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非モテの僻み

「ホダカくん、ありがとう。アサトを救ってくれようとして……」


ニュース番組では、鉛筆画の僕とアサト。僕の勝負パンツのくだりは案の定弾かれてて、医学の衰退、死刑はご褒美発言が大々的に取り上げられている。


「ううん、アイツ、僕に『忘れて』って言ってきたんだ。ふふっ、トラウマを刻み込んだのはお前だろ、ってクソムカついたぁ!」


僕は何だかニュース番組で流れているできごとがもう遠い過去の話のようで、両手を上げて伸びをしながら、笑談した。


「じゃあ、何で笑ってんの?」


ってその頬っぺたをつままれる。


「いいい痛っ、だって……あーあ、ムカつく」


好きになったらいけない人。もう好きじゃないはずの人。なのに、あの思い出の数々が、痛みも悲しみも全部丸め込んで楽しいで収まっていく。忘れてって言われても消化不良で僕の中に居座ってて、嫌いって口先で言っても、それを上回るほど好きなんだろうな。認めたくない。興味ないそぶり見せても、目線はちらちらと彼を盗み見てる。


「素直じゃない。まあ、いいや。どこまでやった?」


僕らの裁判のニュースが終わると、僕の家庭教師は僕のノートを見て、「ふーん」って頷いてる。


「結構、僕もやるでしょ?」


僕が鼻にかけて、ここまで解いたと、ワークを指差し主張すると、


「うん、タイマーかけよっか」


と僕の思いを汲まれず、冷酷にもダラダラやったと見なされて、タイマーでギリギリ終わりそうにない時間設定でスタートされる。だって、さっきまでニュース見てたし、話してたじゃん。なんて不満抱えながら、ダラダラやるのは時間の無駄だし、勉強時間が長引くだけだからストレスだと、本当は僕の思いを汲んでるんだと、手を動かして脳内フル回転。


「あああ"あ"、疲れた。もう嫌だ、もうやんない……」


「おおっ!!でも、時間通りに終わったね。ホダカくん、やっぱ天才なんじゃない?」


ノートが赤い丸で埋め尽くされていく。そして、先生は僕のことを言葉巧みに褒めちぎってくれる。


「本物の天才にお世辞で天才って言われてもなぁ……」


僕はすごく疲れて机に突っ伏して、前髪を無意味にいじりながら、ひねくれたことを言った。


「何か、若い頃のアサトに似てるね」


「え!?本当!??先生、アサトのこといつから知ってんの???」


僕はその話を聞いて、一気に目が覚めた。みんなアサトとは大学院でこの研究室で会ったものだとばかり思ってたから、その可能性があることを見落としていた。


「高校の時から知ってるよ?同じ高校で、同じ部活で、アサトは俺の一個下の後輩だった」


「へえ、何部だったの?」


「理研、理科研究部。ふふっ、今と変わんないね!」


そうやって思い出話に花を咲かせる彼は楽しそうで、僕はもっともっと詳細まで聞きたくなってきた。


「仲良かったんだ!」


「そう、かな?アサトからは敵視されてたけど」


アサトの高校生時代なんて想像できなかったけど、今と変わらずヤバい奴なんだろうなってことは理解できた。こんな温厚な彼を敵視するとか何事??


「何で!??」


「気に食わなかったんだろうね。俺みたいな、適当な人間が……」


どんどん表情が曇っていく。


「適当じゃないよ!!僕のこと、ちゃんと見てくれてるじゃん!!」


アサトのが自己中で、非難されるべきだと、僕は声を大にして彼に言い聞かせた。


「ありがとう。でも、高校生の時のアサトには、俺がそう写ったんだろうね。だから『世の中、結局運なんですね』とか『努力って言葉、知ってますか?』とか、散々傷付くこと言われたよ」


彼は情けなさそうにそう思い出話をする。


「酷い!!最低!!今からでもぶん殴っていいよ!!」


僕はそれはアサトのが悪いと思って、自分のことじゃないのに何故か怒ってそう言っていた。だけど、彼は優しいからそれを否定して、


「いや、ダメだって!だけど、アサトから嫉妬されるなんてあれっきりもうないなぁ。今やアサトのが天才だからね」


過去の虚しさに浸ってる。


「何でこの研究室入ったの?そんなに言われて、アサトのこと嫌いじゃないの?」


「嫌いなときはもちろんあったけど、それ以上に、面白い奴だなぁ、ってのが勝っちゃって。俺が卒業する時に『いずれ絶対に、先輩には勝ちます』って悔し涙なんか流されたらもうさ、憎むに憎めないじゃん?」


何そのエピソード、可愛すぎる。それで同じ大学についてきて、同じ研究室入って、アサトのが先に功績を出した、と。


「いいライバル同士だったんだね」


「うん、今は普通に仲良いからね。あー、あのアサトが死ぬのかぁ。『天才って、常軌を逸した努力をした人だけが得られる名声だと、やっと分かりました』って飲み会で謝罪してきたアサトが……」


アサトのことを若干からかった声真似して、でもそれでは払拭できないくらい、死が齎す悲しみの重さが大きかった。


「いいなぁ、アサトを可愛がられるポジションで。僕なんか赤ちゃんにしか見られてない」


「ふふっ、俺達もいい歳したおっさんだからね。ホダカくんが産まれた時は丁度、高校生ぐらい?」


ということはもし妊娠させてたら、僕と同年代の息子がいてもおかしくない。だったら、アサトのアレは恋愛的なものじゃなくて家族的な愛情?


「彼女いたの?」


「まあ、流行りの髪型とか着こなしとかしてれば、それなりにチヤホヤされたね。髪の毛にヘアピンぶっ刺してツンツンさせてた」


「えー、想像できない。頭のいいギャル男とか」


髪の毛をツンツンさせても頭は切れるし、腰パンしてても尻拭いはできる。見た目はギャル男で中身は天才。勉強も女の子も扱うのと遇うのが上手そう。


「だけどアサトは高校生時代から今のまんま、真面目に研究してて周囲と馴れ合わない異端児だったね」


アサトの高校時代を聞けば聞くほど、アサトは他のことが見えなくなるくらい研究に没頭してて、でも、成果が実感できてなくて、超陰キャのアサトから見た超陽キャの彼はそれこそ目障りだったんだろう。


「じゃあ、非モテの僻みだね」


言われてみれば、アサトの恋愛観はとても素直だ。偽りのない自分を認めて、愛して欲しい。それがアサトという人間だと思う。そして超がつくほどのエゴイスト。自分の思い通りにならなければ命を刺し出して、人生ゲームオーバー。裏を返せば、それが彼のプライドなんだ。彼にとって、ゾンビ幹細胞は最後の希望。どんな罪悪感に飲まれそうでも希死念慮の免罪符。そうやって、今まで生きてきたんだろう。てか、そもそも何故ルナちゃんは死んだ?その答えは高校生時代からのアサトの先輩、僕の先生に聞いても分からなかった。僕には分かる、アサトは最後の最後になるまで、僕と馴れ合おうとしなかった。僕のことを意識的にくん呼びした。

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