表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

33/53

ヴィンセントとデート【4】



肩が震えて、嗚咽が止まらない。

アンジュが肩を抱き締めてくれる。

それでも、感情が高ぶって涙は止まらなかった。

……水守くんが死んでいる。

わたしの初恋の人は、わたしの事故の後に飛行機事故で“本当に”死んでしまった。

目の前にいる『ヴィンセント』として、生まれ変わって……。

彼がどうしてこの世界にいるのかは分からない。

でも、多分『ティターニアの悪戯』は無関係ではないだろう。

……水守くん、わたしの……。


「…………ヴィンセント」

「は! はい!」


なぜか立ち上がるヴィンセント。

アンジュから借りたハンカチで顔から出たものをとりあえず拭う。

そして「間違ってたらごめんなさい……」と前置きして、ヴィンセントを真正面から見た。

……面影はないのに、空気が、そういえばとてもよく似ている。

いや、似ているというよりもーーー。


「……水守くん、ですか? 水守鈴城みもりすずしろくん……?」

「!」

「あの、わたし……!」

「ど、どうして俺の名前を……」

「っ!」


ぶわりと、また瞳に涙が溢れる。

合っていた。

やっぱり……ヴィンセントは……!


「あの!」

「す、好き……」

「え?」

「…………ず、ずっと、す、好きでした……」

「………………」


立ち上がりたいけど、足に力が入らない。

だから精一杯、わたしの、全部を込めた。

伝われ。

今度こそ伝わって……!

わたしは!


「……俺、ですか?」

「そうです! 貴方のこと! ……ずっと、好きだったの! ……水守くんの事も、ヴィンセントの事も……好き、だったのに! なんで、こんな……ひどいよ……水守くんが、ヴィンセントになって、こんな……うっ!」

「…………」


水守くん、わたしずっと貴方が好きでした。

貴方の事を。

貴方ヴィンセントの事も。

ずっとずっと。

ずっと…………。


「あ、あの……」


狼狽えた声。

涙が頬を伝う。

答えは分かっていた。


「申し訳ございません」


深々とお辞儀をして、わたしがずっと欲しかった答え。

通じる事もなく、ただ流され続けたわたしの『心』。

それに対する……『答え』が、初めて返ってきた。

それがたまらなく嬉しくて、そして思った通りの答えに安堵した。

悲しい気持ちももちろんだけど、なにより……本来なら二度と会う事の叶わなかった貴方から、決して伝える事の出来なくなっていたわたしの未練が……今……。


「…………。ありがとう」

「え!」


心が……晴れていく。

驚いたような貴方に、わたしは、笑顔をちゃんと返せているかしら?

これはわたしの想いでもあるけれど、ヘンリの想いでもあるのよ。

良かった。

良かったね、ヘンリ。

胸が熱い。

貴女も同じ気持ち?

そうだね、良かったね……。


「……ううん、初めて『答え』を貰えたから……。それに、断られるのは最初から分かっていたの。えへへ、だってもうずっと……ノーリアクションだったものね……そんな風にも見て貰えていないし、その気もないんだろうなぁって分かってた…」

「……、……。……ヘンリエッタ様……」

「…………だからありがとう……やっとスッキリした。…………。っ……」

「……申し訳ありません……」


それでも、顔を見ていられなくて顔を背けて俯いた。

そんなわたしの肩にアンジュがブランケットをかけてくれる。

……すごい、あったかいな……。

こんなに体が冷えてたのか。


「……………………」




どのくらい泣きじゃくっていたのだろう。

ハンカチがぐしゃぐしゃになる頃、アンジュが新しいのをくれるので何枚目かも分からない。

それでもあらかた泣いて、少し落ち着いてきた。

ショックだった。

振られる覚悟なんてとっくに出来てるつもりだったのに。

現実は予想の斜め上。

ヘンリだけではない。

わたし……佐藤笑美の初恋までも、完全に終わらせてくれたのだ。

それは多分、いい事のはず。

でも、それでもショックだし悲しいのは仕方ない。

ーー彼が死んでいたなんて……。

もしわたしが自分の世界に戻って、あの事故の瞬間まで巻き戻ったとしても水守くんはもうーーー。


助けられないんだ。


ぐっ、と拳を握り締める。

こんな事なら同窓会の時に思い切って告白していれば良かった。

彼の鈍さでは、それでも通じなかったかもしれないけど!

