疑わしきは罰せず
二回目の裁判は僕が中三になってからだった。そうなると傷跡も薄くなってきて、世間からもあまり騒がれなくなっていた。
「あっ!!あれって、西城 ヒスイくんじゃない!??」
裁判所まで電車と足を使って向かっていると、女子高生の方々が僕を見てキャッキャッと騒いでいる。
「残念、俺の彼氏のホダカくんでーす♡」
とその隣りでルイくんが小声でそう言いながら、僕と仲睦まじそうに肩を組んで、彼女達に見せ付けた。
「待って、その隣りにいるイケメン誰!??」
「僕の彼氏のルイくんだね♡」
って僕は彼を真似て、彼と仲睦まじく見つめ合って微笑んだ。ヒダカには悪いことをしたと思うが、きゃーっ♡と能天気に盛り上がってる彼女達が悪いと思った。
法廷に着くと、長い間会っていなかった父親の隣りに、「お久しぶり」って意味ありげに笑って、穏やかな気分で座った。
「いつ見てもムカつく顔だよな」
「ふふっ、ヒダカと同じ顔じゃない?」
「今日は邪魔するなよ」
アサトが法廷に入ってきた。相変わらずニヤけた顔でもはやラボのような安心感だ。傍聴席にはルイくんが小さく手を振っている。
「それでは開廷します」
第一回と違うところがあるとすれば、殺人罪が嘱託殺人罪になり、その人数が僕だけじゃなくなったことだ。僕はアサトの罪を軽くしようとして、さらに罪を重くしてしまったようだ。
「間違いないです」
アサトは太陽のような晴れやかな笑顔を裁判官に向ける。僕は今日、本当に言うことがない。証人として、証言台に立つまで何を話そうか考えていたが、何も思い付かなかったから、
「今日は僕の勝負パンツを履いてきました。僕の彼氏もここに応援に来てくれています。僕は春原 アサトに人生を狂わされた一人だと世間に思われていますが、僕の人生をもっと狂わせているのは僕の彼氏だと思います。あっ、こんなところで彼氏自慢しちゃって、すいません。でも、僕がここで言いたいのは、精神的にも肉体的にも何も苦痛は無く、今はとても幸せです。だから、春原 アサトがストックホルム症候群って、過去の僕のことを罵ったのも、あながち間違ってないって思いました。ごめんなさい、それだけです」
と僕の気の変わりようを自分のことながら恐ろしく思いながら、適当に言葉を並べた。アサトはそんな僕のスピーチで笑ってた。
「あははっ、何か告白されたのに振られたみたいな形容しがたい感情ですね。でもまあ、ホダカくんにも他の研究員の方々にもご迷惑をおかけしたので、俺の遺産を贈与したいと思います。ホダカくん、何が欲しい?いくら欲しい?」
この時アサトは証言台から直接僕に話しかけてきた。やっぱり死ぬ前提で。証言台に横向いて、肘なんか付いて態度悪く。
「僕はチョコレートケーキが食べたい」
「ふふっ、好きだなァお前。そんなんでいいのかよ。お父さん怒るんじゃない?」
ってアサトは態とそんなこと言って、父親に僕を殴らせないようにした。まあ、そんなこと言ったって、後で殴ろうとするんだろうから、僕だってその前に逃げるよ。
「被告人、裁判に関係ないことは慎むように」
「はいはい、わかったよ」
あ、この返事、久々に聞いた。弁護士の人が胃を抱えてる。……可哀想に。アサトの弁護人は「嘱託殺人であることと医学の進歩のための行為であることから、情状酌量の余地がある」として執行猶予付き懲役17年を求めたが、検察官は「事件内容が残忍で非人道的であることと複数人殺害していて常習性があることから、情状酌量の余地はない」として死刑にしようとしている。さらに、アサトの反省の色が見えない態度は裁判官からの印象が良くない。ここから、アサトを死刑にしない方法は、
「僕は、春原 アサトを刑務所に入れることは医学の衰退に繋がると思います。疑わしきは罰せず、に法ると、春原 アサトは次期ノーベル医学生理学賞の最有力候補で、ノーベル賞を取るかどうか疑わしいです。なので、春原 アサトは国益のために研究を続けさせた方がいいと思います」
と立ち上がって堂々と主張した。別にアサトが好きなわけじゃない。ただ、このまま何もしなかったら、研究所のみんなに合わせる顔がないからだ。研究所のみんなにはお世話になっている。おかげで2年生の学年末テストでは学年の中で10位を取ることができた。言葉遣いだって、うまく矯正して話せるようになった。心地いい衣食住の環境、全てを与えてくれている。だから、彼らのために僕はアサトを取り戻す。
「ふふっ、その"疑わしき"じゃないだろ」
アサトは僕のことを馬鹿にしたように笑う。だから、ムカついて、
「さらに!裁判長、春原 アサトは自殺しようとしています。死刑になりたくて、こんな態度を取っています。よって、彼への罰は死刑じゃない。彼にとって、死刑はご褒美だ!!」
と言い切った。裁判長は少し悩んだ様子を見せて、
「被告人、証人の言っていることは事実ですか?」
とアサトに聞いた。アサトは唇を突き出して、ちょっと考えてから、
「……研究が続けられんなら、死にたかねぇけど。まあそんな我儘、裁判官様はお聞きしちゃあくれねぇよなァ?だったら、潔く死刑にしてくれよ」
と裁判官全員を敵に回す発言をした。僕がどれだけフォローしようとも彼は人をムカつかせる天才だと思った。
「本日は、これで閉廷します」




