」だった。
「……そうだったんだ」
僕はアサトが死にたがりだから、アサトに嫌いって言われたから、ムカついて「大っ嫌い」って勢いで言っちゃってた。僕ってまだまだ幼稚で、天才で大人なアサトとは釣り合わないと、また思い知らされるみたい。
「でも、今はルイくんと幸せに暮らしてるみたいで良かったよ」
「それだけ?言いたいことは」
「……ホダカ、愛してるよ。死ぬ前にちゃんと伝えておきたくて」
彼は不格好に顔を赤らめて情けなさそうに笑った。
「この、エゴイスト……!だから、嫌いなんだよ……」
最後の最後になるまで、アサトは本心を言わない。僕の心を奪ってから死のうとするくせに、僕には忘れてくれって矛盾を言うんだ。
「そっか。それでも愛してるよ」
彼は僕を抱き締める。その鎖が付いた両手でぎゅっとして離さない。
「……アサト」
「何?」
「僕もアサトのこと、愛してるよ」
彼の腕の中で、僕はやっと本心が言えた。勿論、ルイくんのことも好きだし、ルイくんと付き合えて楽しいことばかりだ。だけど、そんな日々の中でアサトのことを忘れたことは一日たりとも無い。それくらい僕はアサトに心を奪われている。
「じゃあ、俺のこと殺してくれるよなァ?ホダカ」
「……え?」
この、エゴイストめ。




