第59話 悪堕ちした旧友
街からもっとも手頃なダンジョンを目指しながら、ロニはかつての日々を思い出す。
戦闘特化の魔法しか習得しようとしない者同士、ロニとキャトレイは意気投合した。
獣人族の田舎から出てきたキャトレイは、研究職につくツテもバックアップもない。冒険者で一旗揚げるのが、夢だと語っていた。
どれだけの経験をしたら、ここまで荒れてしまったのか。
「お望み通り、人気のないダンジョンを選んであげたよ。思う存分、殺し合おう」
「……やろう」
合図もなく、戦闘になる。
全力の、【レイジ・オブ・エレメンタル】を放った。
「なに!?」
ホムンクルスたちの、動きがいい。
キャトレイなら軽く避けられるだろうとは、想像していたが。
いくらキャトレイのスピードを搭載しているとはいえ、回避が的確すぎる。
「ご覧よ、これが【せーせーえーあい】を積んだ、アタイのホムンクルスさ」
たしかに、強い。
【レイジ・オブ・エレメンタル】の雷撃でも、捉えるのが難しかった。
「通常のゴーレムやホムンクルスは、主の指示が必要だろ? このホムンクルスは、自分の意思で、こちらの指示を待たずに活動できるんだよ!」
召喚ビルド使いといえど、敵の攻撃を受ける際は、創造者が敵の動向を見ていなければならない。ホムンクルスもゴーレムもスケルトンも、使い手の技量や戦闘経験が物を言う。
キャトレイのホムンクルスは、自分で考えて動くのか。こちらの行動を、先読みまでしてくる。
「くう!」
「くらいな、ロニ! 【魔爪拳】!」
キャトレイとホムンクルスが、デコった爪から衝撃波を発する。攻撃はすべて、違う属性の魔法が乗っていた。
「【マジックバリア】!」
全属性を受け止められる、全身障壁で対処するしかない。
一人しかいないロニでは、たしかに対応は難しいだろう。
これだけの力がありながら、悪事にしか扱えないとは。キャトレイに、何があったのか。
「ホムンクルスで技術で、アンタは世界を守るとか言っていなかった?」
「そんな誓いは、もう忘れたさ!」
キャトレイとは卒業後、久しく会っていない。
冒険者になるという目標は、以前から聞いていた。
研究者なのに、冒険者になると。
魔法の研究者は、そのまま学者になるはず。
キャトレイは学びの道へ進まず、実用性の高い冒険者を選んだ。
ロニと同じように。
「生活、できなかったんじゃない?」
「ベリト様が拾ってくれなかったら、アタイは今でも部屋の隅でうずくまっていたかもだ」
そんな状態だったのか。
「ダンジョンの探索者になんか、なるべきじゃなかった」
「研究職に入り直せば」
「ただでさえ爪弾きの獣人族が、エルフだらけの研究職で高待遇を受けられるわけがないさ」
学者レベルになると、まだ人種差別は多い。
「ベリト様からお声を掛けていただき、アタイは変わった。キャトレイの名を捨てて、ムルルとなった」
「あんたの不幸な境遇は、わかったよ。私はどんな過酷な状況でも、自分の手で将来を掴んだオッサンを知っている」
「ヒガンだ、っていいたいんだろ? あんなもの、ただのチートじゃないか」
「違う! ヒガンは、不正の塊なんかじゃない。血の通った、人間だ!」
自分はヒガンの戦いを見て、学んだ。
そのすべてを、キャトレイに叩き込む。




