第19話 ロニの母親
ロニの母親は、ロニをそのまま大人にしたような感じで、本当にそっくりである。化粧をすると、あそこまで化けるんだろうなと思えた。
「お母さん、ごめんなさい」
変に噛みつくでもなく、ロニは素直に謝る。
「いいのよ。無事でよかった」
母親は、ロニを抱きしめた。
ヒスって殴ったりしない辺り、良好な親子関係に見えるけど。
どうもお互いに、遠慮している感じがするんだよなあ。
「あの。オレは、ミツルといいます。オレが、ヴェロニカさんの地球での身元引受人になります」
お近づきの品は、キナ子に持たせてあった。
「ご丁寧に。お話は、冒険者ギルドから聞いております。まあこちらへ」
車で、家まで送ってくれるという。
ロニと母親は前へ、オレたちは後部の荷台に乗せてもらう。
「商業ギルドの、管轄エリアに住んでるのか。すごいな」
結構裕福な家庭に、生まれたらしい。
商家のお嬢様とは聞いていたが、いかにも「金持ちの家!」って感じはしなかった。
しかし、異世界を感じられる要素が、こちらに向かって猛ダッシュしてきた。
白いサモエド犬? のような物体が、ロニの胸に飛び込んできたではないか。
「ノーマン! 元気だった?」
しゃがんで、ロニがノーマンという犬らしき物体を撫でる。
これが、この世界の犬なのか?
白い毛並みと顔立ちは、たしかに犬だ。しかし、馬くらいデカい。
「あの、失礼ですが。この生き物は?」
「ノーマンといいます。【雪精犬】といって、動物ではなく精霊なのです」
ロニが保護された直後に、番犬として飼い始めたそうだ。
忠犬ノーマンは、ロニにピタッとくっついて離れない。
「では、どうぞ」
家に上がらせてもらう。
厳重なセキュリティ面以外は、普通の家という印象を受ける。
部屋を必要最低限にとどめて、娘の安全を見ていられるようにしている様子だ。
監視というほどではないが、たしかに「過干渉かなー」と思えた。
親のエゴ、というよりは、強迫観念のようなものを感じる。
「結論から申しますと、地球への滞在は、まだ反対です」
だろうな。
「ヴェロニカは、まだ一六歳です。ムリに地球へ滞在しなくても、もう少し大人になってからだって」
母親の言葉に、ロニが身を乗り出そうとした。
このままでは、口論になってしまう。
オレはロニを静止して、母親も落ち着かせる。
「まあ、お話を聞いてあげてください」
「はい……」
ロニの母親は、心底心配しているだけ。
家出のことだって、なにが不満なのかなどを聞いてこない。ロニにだって言い分があるだろうと、頭ではわかっているのだ。
それでも、家族を失ってしまうかもという不安が拭えない。
ロニもそれをわかっているのか、母親を責めたりはしなかった。
そりゃあそうだ。ケンカしてるわけじゃないからな。
衝突はあったろうが、感情的になっていた程度に過ぎない。
今は落ち着いて、それぞれの言い分を聞こう。
「私は、もう大人ですなんて言わない。今回の旅で、よくわかった。私は、まだ未熟。自分の行為は、背伸びし過ぎだって痛いほどわかった」
「じゃあ、帰ってきてくれても」
「それはダメ」
「どうして!? こちらにも、学校はあります。働き口だって、お母さんが用意する。なに不自由ない生活が」
「私は! お母さんに自分の人生を歩んでもらいたい!」
ロニはヒザの上で、自分の手を強く握りしめた。
「ヴェロニカ……お母さんは幸せよ。あなたがいたら、他にはなんにもいらない。でも、あなたを失ったら」
「大丈夫って言ったら、ウソになる。今回だって、危ない目にも遭った。ミツルがいなかったら、死んでいたかもってことも何度だって」
母親は、ロニの話を黙って聞いている。
「それでも」と、ロニは続けた。
「お母さんには、ちゃんと自分の人生を歩んでほしい。私のせいで、自分の時間を犠牲にしないで」
「犠牲だなんて」
「私は、大丈夫。死に場所くらい、自分で決める。お母さんの子だもん。できるよ。もう、なにもできなかった子どもじゃない」
すごいな。親を相手に、ここまで言い切るとはね。
「お母さん。今までありがとう。これからは、自分で生きていくから、心配しないで」
ロニの言葉に、母親がハンカチで目元を押さえる。
ちょっと、オレも胸に込み上げてくるものがあるなあ。
親とこんな話、したことがない。
オレは三姉弟の次男坊で、放任されて育った。
しんみりした話とは、程遠い。
というか、「いつ実家に顔を出したっけ」って感じである。
歳を取ったせいか、こういう人情ばなしに弱くなっているようだな。
「ミツルさんでしたか。娘をお願いします」
ようやく、母親も折れてくれたようだ。
一時は、誘拐犯として拘束されるんじゃってビクビクもんだったが。
『それでは、雇用主からご説明がございます』
キナ子が前に出た。
「お願いします」
胸部パーツが開き、モニターが出現する。
『お母様。雇用主となる、比嘉 毬江・ヴィッカースです』
マリエが、キナ子のモニターに映し出された。
おいおい。さり気なく、オレの名字を名乗ってやがる。