でも、ヘンリと、そしてヴィンセントになった水守くん……こんな形での告白ではなく、佐藤笑美として、水守鈴城くんに、告白したかったなぁ。


「…………?」


ぐすん、とハンカチで涙を拭う。

そろそろ目元も痛くなってきたし、またハンカチがびしゃびしゃになってきた。

辺りもすっかり暗い。

それでもまた差し出されるハンカチを受け取り、アンジュにお礼をーーー。


「あり、……⁉︎」

「? なんです」

「ケケケケケケリー⁉︎ な、な、な、な⁉︎ なんで⁉︎」

「え? 今気付いたんですか?」


なんでケリーがわたしの隣にいるのおおおおぉ〜〜〜〜⁉︎

ここは⁉︎ ガゼボの中の椅子。

ケリーがいるのはガゼボの手すり。

腰掛けるように手すりに寄りかかり、わたしにハンカチを差し出していた。

いや、でも! そうじゃなくて! なんでケリーがここにいるの⁉︎ いつから⁉︎


「同級生の方のお茶会に招待された、その帰りですよ。ここの公園は馬車乗り場への近道なんです」

「え? えーと?」

「ルークですか? あいつはダモンズ様にとっ捕まりましてね」


普通、馬車の手配は従者がやるもの。

しかしケリーの従者のルークたそはハミュたんに捕まったのか。

なにそれ、かわいい。

じゃなくて……!


「どうぞ」

「……あ、ありがとう……」


改めて差し出されるハンカチ。

とてもシンプルな白い絹。

まだ涙が溢れたので、ありがたく借受ける。

いや、もうこれ返せないけど。

新しいの買ってお返ししないとね……。


「…………」

「…………」


あとは沈黙。

肌寒さはアンジュがかけてくれたショールのおかげで和らいでいた。

ケリーはなんにも言わずに側にいる。

多分、アンジュも近くに居ると思う。

不思議と穏やかな時間が流れているように感じるようになった。

電気はないのに、今日は月も星も明るいから暗闇とは程遠い。

ガゼボに用意されたランプはアンジュかな?

ケリーのハンカチ、ラベンダーの香りがする。

ポプリかなにかかしら?

ローナは花が好きだし、ハーブにも詳しかったものね。


…………落ち着く。



「ありがとうございます」

「落ち着かれましたか?」

「はい、だいぶ」


目元は痛いけどね。

これは明日休んだほうがいいかしら?

いやいや、勉強が遅れちゃうわ。


「わっ」

「冷やさないと腫れますよ」

「…………」


いつの間に用意していたのか。

濡れた布を目元に当ててくれるケリー。

その布を受け取って、自分で目元を冷やす。

なによ、優しい……いや、ケリーは、優しいのよね。知ってる。

ゲームの中のケリーはやんちゃだし意地悪だけど、泣いてるみこたそを見付けると何も言わずに寄り添って、泣き止むまで側に居てくれるのよ。

今のわたしみたいに、側にいてもらえるだけで安心する。


「お送りしますか?」

「…………、……いえ、大丈夫です。ありがとうございます。ハンカチ、後日お返ししますわね」

「それこそお気になさらず。……けしかけたのは俺ですからね」


ああ、ヴィンセントとデートのセッティングというか、謀ったのはケリーだったものね〜。

そうか、罪悪感を感じてたのか〜。

なんだかんだまだ十五歳の男の子だものね。

……ちょっとだけ可愛い。


「……そんな……とんでもないわ。おかげでいい思い出が出来ました。ありがとうございます、ケリー様」

「いい思い出?」

「ええ。振られるのは分かっていましたもの。最後にデート出来たんです。わたしは運がいいですわ」

「……そう、ですか……」


ええ、これで前を向ける。

そうよ、もしも車に突っ込まれて『ティターニア』に来れてなかったら、わたしは水守くんの死をニュースか何かで知って、それはもう嘆いていた事だろう。

分からせるまで告白し続ければ良かった、って。

わたしの気持ちを伝えられた。

答えも聞けた。

それも、彼が転生した後ではあるけど……。

とんでもない奇跡じゃない、これ。


「…………」


もしかしたらわたしがアミューリアに選ばれて、ヘンリに入ったのは、惹かれ合ったからかもしれない。

同じ人を好きになったから……。

今夜はヘンリと目一杯一緒に泣こう。

夢の中まで泣くなんて、ちょっと泣きすぎかもしれないけど……今夜くらいはいいわよね……。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【宣伝】
コミカライズ「マンガUP」で連載中!
『うちのお嬢様が破滅エンドしかない悪役令嬢のようなので俺が救済したいと思います。』 321811000629.jpg
詳しくはこちら→カドカワBOOKS様ホームページ

5v8zm52z91v13b6im4mb1sj88m2w_b31_5x_8w_y
『転生したら絶滅寸前の希少種族でした。』翻訳電子書籍が11/30から配信開始!

『追放悪役令嬢の旦那様』
aubh3lgrafru8nlejtjv4uphjx9k_7i1_c0_hs_4cx8.jpg
ツギクルバナー
『第4回ツギクル小説大賞』【大賞】受賞!
書籍版、発売中です!
詳しくはツギクルホームページへ
1巻
2巻

【コミカライズ】
マンガアプリ「マンガPark」で連載中!

dxapjn8uciyacdsd1785635ucomx_ygt_a3_et_73eo.jpg
『泣き虫な私のゆるふわVRMMO冒は険者生活 もふもふたちと夢に向かって今日も一歩前へ!』がBKブックス様より発売中!
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