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序章
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序章
黄金の月が照らす街道、といっても草がよけられているだけの地面の上、子どもを抱きかかえた女が倒れ、それを取り囲むように幾多の人影。ここだけ見れば盗賊やらが一仕事の、ありふれた悲劇の一つでしかないが、明らかな異常があった。取り囲む人影は宵闇の中に溶け込み子細測れぬ状態であるが、それは何も夜の闇が深すぎることのみが原因ではない。母子が落としたのか提灯の灯りに照らされてなお漆黒のその体、二足二腕とかろうじて人の形をしているが、風に揺れる火種のようにゆらゆらとその輪郭を躍らせている。彼らは魑魅魍魎、山海に潜むと言われる人知の及ばぬ化け物の一種であったのだ。その化け物が母子に襲い掛かる。野犬のような俊敏さ、瞬く間に距離を詰めると大きく開けた口には鋭利な牙が並び。
恐怖に駆られた母子は叫ぶ。誰か、助けてと。
深い森の中、助けに来るものなどいない。しかし幸運にも、子どもの助けを求める声に人ならざる者が答えた。