第八話 ワンセット。
「んで?お前らは何してたんだ?」
ソファにドカッと座った先輩はタバコに火をつけて煙を吐いた後に俺たち2人に座る様に顎で促した。
「あぁ、すみません失礼します。」
俺達は席に座る。
「臭えなお前!着替えて来い!殺すぞ!」
先輩は生ゴミの汁まみれになった店長を蹴っ飛ばした。
(いや、言い過ぎだろ。)
思わずツッコミそうになったが、心の中にとどめた。
何故なら、俺が犯人だからだ。
「何してたって…。先輩が紹介した子の犬探してんですよ。」
俺は写真を出して机の上を滑らせるように先輩の前に出した。
「あん?」
そう言って写真を手に取ってしばらくしてから
「あー…。」
納得した様な声を発して写真を返す。
「そういえばそんな事あったなぁ。」
「そんな事って……。」
俺は、全く!と言わんばかりに乱暴に写真をしまう。
「事情は分かったけど、なんでウチの店に来たんだよ。」
俺達は店内を見回した。
ここは先ほどのキャバクラの1番奥の席。
店内は清潔に保たれていて、ガラスのテーブルに、焦げ茶色のソファ。照明は乳白色で少し薄暗く設定されている。店の真ん中にはシャンデリアがある。
高級感のある場所だ。
「え。ここ先輩の店なんすか?」
姿勢を戻しながら先輩に聞いた。
「言ってなかったか?」
「初耳です。」
俺は少し前に行きつけのガールズバーでママに言われた事を思い出した。
(そういえば名古屋の方で店構えたって言ってたな。ここだったのか。)
幸か不幸か、お陰で話は早そうだ。
先輩に事情を説明してカメラの映像を見せてもらうことにした。
カウンターの後ろにある暖簾をくぐる。
すぐにモニターがあった。
3人でモニターの前に行き、映像を見返すことにした。
「おい!雇われ!これどうやって映像見返すんだ?」
先輩が、奥の方に向かって呼びかける。
すると、上半身裸の店長が出てきた。
だらしない体型に刺青の入った店長がこちらに来て俺たちの前に入りモニターをいじる。
ふと視線を落とすと、店長のお尻がはみ出ている。
それだけならまだ良いのだが、なんと女性用の下着を穿いている。
(チッ…。勘弁してくれよ。)
心の中でため息をつく。
先輩に視線を送り、店長のお尻に視線を促す。
先輩は俺と目があった後に視線を落とすと
呆れた顔をしながら視線を外し、額に手を当ててため息をついた。
後輩は普通に引いていた。
気を取り直してモニターをチェックしてみると、
犬がちょうど走って店の前で少しぐるぐると回った後にまた道路を渡ったところが映っていた。
「だいぶ走ってるな。まだ聞き込みした方がいいなこれ…。」
ため息混じりに俺は落胆して、近くにあった椅子に腰を下ろした。
「ん?誰か犬捕まえてないか?」
後輩が口を開く。
「なに?」
もう一度モニターの前に行く。
少し巻き戻す。
「ほらここ。」
後輩はモニターの上の方を指差す。
そこには走ってきた犬にとりまとわれて少しオロオロした様な人物が映っていた。
その人物は一度画面外に消えた。
犬はその後を追いかけて行く。
少ししてからもう一度男が画面の端から現れる。
画質が少し粗いが、上着の中に何かを抱えているような体制だ。
上着の裾からぷらぷらとリードのような物が垂れ下がっていた。
「保護されたのか。」
「どうりで見つからねえ訳だな。」
俺と後輩はそう話して、この男の見た目メモし、覚えた。
上下黒色の服で身長は170後半〜180ほど。
おそらく痩せ型。紺色の帽子。
「地味な服だなぁ。わかりづれぇな…。」
この男を目星にまた明日から聞き込みを開始する事になる。
確信は無いので、一度消えた画面の方にある店にも
一応聞き込みも忘れてはいけない。
勘違いや思い込みは探偵のやりがちなミスだ。
「とりあえず一歩前進ってとこか。」
先輩が呟いた。
「そうっすね。ありがとうございます。」
俺はそう言ってそそくさと身支度し店を出ようとしたが、
「今日はもうやる事ねぇだろ。協力してやったんだ。飲んでいけ。」
「は?」
「捜査協力してやったんだろ。ワンセットだけでも飲んでけよ。」
「いやいや、俺達は襲われてるんすよ?先輩のところの従業員に。」
「勝ったんだからいいだろ。」
(あ、ダメだ。コレ飲まないと帰れないヤツだ。)
俺は潔く諦めて、
ワンセットだけを約束して飲む事にした。
結論から言うと、高いシャンパンを一本開ける事になった。
俺は金が無いと言ったのだが、先輩はお構いなし。
(奢りか?)と思ったがそんな事はなく、
俺達はまんまと先輩の策にハマった。
「40万……。?」
「おう。そこそこ良いヤツ開けたからな!」
先輩は何故か上機嫌だ。
「いや、金無いって言ったじゃ無いですか。」
「あ?そうだったか?」
「いやいやいや…。」
(もはや強盗だろコレ。)
「え、どーするんすか?本当に持ってないですよ?」
俺は財布から2万円を出してひっくり返した。
「まぁ〜仕方ねぇな。それなら今回の依頼料だ!
コレで手打ちにしてやるよ。」
ガハハと笑いながら先輩は俺と後輩の肩に手を回し、軽くパンパンと叩きながら店から半強制的に追い出した。
「んじゃ、頼んだぞ。名探偵。」
ガチャリと扉が閉まる。
「「……………。」」
「はめられたな。」
後輩がそう言って歩き出した。
「やられた…。あー!マジかよ!?」
俺は頭を掻きむしりながら叫んだ。
「おかしいと思ったんだよ!妙に機嫌良くていつもより優しかったからよ!なんだよそれ!犯罪だろコレ!」
「コレで犬探しはタダ働きだな。」
俺達はしぶしぶ歩き出して、車を停めたコインパーキングまで歩いた。
車の駐車料金を払おうとした時に後輩が気づいた。
「……酒飲んだから運転出来ねぇじゃん。」
俺はでっかいため息を吐いてしゃがみ込んだ。
結局車中泊をする事になった。
タバコに火をつけて空を見上げる。
今日は少し肌寒い。
そのせいか気分も下がり気味だ。
いや、コレは寒い所為じゃ無いな。
今年36歳のおっさんは泣きそうな顔で煙を空に吐き出した。




