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第五話 一人の夜には


気が付けば時刻は既に19:00を回っている。高校生活初日と言う事で両親に色々聞かれたが、取り敢えず友達が出来そうだと言う事だけ伝えた。その友達が誰なのかは敢えて言わずに。

しかし二人は良かったな、なんて言いたげに優しく微笑んでは仕事に出かけて行った。


聖裕「夜勤かぁ...。」


家に残されたのは自分ただ一人。ペットなんている訳も無いので少々孤独である。しかし何か行動を起こさなければ孤独感が肥大化して理性を飲み込んでしまう。特に夜と深夜は。そんな時にスマホが軽快な電子音を鳴らした。

画面を見てみると、メッセージアプリから通知が来た事を知らせるものである。


聖裕「華凛さんからだ、」


胸に少々の高揚感を宿しながらメッセージアプリを開く。するとそこには『暇』の一言だけが書かれていた。その一文字は彼女の性格や行動、言動を如実に表していたと言えるだろう。


『華凛さん、今家ですか?』


そう打ち込んで送信する。すると1分と経たずに返信が来た。


『うん、家にいるよ。どしたの?』

『あ、いえ...俺、両親が二人共夜勤なんで一人で。』

『そっか。うちは二人共いるから夕飯も作って貰えるけどさ、聖裕君は一人でしょ?」

『はい。』

『私そっち行こうか?』


え?


『一人ってキツいじゃん、夕飯とかもずっと一人?もしアレなら何か食べに行こ。』

『良いんですか!?』

『だって聖裕君、文面見るからに寂しがりそうだし。』


意識が別次元に飛ぶ程の衝撃が身体中に走る。まさか向こうから歩み寄ってくれるとは思わなかった。期待に満ち溢れていた心は更に震え上がる程の喜びを感じ、

それはやがてスマホの通知すらも心ここにあらずと言った具合に耳に届かなくなってしまった程に。そうとなれば急いで身支度をする。別にデートとか恋人同士の夕飯とかの幸せ溢れるハッピーな物では勿論無いのだが、それでも心が踊った。

後のメールで集合場所は先程の二人でブランコに座った公園になり、夕食の場所は近くのファミレスに決定。


聖裕「これはただの夕飯...、友達同士の!」


そんな独り言を言い聞かせる様に口から溢しながら慌てて部屋を後にするのだった。


_______そして場所は公園に様変わりして、時間は20:00手前。半月の周囲に瞬く星々の輝きは静寂に包まれた空間を優しく照らし出していた。

その場所に突如として現れたのは自分に何かと気遣ってくれたり、基本的に此方をからかったりする上級生の先輩。そんな先輩を見て浮き足立った口調で名前を呼んでしまう。


聖裕「華凛さん!」

華凜「おっ、早かったね聖裕君。」

聖裕「早く着かなきゃ駄目かなみたいな所ありましたし、それに華凛さんとのご飯ですから。」

華凜「っ、そっか。」


彼女は少し驚いた様な表情を見せた後に軽くはにかんで見せた。その笑顔にまたも心を撃ち抜かれてしまうが、今は何とか理性を保つ事が出来た。

しかし保たれた理性を内から破壊する様に華凛さんの姿が目に入って仕方が無い。入学式初日の日とは言え、制服姿以外の姿は滅多に見る事が無い為か、初めて目にした時以上のインパクトを与える。

そんな彼女と夜にご飯、抑えなければいけない考えが浮かび上がってしまう。


華凛「行こうか、夕飯時だから混むかも。」

聖裕「そうですね、行きましょ。」


そんな想いをひた隠しにして彼女の側に駆け寄る。彼女はその場から立ち上がり歩き始めるのに自然と後を追う形となった。


聖裕「あ、あの華凛さん。何でご飯一緒に行こうなんて言ってくれたんですか?」

華凛「んー、詳しくはまだ言えないけど、簡単に言えば気持ちに同情したからかな。」

聖裕「ど、同情...」

華凛「まぁ、詳しくはもっと仲良くなってからね。」


そう言って肩に手を置いてくれる華凛さん。だが先程の発言に少し闇と言うか、心の内の異物感に届く違和感の様なものを感じずにはいられなかった。しかしそれを指摘しても今現在はどうする事も出来ないので大人しく手を添える。


