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悪いことをしてる気分

ルイくんとの恋人ごっこの日々がスタートした。授業は机をピタッとくっつけて勉強して、休み時間はルイくんの好きなアニメ鑑賞に、先生の目を盗んで抱きしめられたり、頬にキスされたり、給食の時間は僕にご飯を食べさせてくれて、放課後は彼の家に寄って、勉強会と称したイチャイチャタイムだ。


「ホダカのお父さんとお母さんってどんな人なの?」


ルイくんの膝枕を堪能しながら、幼児向け番組をぼーっと見ていた。


「えっと、そうだなぁ……厳格な人、かな?」


「ゲンカク??」


「とーっても僕に厳しい人達なんだ。僕はあまり好きじゃない」


「そうなんだ。じゃあ、ホダカもここで暮らせればいいのに」


「ルイくんの家族の迷惑になっちゃうよ」


と言っても、あの日から家族と一度も会っていないし、連絡もしていない。僕の食費や交通費は研究費から賄われていて、これはこれで迷惑をかけているのだけど、君に野垂れ死にされたら困る研究員がいっぱいいると熱弁された。


「ううん、俺の家族は子どもが一人で寂しいって。たくさん友達連れてきてって、いつも言われてる」


「ルイくんのお父さんとお母さんはどんな人なの?」


「呼んでこようか?ちょっと待ってて」


「え、」


何の心の準備なしに、ルイくんがパパンとママンを呼びに行ってしまった。僕は、とりあえず幼稚なテレビを消して、スマホで髪型を確認して、制服のシワをのばした。ああああ、緊張する。ドアが開く。僕はナイストゥーミーユーをたどたどしく言って、お辞儀した。ルイくんが僕のことを二人に早口のよく分からない言語で説明している。ルイくんの通訳とカタコトの英語で頑張って話したが、パパンはミシェル、ママンはエマの正真正銘、理想の外国人家庭像だった。


「俺が家族の中で一番、日本語が上手なんだ」


ルイくんがそう自慢げに言うと、ママンがこの子はアニメ大好きなのよ、と趣味を肯定してくれている。これが僕の母親ならば、絵が下手なのに時間の無駄だとか、ゲームなんか高級品だとか、色々といちゃもんを付けて、勉強以外は堂々とできない環境作りをされているところだ。


「ルイくんのご両親、とてもいい人達なんだね」


「うん、ホダカのことも気に入ってたよ」


「恋人だって、言ったの?」


「それはまだ内緒っ♡」


そうやって抱き締められて、恋人みたいなキスをする。ホダカの両親にも会いたいってルイくんは言ってたけど、会わない方が全てが平和にいくことを必死に伝えた。


「明日、アサトと裁判所で会うんだ。何を言えばいいんだろう?」


「ホダカが思ってることを言えばいいよ。称賛でも悪口でも何でも。言いたいことをぶつけて、気持ちに整理が付けられれば、それがいいと思う」


ルイくんはアサトのことが嫌いだろうに、僕が彼に称賛の言葉を送ることを、いいと許可してくれた。僕の気持ちを一番に考えてくれるルイくんは同い年なのに、何だか大人っぽくって、アサトのが自己中で子供っぽく思えた。


「『大っ嫌い』って言っちゃえば、アサトは傷付くかな?それとも、喜ぶのかな?」


「言ってみなきゃ分かんないね」


その言葉を僕に言って欲しそうに、彼は悪そうに笑いながらそう僕に諭した。僕自身も悩んでいる。アサトが明日、僕に嫌って欲しそうだったら、僕は嫌いって演技をする。僕にそこまで深くアサトの感情を読み取れる能力があれば、だけれど。


「あのさ、ルイくんは僕のどんなところが好きなの?」


「んー、とにかく存在が可愛いところ♡」


僕は今、ルイくんの大きなベッドで彼と向かい合って寝ている。そして、イチャつきたい彼は僕の腰に手を回して、お互いの身体を密着させた。彼は自分の愛玩のように僕を扱い、よく僕の頬や髪を撫でる。僕達はもう男子中学生だからキスの続きだって知っている。ベッドの中でこうやってキスをされていると頭がふわふわとしてきて、真っ白になりそうだ、


