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bet on 10分に賭ける  作者: 吉村アキラ
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プロローグ

 『単勝9番1890円』

京都競馬場にいる。100円が約19倍になる。なかなかの高配当の馬が来た。場内は穴馬の台頭に湧いている。こんな、馬を買っていたら、普通の人なら興奮が冷めないはずだ。冷めきった俺の手元には、9番の単勝に1万円分。約18万円の勝ち馬券があった。馬券を払い戻す。機械は馬券を吸い込むと、ガガガッという音を立てて、18枚の万札を吐き出した。大量の札束を財布にしまい駅に向かい歩く。俺にとっては、これくらいの勝ちは日常だ。言葉のあやでも、見栄をはってるわけでもない。俺は、1レースたりとも競馬で負けたことはない。予想が上手いわけではない。ただ、分かるのだ。


 『10分後の未来を見ることができる』


 俺は、世間一般で言う、『予知能力』を持っている。だからって、人類滅亡の日が分かるわけでもない。それどころか、宝くじの当選番号さえ、わからない。だが、競馬で日銭を目立たないように稼ぐことはできる。高い志も無ければ、英雄になりたいとも思わない俺にとっては、十分すぎる能力だ。

 この、能力に気付いたのは、20歳の時だ。俺は、決して裕福とは言えない家庭で育った。いわゆる、母子家庭ってヤツだ。俺の親父は、俺が4歳の時に、行方不明になった。ジャーナリストだった父は、よく海外に行っていたのだが、行く前に必ず、

 「いいか、エイジ。お父さんがいない時は、お前がお母さんを守るんだぞ。」

 と俺に言ってきた。4歳の息子にそう言う父親は端から見たら、変わり者だと思う。でも、俺は嫌いじゃなかった。俺を一人前と認めてくれるような気がして嬉しかった。

 父の帰国予定日に、空港に母と迎えに行ったが、父は空港に現れなかった。そこから、待てど、暮らせど、父は、帰ってこなかった。父が、行方をくらませて3年が経った頃、母がこう言った。

 「お父さんがどうなったかもわからないから、泣くに泣けないよね。」

 嘘だ。俺が寝てる時、毎日泣いてるのを知ってる。父が大好きなカレーの材料を毎日切らさないようにしてるのを知っている。

 俺が母さんを守る。

 子供ながらにそう誓った。母を守れる強い男になると決めた。それから、空手とか、少林寺拳法とボクシングと格闘技をいろいろやりだした。もちろん、勉強も手を抜かなかった。特に、高校時代は、死ぬ気で勉強した。その結果、一流と呼ばれる国立大学に入学できた。あとは、国家公務員にでもなれば、母に恩返しができる。そう思った。だけど、現実は、残酷だった。

 俺が20歳の時、母は他界した。過労だった。

 その日のことは、あまり、思い出したくない。だから、一つだけ。俺は、その日泣き崩れた。強くなると誓った日から13年泣いたことはなかった。でも、その日は、涙が枯れるほどに泣いた。

 何が守るだ! 守られてたのは、俺じゃないか…。

 通夜だ、葬式だを終え、数日後、学校へ行った。友達に誘われて、酒を吐くほどに飲み、遊びつくした。翌朝、友達に誘われるがままに、競馬に行った。全財産を使い切ってやろうと思い、口座の20万全額を下ろした。使い切って死のうと思った。その時、走馬灯のようなものがよぎった。

 『単勝3番480円。 うわぁー、2番人気かよ‼︎ 固く行き過ぎた。』

 3番の馬が1着で来て、友人が叫んでるビジョンが浮かんだ。

 何だ…⁇ 今の…。

 競馬なんて、わからないので、その通りに賭けた。金額は20万円。するとどうだ。そのレースで、3番の馬が1着になった。この日が『予知能力』を使った最初の日だ。


 その後の、人生は語るようなことは何もない。母の保険金と、『予知能力』のおかげで、大学は無事に卒業できたが、在学期間は、毎日にように遊んだ。暇つぶしに、ギャンブルや、酒に走り、女を買う生活だ。金が尽きそうになったら、『予知能力』で金を稼いで、そして、また使う。そんな繰り返しだった。ただ、遊んでいる時だけが、目標を失った自分を忘れることができる時間だった。


 「予知能力がなくなったら、死のう…」


 轟エイジ、22歳。目的もなしに生き、馬券の収入で生活する、蛭みたいな人間だ。




 「お待ちしておりました。『血の英雄』よ。どうか我らをお救いください。」


 俺の新しい人生は、この言葉で始まった。

 

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