華凛「ふっ、何手握ってんの。」

聖裕「あぁあっ!!す、すみませんつい!!」

華凛「...良いよ、別に。」

聖裕「え、あ...」

華凛「嫌じゃないから、」


彼女はそう言うと此方の肩に添えらえた手を下ろしては手を差し出して来た。


聖裕「あ、ありがとうございます...」

華凛「...ん、」


そんな訳で、僭越ながら彼女の手を握る。瞬間伝わってくる華凜さんの体温は想像していたよりも暖かく、細い指が自分の手に添えられて徐々に力が込められる。

流石に指を絡めるのは互いに遠慮してはいるものの、それでも感じる華凛さんの体温に思わず心臓が跳ね上がってしまう。


聖裕「華凛さん...寒くないですか?」

華凛「うん、春だから大丈夫。」


返答する華凛さんの声は至って通常通りだが、一つ気になる事がある。手を繋いでから全く此方を向いてくれないのだ。意識的に此方を向かせようと言葉を紡いでも、その口調は何処と無く塩対応だ。

そんな時近くにある信号が赤へと変わり、自分達の歩も自然と止められる事となる。長めの赤信号で待機している中、不意に華凛さんが此方に問い掛けて来た。


華凜「...聖裕君ってさ、何で私に好意的なの?」

聖裕「え?そ、その...性の好きじゃなくて、心から好きになろうって思って...言うの恥ずかしいですね、これ。」

華凜「...そっか。ありがとね。」

聖裕「華凛さん...もしかして嫌でした?顔見たく無かったら見なくて全然良いんですけど理由とか___」

華凛「無いよ、ただ...私が見せられない顔してるから。」

聖裕「え、華凛さん美人さんですから見せられない顔とか無いんじゃ...」

華凜「...あんま優しくされると分かんなくなるよ、勘違いしそうになる。」

聖裕「か、勘違__」

華凜「さっ、行こっか!」


彼女に手を引かれては再び歩を進める。あまりにも速く加速する為に自分の足は駆け出す様な形となって上手く走る事も出来ないが、それでも走り切る程の楽しさがある。

手を包み込む体温に心地よさを味わいながら辿り着いた先にあるファミレスの中に入店したのだった。

_____店内に入店してから自分達の席に案内されるまでの事は特に何の変哲も無い日常と何ら変わりなかった。それ以上にファミレスに入るまでの事でそれぐらい記憶に残る出来事が起こり過ぎたのが問題かも知れないが。

華凛さんに半ば強引にメニュー表を押し付けられては好きな物を注文する様にとだけ言われたので適当に注文を済ませる。華凛さんも注文し終えた所で、向き合ったまま硬直してしまう。一方華凛さんは目を伏せて何か考え事をしている。

そんな時だった、華凛さんは突拍子も無い事を自分に告げたのだ。


華凛「...聖裕君さ、私の事好きなんだよね。」

聖裕「は、はい...。」

華凛「中学卒業するまで好きな人いなかったの?」

聖裕「あっ...えっと...華凛さんとシてからはずっと...意識しちゃって。だから恋愛の意味で好きになれる人なんて見つからないと思ってて。」

華凛「そっか...私の事忘れて貰おうと思ってたのに、そんな考え簡単に消し飛ばすくらい私でいっぱいになっちゃったか。」

聖裕「...え?」


華凛さんはそう言うと自分の目を見据える様に顔を近付けて来た。その目は何処か虚ろで、笑顔を取り繕っている様な表情に見える。


華凛「...恋愛的な好きって何だと思う?」

聖裕「む、難し過ぎませんか...?」

華凛「質問にだけ答えて、私の話はどうでも良いから。」

聖裕「相手を深く知らなきゃ心から好きって言えないから...相手を理解しようとする事が好きって気持ちだと思います、」

華凛「...価値観一緒だね。」


一言、その一言だけを返した華凛さんの表情は複雑な顔で、何かを憂いている様にも安堵した様にも捉えられてしまう。その両方の可能性も無きにしろあらずだが、少なくとも自分の目にはそう映ってしまった。


華凛「聖裕君ってさ...私で何人目?」


そんな一言が耳に届くと思わず目を見開いては彼女の目を見詰める。しかしそれはただこちらの目を見据えているだけで、その奥にある真意を読み取る事は出来ない。


聖裕「な、何でそんな事聞くんですか...?」

華凜「...お願い、聞かせて。」

聖裕「一人目です、今まで恋愛とかした事無かったですから。」


この雰囲気は何なのだろうか。やけに華凛さんの余裕が無い様に思えてしまう。やはり、度々思う心の内の闇と言うか負の感情。それが関係しているのだろうか。


聖裕「華凛さん、」

華凜「ん?」

聖裕「俺で良かったら、その、悩みとか相談に乗りますよ?」

華凛「...」


彼女の目を見てそう告げる。その言葉がどれだけの重みを持つのかは正直分からない。しかし今ここで自分の想いを告げなければ一生後悔する様な気がしたのだ。そんな此方の言葉に彼女は暫く沈黙を貫くとやがてゆっくりと口を開くのだった。


