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2章 7話 リザルト

 完成して、一か月後の営業日。

 ニコールを通してあのカフェのテラスの特等席を予約していた。ちょっとした祝賀会をするのだ。

 予約して正解だった。もう落ち着いたかな、と思っていたのに店内は混み合っており、テラスの特等席以外の席は全て客がいた。

 ニーナとゴンザレスが既におり、いつもよりも洒落た服装をしていた。ニーナは白っぽいチャイナドレスに椿の花飾りのついた髪留め、ゴンザレスはスーツ姿だった。俺はニーナに渡されていた、あの淡い緑色のシルクドレスだ。これを着ないとドレスコードに引っかかってパーティには来れないと言われたのだ。

 観光客もいて、まあまあ小綺麗な格好をしているけれど、俺ほどかしこまった感じじゃない。

 俺が着ている物の方がドレスコード的におかしいんじゃね?

 まあ、ニーナが言って来たんだから間違いはないだろうと席に着く。

 視線が多いが気にしない。エルフというだけで珍しがられるんだ。


 ニーナたちと炭酸ワインで乾杯をする。

 生ハムにメロンを巻いたなんとも言えない料理や、チーズたっぷりのピザ、白身魚やエビのフライなどがテーブルに並べられ、それらをつまんで、勇者の斬撃痕を見つめる。

 その先には王城が見える。


「まさに絶景スポットだね」


 勇者の斬撃痕の下にはプレートがあり、


  悪徳伯爵の屋敷に突入した勇者エンデルクの渾身の一撃


と刻まれている。

 まあ、石材は俺の特製で、刻んだのも俺。

 誰からも勇者の凄さを讃えるものにしか見えない。ミスって外した一撃だなんて、当時の勇者パーティしか知らない。

 プライドの高い勇者はきっとこれを見たら腹立つだろうな。その上で客からその時の話をせがまれたりすれば、それはもう……想像するだけでご飯が進むね。


 ニーナがニコニコしながら、一口炭酸ワインを口に含む。


「今回の物件は130万ゼニーきっちりで、フレデリック商会に売れたわ」


「値切られると思ったけれど、よくその値段で買ったな」


「エンデルクの斬撃痕、やっぱりこれが大きかったみたい」


「はあ!? これのどこがそんなに価値あるんだよ」


「最初にお前さんが、価値があるって言ったじゃろ。これが、10年、50年、100年後には歴史的な財産になる。金を積んでも買えない観光資源、そしてお前の壁なら2、300年は余裕で保てるだろ。永久保存された観光資源。それに価値があるってことじゃな」


 ゴンザレスの説明は理にかなっている。だけど俺の心は納得したくなかった。


「俺の渾身の東洋風ドワーフ居酒屋は?」


「あれはあれで面白いけれど、このモニュメントを保存しなかったら、30万ゼニーは下回っていたと考えていたみたい」


「くそっ、なんか腹立つな!」


「でも、リファが地下を作らなかったら酷い損失になっていたわ。ほんと、助かったわ」


 リファに感謝して、とまたグラスを掲げたニーナはご満悦だった。


「そうそう、それで思い出したけど、私ね、王国の住民相談課にこの物件の日照権侵害相談記録の照会と最終相談日の照会をしたの。前にリファが近所の人から色々鬱憤を聞かされた時に、王国に相談した、って言っていたじゃない」


 そういえば、そうだったな、と頷いた。


「そうしたら、最終相談の日付は私たちがこの物件を購入する前だったのよね。しかも、王国建築課に日照権侵害の申し出は通達されていたわ。もう5年前の話よ」


「そりゃあ、とっくの昔過ぎて、本当に今更な連絡が来たんだな」


「その上ね、建築する際の建築許可が国王のサインで付きで、下りているのだけど、サインの癖が違うのよね」


「ということは、国王サイン偽装罪だ。大事(おおごと)だな」


「そう。それでね、その当時の担当者が王国建築課の課長の役職にいるのよね。それで書類を揃えて監察課に持っていったのよ。昨日までの建築課課長は今日から無職かな」


 ドラゴン族は貴族ではないけれど、一人一人が木端貴族よりも恐れられている。その気になれば重量級のドラゴンに変身してヒトが撃てる最高威力の魔法と同等のブレスを瞬時に撃てる。そして、その中でもニーナはデザイナーとして世界的に成功している。そんなドラゴン族をそこらの住民みたいに扱うなんてことはできない。


