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第二話 華を添えて


目的地へ無事辿り着いたが、その華道部の部室前で足踏みをする。何故か。先程華道部へ向かうよう誘いを出したあの薄桃の女が見当たらないのだ。

三年間始まる青春という架空物語が始まる筈なのに、校門で出会ったあの女だけが見当たらない事に不満を抱く。というのも彼女はこの学校で一番記憶に残る女性だろうと確信を持てる程の美貌を兼ね備えているのだから。

ただ未だ部活動見学は始まったばかりであり、そんな女と会える機会もまだあるだろうと思い直し、目の前の扉にノックをして入る。


聖裕「失礼しまーす...」


辺りを見渡す。人影は無し。しかし、


聖裕「...ん?」


ふと目に入った一つの花瓶に視線を奪われる。それは他の華道部の部員が生けたであろう花々が活けられている物とはまた違う。その花瓶には桜の花が一本だけ、そしてこの学校では見た事が無い薄桃の花も一輪添えられていたのだ。


聖裕「すご...綺麗...」


他の生け花とは違う雰囲気を纏った花瓶に目を奪われていると、突然背後から


?「その花瓶が気に入った?」


そんな声が耳に入る。聞き慣れた声。耳に残った声。


聖裕「っ!」


背後から掛けられた声に思わず身体を飛び上がらせて驚いてしまう。その仕草にフッ、と軽く吹き出された。


?「そんなに驚かなくて良いのに。」

聖裕「...あ、あの...さっきの...」

華凛「そう。私は3年で部長の早乙女華凜。驚かせてごめんね。」


そう言って笑いを堪えている様子でその女は軽く謝罪してきた。相変わらず心臓の鼓動は落ち着いてくれないが、目の前の彼女に対して言いたい事は沢山あるため早く要件を伝えて立ち去ろうという結論に至る。


聖裕「あ、えっと...あの...」

華凛「...ん?」


しかし、どう切り出せば良いのだろうかと脳が急停止してしまう。そんな様子を見た彼女は此方へ近付いては手をそっと肩に置き、耳元で囁くようにこう告げた。


華凛「忘れちゃった?はぁ...大胆じゃ無くなっちゃったね。聖裕君。」

聖裕「っ!!」


その言葉に我に返る。そう、分かっていた。あの柔らかい髪、どこか見覚えのある容姿、そしてこの甘い声の持ち主を。でも現実がそれを否定する。絶対に違うと脳が拒絶する。それ程までに信じられなかったのだ。


華凛「私達の秘密、無かった事にする気?」


彼女の挑発とも取れる言葉に喉から言葉が溢れる。心の奥底でずっと思っていた事だったのだろうか、それとも本能がそれを言わせたのかは定かでは無い。

ただ今自分が思っている事を否定したいのに肯定もしたい。そんな不思議な感情が混ざっては生まれた言葉達が自分から離れまいと必死にしがみつく。


聖裕「華凛さん...その__」

華凛「あー、思い出してくれたなら良いよ。」


その一言で確信した。彼女はやはり、"初めて"の相手だったと。それ程までに"あの夜"が昨日の様に鮮明に思い出す事が出来る。奇跡は起こらないと信じていたが信じざるを得ない状況。

そんな自身の感情が表に出ていたのか、彼女はニッと笑った後にこう言ったのだ。


華凛「私の事追って来ちゃった?」

聖裕「いっ、いや!華凛さんがこの学校にいるなんて知らなかったし連絡先も知らなかったから無知と言うか何というかその!」

華凛「あんま言い訳すると本当に追って来たって思われるよ?」


彼女のその言葉に胸が痛くなる。そんな純情な男心を理解してか、薄桃の彼女は髪をかき上げた後に口を開いた。


華凛「またシたかったんだ?」


そんな挑発ともとれる発言。だがそれは内心その通りでご名答だった。彼女はそれさえも察したのか、ふふっと笑いながら自身のネクタイに指を掛けた後にそれを取り外しては此方へと歩み寄る。


