お嬢様と呼ばれた訳
ついさきほど、十五部分が追加されました。(四月十一日現在)
感想をお寄せいただいた方の要望を取り入れた形です。
まだの方はそちらもご覧ください。
クリスさんは朝から機嫌が悪かった。
「どうして私がお嬢様なの?
初めは苦労を知らないお嬢ちゃんって言われて、汚れ仕事も吐きながらでもやり通したのに、今度は『お嬢ちゃん』じゃなくって『お嬢様』って、意味分からない」
「それは解体師さんたちに聞いたら良いんじゃない?
おらはクリスさんと呼んでいるし、お嬢様って呼んでいる訳じゃないから」
「聞いても笑って相手にしてくれないんだものっ。
だったらミッキー君が教えてよ」
「教えたらどうするの?」
「もちろん、そう呼ばせないようにしてみせるわ」
「それじゃあ聞くけど、クリスさんにとっておらは何者だ?」
「何者って……知り合い?」
「他には?」
「後輩の冒険者Gランカーのミッキー君だよ」
「他には?」
「他にはって……そうね、解体は私より少しだけ先輩かな」
「それだけ?」
「なっ、何を聞きたいのよ。意味が全然わからないっ」
「じゃあ、質問を変えるよ。
クリスさんは一番最初はみんなが嫌がるような仕事を教えろって言ったよね。
それでおらは『腸洗浄』を教えたよ」
「そうよ、それで見事それをやりとげたでしょう?」
「そうだね、最後までやりとげたね。立派だった。
だからもうお嬢ちゃんって言われなくなった」
「そうよ。だけど今度は何故お嬢様なの? それをさっきから聞いているの」
「その次にクリスさんは何をやらせてくれって言ったっけ?」
「一番難しいことをやらせてって言ったよ。
そうしたら肉の切り分けだって言って教えてくれてる最中じゃない」
「それだよ。今言ったことに理由があると思うな」
「どこに理由があるのよっ。
難しいことを覚えたいって言うんだから、偉いじゃない」
「そうなんだよ。偉いんだよ。
だからお嬢様なんだ。わかった?」
「分からないっ。それなら別の言葉で褒めてよ。
お嬢様ってなんか馬鹿にしていない?」
「どうして? 偉い貴族の令嬢にはお嬢様というのが正しいよ」
「私は貴族じゃないじゃないっ」
「貴族じゃないなら何?」
「平民よっ、へ・い・み・ん」
「でも平民でも商家の令嬢にはお嬢様って言うのが普通だよ」
「商家の令嬢じゃないよっ」
「じゃあ、何?」
「冒険者だよっ。Fランカーの冒険者ですっ」
「そうだね、冒険者だよね。でもクリスさんは冒険者には見えなかったから、お嬢様って呼ばれたんじゃないかな」
「いやいやいや、それじゃあ説明になってないわよ。
どうして冒険者に見えないのよ」
「じゃあ、冒険者は魔獣を倒してからどうするの?」
「解体するでしょ。今わたしがやってること」
「その魔獣、誰が皮を剥いだの?」
「あんたでしょ、あんたっ。
あっ、つまりミッキー君でしょ」
「じゃあ、聞くけどかわはぎをしなくても肉は切り分けることができるのかな?
できないよね。でもクリスさんはかわはぎから覚えずに肉の切り分けから覚えようとしている。
これで分かったろう、どうしてお嬢様って呼ばれるか」
「うーん、分かるようで分からない。ちゃんとはっきり言ってよ」
「じゃあ、はっきり聞くよ。おらはクリスさんに解体を教える役目だ。
そういうおらのことをクリスさんにとってなんと言うのかな?」
「教えてくれるから……先生だよね?」
「なぜそこが疑問形かな。先生だよ。こういう世界では師匠って言われる。
解体師とか教師とか医師とか『師』がつく人は師匠になる人なんだ。
先生と呼ばれる人なんだよ。
だから先生に向かって『こういうのを教えろ』とか勝手に決めるのはおかしいよね。
まるで権力を持った貴族令嬢みたいだね。
かわはぎとか言うのは最初に覚えなければいけない基本中の基本だけれど、それはパスして上澄みのカッコいい仕事を先に覚えようとする。
これで分かった?
お嬢様ってどうして呼ばれるか分かったよね?」
「……分かった。つまり教えることを決めるのはミッキー君ってことだね」
「まだ、上から目線だね」
「ミッキーさん……ミッキー先生……これで良いですか」
「大変宜しい。じゃあ、かわはぎからおぼえようね。
この肉の切り分けはおらがやっておくから、今は見てて」
「あっどうして? 私がやっている途中なのに」
「この肉を食べるのは誰かな?」
「魔獣の肉を平民が食べれば、体が燃えるように熱くなって苦しくなるよ」
「そうだね。だからこれは魔法を使って魔獣の肉の魔気を発散できる貴族が食べるんだ。
そんな貴族に届けられる肉が新米のへたくそな切り方で乱雑に切っていたらどうなると思う?」
「首を斬り飛ばされるね」
「だからおらがやるよ。分かったね。その代わりやり方をよく見ておいて自分がやるときの為に覚えておくんだ」
「はい、先生」
こうして、クリスさんはようやくお嬢様と呼ばれなくなり、おらの生徒または弟子になってくれたのだった。
続きます。