「……他には?」


「こうやって、俺がキスすると照れるところとか?」


「それは、当たり前じゃん……好き、なんだから……」


キスされて照れるのは当たり前。逆に照れなかったらそれは不感症か、そいつのことが好きじゃないってことだ。ルイくんだって、照れてるじゃん。それが嬉しい。


「ホダカ、すっごく可愛いよ♡♡」


死にたくなるほどの甘々な言葉でルイくんは僕を埋めつくしてくれる。僕は甘言は信じられない人間だけれど、それ以上にそれらの言葉を刷り込まれていくから、頭ん中が狂ってくる。僕なんかが愛されるわけがない、って心の中で思っていながら、愛されてるって感じてしまう。これは時間制限付きのボーナスステージ。僕の人生に、本来こんなのはあってはいけない。


「ルイくん、もっと僕に触って?」


彼の手を取って、お腹の方から自分のシャツの中へと入れる。変態じみている。けれど、皮膚という隔たりさえ無くして、彼に触れてみたかった。触れられてみたかった。僕の心臓が起こす振動が彼の手に伝わる。


「ふふっ、ホダカの心臓、ドキドキしてるね!」


「そうじゃなきゃ、僕は死んでるよ」


「そっか、ホダカが生きてる証拠だ」


と僕の身体のあちこちを手探りで撫でてくれる。くすぐったくもあったが、ついつい顔が綻んだ。


「ルイくんのことも触りたい……」


僕は気持ちが昂ってきて、彼の身体をシャツの上から指でなぞる。ルイくんは僕に甘いから、赤面しながらも、シャツを脱いでくれて、上裸状態でまた僕の目の前に寝転んだ。


「こんなことならもっと鍛えておくべきだったなぁ」


と照れ笑いする彼の身体は、僕の貧相な身体とは違い、綺麗に筋肉が付いており、程よく引き締まってて、競走馬のお尻の筋肉みたいに靱やかであった。彼が動く度にそれを支えている筋肉の動きに、見蕩れた。


「ううん、彫刻みたいに綺麗だよ」


「穴があいちゃうって、そんなに見られたら」


この肉体美を間近で見られることに感動して、人間は美しいものを目の前にすると触れてみたいという衝動に駆られ、それの解像度を上げようと試みるものだと謎に達観した。だから僕は、彼の胸に能動的にキスをした。今まで受動的にキスされていたのが嘘みたいに、自分から、何回も。でも待て、キスしているうちに、ショートした頭の回路が何本か繋がって、果たしてルイくんは僕にこんなことをされて嬉しいのだろうか?いや、そんなことない。と自分の気持ち悪さに興ざめしてしまった。


「ごめん。嫌だったよね?」


と僕が顔を上げると、ルイくんは僕からわざと目を逸らして、僕に背中を向けて、身体を丸く縮こませた。


「……ホダカは何処まで知ってるの?愛するという行為を」


「それは、たぶん最後まで知ってる。知識として」


愛する行為の最終形態はセックスだと思ってる。けれど、愛がなくてもできてしまう人間もいるというのが事実だ。ルイくんは、どっちだ?


「俺も、知ってる。けど、これが君への愛なのか、好奇心なのか性欲なのか、よく分からなくて、怖い……」


彼は、弱っていた。僕に身体をキスされて、嫌悪したのか興奮したのか、畏縮している。


「ルイくん、僕に発情した?」


とんちんかんな質問だってのは、僕が一番よく分かってる。でも、そうやって僕に背を向けて、向き合おうとしない態度は嫌だった。僕は、自分のシャツのボタンを外して、僕自身を彼に見てもらおうと、彼の肩をゆする。


「ホダカの身体は痩せすぎだね。肋骨が浮き出てるじゃん」


ルイくんは僕の身体を見ると、眠たそうな目を細めて、僕の肋骨の線を指でなぞる。僕への性欲なんてさらさらない様子で。


「こんな身体、抱けないでしょ」


「ううん、抱き締められるよ」


って、彼は上裸のまま僕の身体を抱きしめてきた。抱くってそういうことじゃないんだけど。って思いながらも他人の肌が自分の肌と触れ合うのが新鮮で、僕の骨と皮だけの傷だらけの身体は、ルイくんの弾力のある健康体に溶け込んでしまいそうだ。


「何だか、悪いことをしてる気分」


「悪くないよ、俺達は愛し合ってるんだから」


ルイくんは僕によくそう言ってくれるけど、実際にルイくんは僕を愛していないと思う。彼はただ僕の表面的な皮が好きなだけだ。彼はまだ僕の内側の変態でクズでグロテスクな部分を知らない。今、彼の腕に抱かれながら、僕が勃起していると彼が知ったら、飼い犬が自分に対して勃起しているのと同じような嫌悪感を彼は抱くだろう。

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