華凛「正直なのは変わらないね。」

聖裕「っ!」


そんな動作につい目を逸らしてしまう。が、その隙を見逃さまいと彼女は手を引き、部室の鍵を内側から閉めると同時に自分の唇を奪ってきたのだった。


華凛「...んっ、はぁ...」

聖裕「んんっ...んぐっ...」


彼女の甘い吐息が耳から脳へ直接伝わるような感覚に陥る。口中で唾液が混ざり合う音が、脳を溶かす。そんな甘美な時間に浸っていると、彼女は自身の胸に手を当ててこう呟いた。


華凛「はい、終わり。」

聖裕「えっ?」


余りに突然過ぎた展開に思わず呆けた声を出してしまう。彼女はその間抜けな声に笑いながら答えた。


華凛「考えてみなよ、確かに身体は重ねた。でも恋人じゃない。セフレでも無ければ、会ったのは一回。」


その言葉に口を噤む。確かに再会出来たとはいえ、彼女を好きでいるとは言えた物では無い。そんな事は自分のプライドが許さないし何より拒まれてみろ、それは立ち直れない程の傷を負うだろう。しかしその傷は彼女の次の言葉で塗り固められた。


華凛「今の私と君は先輩と後輩。それ以上にしたかったら華道部おいで?私の事、堕としてみなよ♡」

聖裕「えぇっ!?」

華凛「私も後輩君で遊ぶからさ。」


彼女はそう言って自分の頭を犬を撫でるかの様に撫でた後にこう言った。


華凛「期待してるよ、聖裕君。」


片方の口角を上げながら、心の内を全て見透かした様に。何処か煽情的な雰囲気を漂わせた後に華凛さんの方から、鍵を開ける音が鳴った。その金属音で一つの疑問が湧いた。


聖裕「あれ、華凛さん...部活動見学の時間なのに鍵閉めたんですか...?」

華凛「あぁ、紙見てみ。」

聖裕「紙...?」


言われた通りに部活動見学の案内が記された紙を視界に入れる。一見何もおかしい箇所は何も見受けられなかったが、不意に華凛さんの手が背後から伸びて来て紙の一部分を指差す。


華凛「ほら、この下。」


言われた通りに紙の下側に目を向ける。


『※文化部の見学は11:30から開始します。』


と書かれていた。現在の時刻は10:45分。つまり。


華凛「聖裕君、来るの早すぎ。本来は運動部見学の時間だから華道部なんて誰も来ないよ。」

聖裕「な、何してくれてんですか!?」


思わず絶叫してしまうが、目の前の彼女と言えば謝る様子など微塵も無いどころか面白そうに此方を観察している。幾ら大人びた雰囲気とは言っても悪意の無い悪戯ぐらいはするのであろう。いや寧ろそれを売りにしているのかもしれないが。


華凛「ま、誘った私が悪いかな。ごめんね?聖裕君。」


改めて自分の名前を呼ぶその軽い一言で再び頬を赤く染めてしまうのが悔しいが、湧き上がる感情には抗えない。自然に首は頷いて『大丈夫です、』と許しの言葉を意思に反して発してしまう。


華凛「ありがと。でも二人きりの部室で...なんてエロ漫画みたいな展開は無いから。」

聖裕「あっ、当たり前です!」

華凛「もしかして...期待しちゃった?」


彼女の口から放たれる攻めた台詞が更に心を鷲掴みにしていく。きっと全て此方の感情を揺さぶる為に発した物だというのは頭では理解できても脳まで処理しきれない。言葉の内容を理解し切らずに脊髄で答えてしまうのだ。


聖裕「い、いや!あの!別にそんなつもりじゃ!」

華凛「ふふっ、やっぱり君面白いよ。はい、じゃあ行ってらっしゃい。約45分後にまたおいで?その時は他の部員もいるし新入生もいるから一般生徒として扱うけどね。」


華凛さんは部室の扉を閉まった後にそう言い残して部室へと戻ってしまった。再び訪れた一人ぼっちの時間。

先程起こった出来事が情報として脳内に無理矢理保存され、込み上げて来た羞恥心と疑問を舌の上で混ぜ合わせる様に小さな声で独り言を漏らす。様々な思いを胸に秘めたままグラウンドに向かう。

そのまま陸上部の見学を行ったが、ただ見つめるのみで頭は既に別の事で占められていた。無論、運動部には元々入る気は無かったのだが。

それにしても華凛さん、思春期男子の扱いに慣れすぎではないだろうか。

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