 特等席。

 そこからは勇者の斬撃痕から王城がすっぽり入って見える。

 今頃、勇者の斬撃ならぬ、ニーナの斬撃が王城内にぶち当たった余波で大変なことなっていることだろう。


 ニーナは満足そうにグラスを掲げた。

 ニーナを敵に回したらマジで怖いな。


「あの勇者は壁を壊したけれど、私は彼らのキャリアを壊してあげたわ。

 最高の景色を見ながらの食事は美味しいわ」


 見た目のためだけじゃなくて風刺でもあったのか、と今になって気づく。


「あれ? あなたって、この建物を直してた人じゃないですか?」


 見知らぬ若い女性が横に立っていたが思い出せない。

 どこかで見たような気がするが記憶にない。


「えぇーと、すみません、どちら様でしたか?」


 俺がそう言うと、彼女は少しだけ照れくさそうに笑った。


「あの、あなたが4階を砂にして飛ばした時に驚いて声かけたんです」


 ああ、あの時の近所に住む若い女性か。

 驚きで目を丸くしていた顔が、ようやく記憶と結びつく。


「日当たりを良くしてくれただけじゃなくて、こんな素敵なお店も作ってくれてありがとう」


 お礼を言う姿が、仕草は飾り気がなくて、妙に胸に刺さった。


「お、おう」


 思ったより真っ直ぐな感謝で、どう返せばいいかわからなくなる。

 こういうの、慣れてないんだよな……。


「こいつ、照れてやがるぞ。あんまりこういうことないからもっと褒めてやってくれよ嬢ちゃん」


 ゴンザレスが余計なこと言う。

 横でニヤニヤしてやがるのが視界に入って、余計に居心地が悪くなる。


「それと、あの時、失礼しました。てっきり男性の方だと……こんなに可愛らしい女性の方だとは知らず……」


 その言葉に、一瞬だけ思考が止まる。


 ……可愛らしい、か。


 以前なら絶対に向けられなかった評価だ。

 今の身体になってから、何度か言われてはいるが、慣れるものじゃない。

 それに、慣れたくない。


「こいつズボラで口悪いからな、ガハハ!」


 追い打ちみたいにゴンザレスが笑う。


「俺の話題はもうやめてくれ!」


 顔を真っ赤になっている。

 それは自分がよくわかっていた。


 耳の奥まで熱い。

 こんな風に褒められて、向かいに座るニーナにまで笑われて、逃げ場がなくなるなんて。


 まあ……こんな日もたまには悪くない、なんて思ってしまった自分が、少しだけ悔しかった。


 そして、斬撃痕を見つめる。

 もし、この『伝説の聖地(笑)』に、あのアホな勇者エンデルクがやってきたら、どんな面をするんだろうな。


 注文していたコーヒーパフェが届いた俺はパフェにスプーンを刺して、コーヒーリキュールを絡めて口に含む。苦味と甘さが調和して、胸が熱くなる。


 そう思うと、若くなった体でより苦味が感じるコーヒーリキュールをかけたパフェも、より至福な甘さに感じた。

 魔王領侵攻で忙しいはずだから、来るわけないか。



ーーー

今回のリザルト


物件購入費用

 41万ゼニー


資材購入費用

 チーク材 13万4000ゼニー

 ブラックウォルナット材 8万ゼニー

 その他消耗品 4000ゼニー


合計費用

 62万8000ゼニー


販売価格

 130万ゼニー

 (日本円にして約1億3000万円相当)


最終利益

 67万2000ゼニー

 (日本円にして約6720万円相当)


パーティ資金としての貯蓄金額

 33万6000ゼニー


一人当たりの取り分

 11万2000ゼニー

 (日本円にして約1120万円相当)


参考

『勇者の斬撃痕』

 約300年前の勇者エンデルクが王都にて魔族と繋がる貴族を討伐した際の斬撃による傷痕

 元勇者パーティの戦友、土魔法使いリファが硬化させ保存した逸品。

 その永続する効果により、当時の土魔法使いリファと勇者エンデルクが実在していたと裏付ける数少ない痕跡資料。かつ、高度な土組織や合金合成割合の参考になる研究資料。

 現在時価23億ゼニー(日本円にして2300億円相当)。国宝指定。

 フレデリック総合研究商社に所有権あり。

 読んでいただきありがとうございます。

 感想、ブックマーク、評価などありがとうございます。


 明日で2章終わりになります。

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― 新着の感想 ―
本当に史跡になってる。^_^
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