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スキル管理

 書庫に入って三日が経った。


「よし! 何となく分かったぞ!」


 開いていた分厚い書籍をバン! と閉じ、椅子に座ったまま背伸びをしながら俺は誰もいない空間で声を出した。


「つまり、このまま調べ続ければ俺でもスキルのシステムを理解できるってことだな……それにしても読みにくい解説書だった……わざと読みにくくしてるのか、それとも『読みやすくする』って考えが神様たちには必要ないのかもしれないな」


 俺は、転生を司る女神をして苦手だと言わせたスキルシステムの大枠を理解し始めていた。そして、チートスキルがもらえないなら、自らチートをしようと当面の目標を決めていた。


「さて……そのためには女神サマにいくつか質問をしないと……」


 俺は資料を閉じると大きく伸びをして、首を左右にひねりながら立ち上がった。久しぶりに立ち上がった様な気がするなと少しふらつく足を見て思いながら女神がいた部屋に戻った。


「あーよかった。帰ってきた」


 俺が白い部屋に戻ると、女神が顔を上げホッとした声で言った。女神の前には乱雑に置かれた紙の束。『仕事』中らしい。


「すいません。心配かけましたか?」


「心配とは少し違うかしら。ここには疲労も空腹もないから何かに夢中になると文字通り寝食を忘れることができるわけ。でも心は普通に疲れるから……」


 女神がそこで言葉を終えたので俺は尋ねる。


「疲れるから、何です?」


「……狂うわよ。クス」


 イタズラっぽく笑う女神。言われると確かに疲れてるなとも思った。自分では狂うほど疲れたとは思わないが、自分で自分のことを狂ったと認識することは難しい。少しボーっとした頭でそのことに気付き青ざめる。


「そういうことは早めに言ってもらえませんかね? でも、心配していないなら何が『よかった』んです?」


「だってほら、狂っちゃったらスキルも選べないし、転生先でどうなっちゃうか分からないでしょ? そもそも転生できなくなったりしたら一番困るし……クスクス」


 女神が、少し驚いた表情で答える。何を当たり前のことを……といった表情だ。


「まあ、いいっす。ところで質問いいですか?」


「いいけど……何?」


 女神サマが警戒した表情になる。また難しい質問が来ないか警戒ているのだろう。俺のような、たかだか転生者の質問に答えられないというのは転生を司る神としては不名誉なのかもしれない。


「お借りしたこの資料、メモとか書き込んでもいいっすか?」


「え? うん。いいんじゃないかな? 禁止されてはいないと思うよ……ん、これ、使う?」


 女神がホッとした表情で答え、羽根ペンとインク壷を差し出した。俺は礼を言って受け取る。


「次の質問です。もし俺がスキルシステムのチートを見つけたら、それはすぐに修正されますか?」


 俺の質問に、女神は顎に手をあてて真剣な表情で俯く。


「チートって、ズルのことよね? 今までも偶然にズルが見つかったことはあるけどスキルの内容が更新されるまでは大丈夫のはずよ。それに転生者にはこの部屋に入った時点でのルールが適用されるから……『フソキュー』とか何とか……うん。あなたに適用されるのは現時点のルールのはずよ。クス」


「ああ、遡及適応はされないってことですね。なるほど……ありがとうございます。ところで、この間スキルが矛盾した場合のルールを質問しましたよね? あれの答え、分かりましたよ」


 俺が伝えると、女神は答えを知りたい気持ちと転生者から知識を教わる悔しさが混ざった複雑な表情をした。


「プラスとマイナスのそれぞれ一番強いスキル一つの効果が相殺されます。【剛力】は膂力の三倍加、【非力】は膂力が三分の一に低下ですから、影響の大きさとして考えると上昇が300%で低下が66%ですね。差し引き234%の上昇です。【非力】の影響はまぁ、無視できると言えるでしょう」


 頭の中で必死に数字を追いかけているのだろう。少し上を向きながら必死に話を理解しようとしている女神に俺は続ける。


「ネガティブスキルの場合、影響は最大で100%と想定できますから、同一系統で二倍加以上のポジティブスキルを一つ取得すれば、ネガティブスキルの影響は打ち消せます」


 俺は前世でバグを見つけたときのようにゆっくりと説明しているつもりだが、そんな話を聞くことがない女神は急に複雑な話をされてしまい必死に頭を回転させていた。


「【非力】を代償に取れるポジティブスキルはまだ沢山ありますから、Cランクスキルの【剛力】を一つ取るだけで相当な数のポジティブスキルをノーリスクで取れることになります。この考え方が合っているなら……」


「ちょ、ちょっと待ってね、えーと……」


 女神が片手を突き出し話を制止する。こんな話をされるのは初めてなのだろう。しかしこの話が割と重大なチートとして機能してしまうことは理解してもらえたようだ。


「うん。ちょっと神様に相談してくる! 待ってて!」


「あ、ちょっと!」


 俺は、それならもっと確認して欲しいことがあるのに、と手を伸ばして声を掛けたが、女神はピューっと言う効果音が似合いそうな走り方で部屋を出て行った。


「神様って、自分も神様なんじゃ……まあいっか、せっかくペンも借りたし、情報の整理をしておこう」


 俺は女神サマから借りた資料の余白ページに、この3日間で知った中で特に重要な情報を書いていく。【物覚え】スキルのおかげで情報はいつでも頭の中で引き出せるが、俺は思い出す作業と考える作業を同時に行うのは苦手であった。何かを考える時にはその材料が目の前にあった方が考えがまとまると、いつも画面や紙を見ながら考えをまとめていた。


――スキルは、スキル系統に属するらしいが割と曖昧で、明示されていないスキル系統も存在しそう。


――スキルはランクアップする。確定的にランクアップするものと確率的にランクアップするものがあるらしい。【物覚え】は【記憶術】を経て【絶対記憶】に上がるらしい。どれくらい使うと上がるのかは未だ不明。


――スキルそのものを制御するためのスキルがあり、一つのスキル系統を構成すると考えられる。女神が使っていた【スキル付与】はおそらくその系統に属する。他にもスキルを無効化したりスキルを発動するためのスキルが散見される。仮に『制御系スキル』と名づけることにする。


――スキルの仕様は時々調整されている。どれくらいの頻度で調整されているか不明。近々女神が帰ってくれば分かりそう。


――ネガティブスキルは影響が大きいものでもマイナス66%(三分の一倍)にとどまるものが多い。よって同一系統のスキルは影響がプラスとマイナスのそれぞれ最も大きい一つのみが効果を持つというルールに基づきポジティブスキルで二倍加を得れば無視できる。これを応用すれば同一のネガティブスキルを代償に得られる全てのポジティブスキルを取得可能。実際にできるか女神が調査中。


――スキルの取得に必要なスキルポイントの一覧を見たい。どこかにはありそうなのだが……


――スキルは全て合わせると一万個を超えるようだ。


「うん。何となく見えてきたな」


 俺は、女神が帰ってきたら【計算】スキルを貰おうと思った。そして勝手に名づけた『制御系スキル』の組み合わせによりチートの余地をあぶり出す。それを当面の目標にすることにした。


―――――――――――――――

――【計算】数値を用いた計算速度二倍加。論理的思考の速度二倍加。

―――――――――――――――


 女神はどれくらいで帰ってくるのか。待ち遠しいなと思いながら俺は少し休むことにし、女神が座っていた椅子を借りてくつろいだ。目をつぶって3日間で見たスキルを思い返しているといつの間にか気持ちよく眠りに落ちていた。



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