華凜「もう少し仲良くなったらで良い、かな。ごめんね。別に嫌いとかじゃ無いから。」

聖裕「は、はい...分かりました...。」

華凜「うん、ありがとね。」


そう言って華凛さんは優しく微笑むと再び沈黙してしまう。そんな彼女に自分は何も言う事は出来なかったが、それでもこの関係が崩れる事を望んでいる訳でも無いので今は彼女の言葉に従った。

するとその沈黙の場を打ち破る様に注文した料理が運ばれて来る。その後は二人で食事を摂った。華凛さんの方から話題を進めてくれる為に気まずいとかは特に感じられなかったのだが、それでも何処か引っかかる所のある会話ばかり。

しかし指摘する事もせず、関係が崩れる事を恐れては彼女からの言葉をただ聞き続けたのだった。

そして、会計を華凜さんが済ませて店を出た後。放課後と同じ様に華凛さんに自宅まで見送って貰っては自宅で明日の用意と寝る前の支度を済ませる。高揚して仕方が無かった胸の高鳴りは徐々に睡魔に消されていき、次第に意識も薄れて行ったのだった。

_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _


___「ただいま。」


返事は無い。人影はあるのに。


「ただいま。」


再び帰宅の報告をする。すると少し声を大きくしたのが癪に障ったのか不機嫌そうに『おかえり。』の一言が帰って来た。


「ねぇお母さん。」

『何?』

「いつもありがとう。」

『...アンタの声なんて聞きたくない。』


淡白な返事。今となっては慣れた物だ。今は自分の床に就く身支度を淡々と済ませるしかする事が無い。

___身体を包む柔らかなベッド。誰の香りもせず、自分の嫌になる程華々しい香りが鼻腔を満たす。愛情の不足は慣れた。しかし愛情で満たされる事には全く慣れていない。自分は愛される資格が無い。

その筈なのに、なのに。何故こんなにも虚しいのか。原因は明確なのに、その原因の理解を脳が拒む。


『私だってアンタを愛したかったわよ。』


夢に出てくる母の弱音。暗鬱を心に満たし、自分に澱みを与えて来る。そして首を下に向ければ視界に入り込むのは嫌になる程見た自分の身体。この身体で、一人の純粋な男の子を虜にしてしまった。

自分勝手な寂しさで性を利用する様な自分とは真反対の男の子を。そして彼はそんな自分を『好きでいる』と豪語している。その言葉は今でも自分の心にこびり付いた泥の様に取り払えない。

彼の無垢で純粋でウザったらしい程に清純な心から放たれる愛の言葉のせいで。価値観が同じで自分と同じ様に孤独感に苛まれている筈なのに何故あそこまで私を好いてくれるのか。それが分からない。だから、怖い。


「本当に...勘違いするから...」


自分に愛される資格があると。しかし、そんな資格など無いのに。あの時顔を背けてしまった事を悔やんでしまう。あの時流した涙を彼に見せていれば抱える孤独感も軽くなったのだろうか。

彼が言った『好きになったのは私で一人目』と言う言葉に安心してしまったのも事実で、彼が私を恋愛的に好きになろうと必死に努力しているのに、当の私と言えば孤独感を再び彼で慰めようと思考が脳に染み付いてしまう。

そうやってまた他人を頼る。頼りたい。愛されたい。資格は無い。満たされたい。満たされない。

明日も彼に会う事になるだろう。脳は嫌だと拒んでしまうのに身体はそれを拒まなくて。

純粋な彼を勝手に孤独の捌け口にしてしまう。気持ち悪い。気色悪い。屑の塊。惨めで孤独で何も価値の無い自堕落な身持ちの悪い女。そんな自分が死ぬ程に気持ち悪くて、それでも湧き上がって来る性欲にも逆らえない自分も殺して欲しいと願う程に憎たらしい。


「もぉ...やだぁ...」


情けなく涙を零す事しか出来ない弱い自分を呪っては、自然と眠っている自分の下着の中へ手を伸ばすのだった。

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