第26話 魔界のプリンス ベリト
ベリトという魔王は、あまり魔物らしくない。その辺にいるチーマーみたいな、ルックスだ。顔立ちは、俳優やモデルのように整っている。
こんなヤツ、ゲーム【フュージョン・ワールド】に出てきたっけ?
ベリト……どっかで聞いたことがあるな。
ゲームのラスボスが、たしか『バール』で。何人か、子どもがいるんだよな。そのうちの一体が、ベリトって名前だったはず。
「お前、大魔王バールの身内かなんかか?」
「よく気がついたね。さすが、ヒガンもどきなだけあるよ。そうさ。ボクは、バールの息子だよ。周りからは、プリンスって呼ばれている」
ベリトが話している途中、戦っていたオークと騎士が、割り込んできた。
「引っ込んでろよ。会話してんだろうが」
味方さえ巻き込んで、容赦なくベリトは二人とも裏拳で始末する。
「ミツル。その魔王バールって、どうなったの?」
「ヒガンと相打ちになって、死んだ」
オレのキャラがロストしたのは、ちゃんと意味・理由があるのだ。
「周回プレイでキャラを作り直す」という名目を保つためだろう。その周回でプレイしたデータは、魔王との戦いで全ロスしたという扱いになる。
まさか、ガチで死んだことになっているとは、わからんかったけどね。
「お前も、地上へ出るのが目的か?」
ベリトなどの魔王の目的は、地上への進出だ。
「そうだよ。ヒガンもどきは知ってると思うけど、僕たち魔王は魔力が強すぎて、地上に干渉できないんだ。人間が海で呼吸できないのと同じさ。魔力が急激に吐き出されて、干からびてしまうんだよ」
「それで世界にダンジョンを作って、自分の住みやすい環境にするつもりなんだろ?」
ゲームと同じ設定ならば、だが。
「よく知っているね、ヒガンもどき。本当にヒガンと関連があるらしいけど、そのウワサは本当のようだ」
「あんまりうれしくねえな」
ヒガンの力は、失ってしまったし。
「ボクたちも、ここでやり合うつもりはないよ」
短パンのポケットから、ベリトが両手を出した。質量のある影のような物体を作り出し、胸の前でグニグニと練り上げる。バスケットボールのように、その影を叩きつけた。
「いつヒガンが復活しても、おかしくないからね。それに、ボクも完全体じゃない」
影はネバネバした液体のように広がって、多頭の巨大なヘビに姿を変える。
「おいでヒドラ。コイツらをまとめて潰しちゃって」
ヒドラという多頭ヘビは、みるみる大きくなっていった。
「おい待て、コラ! ワシらと勝負せえや!」
「待たないよ。もどきとはいえ、ヒガンがいるんだからさ。油断できない。ボクも力が足りないから、当分は姿を消す。このダンジョンからも、手を引こう」
ベリトが後ろへ下がる。ベリトの背後に、紫色の渦が広がっていった。移動魔法のようだが。
「気が向いたら遊ぼうよ、ヒガンもどき。それと、そのお友だちもね。まあ、このヒドラを倒せたらだけど」
うれしくない投げキッスを飛ばし、闇へと消えていく。
ヒドラが、丸太というか土管のような巨体を揺らしながら、吠えた。その場にいたオークを、食らう。
「味方まで、食ってるよ!」
「くそ、来るぞ!」




