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第十四話 『避けられぬプロセス』 11. 交われない二人

 


 公園へとたどり着いた礼也を待ち受けていたのは、楓の弟達の憎悪のまなざしだった。

「おい、約束どおり……」

「お姉ちゃんをいじめるな!」

「いじめるな!」

「へ? 何言ってやがんだ。俺はこいつをだな……」

 激しく睨みつける二人に、わけもわからず弁解をしなければならない礼也。

「嘘つけ。お姉ちゃんが泣くなんておかしい。おまえがいじめたからだ」

「……。……だからだ!」

 礼也が振り返る。

 慌てて涙をぬぐう楓の姿が目に入った。

 礼也の背中から降り、楓が弟達を叱りつける。

「こら、違う。この人はお姉ちゃんを助けてくれたの。謝りなさい」

 楓に促され、二人が素直に謝った。

「ごめんなさい……」

「ごめーんなさい……」

「あのなあ、おまえら。助けてもらっといて、ごめんってのは変じゃねえのか」子犬を楓の妹へ手渡し、あきれた素振りで横を向く。「まあ、別にいいけどな」

 弾かれたように楓が振り返った。

「あ、霧崎君」

「ん?」

「……。どうも、ありがとう……」今にも泣きそうな顔のままで笑顔を立て直す。「あの、お礼……」

「はん?」ものぐさな様子で礼也が片目をゆがめた。「んなの、こないだのメロンパンでチャラだって。またくれるってんならもらうけどな」

「あ、……うん」

 へっ、と礼也が鼻で笑う。それから背中を向け、片手を上げてみせた。

「じゃあな、イチゴ姫。んにゃ、桐嶋ツンケン、か。あ~ばよ」

「……」

 歩き出すその背中を淋しそうに見つめる楓。

 目に涙を浮かべ見上げている弟達に気がつき、わなわなと唇を震わせた。

「お姉ちゃん」

「お姉ちゃん……」

 堰を切ったように号泣し始める弟達。

 二人を抱きしめ、楓も安堵の涙を滲ませた。

 と、その時だった。

「!」

 飛来する影が楓達目がけて襲いかかろうとするのに気づき、礼也が急激なターンと猛ダッシュを試みる。

 三人を突き飛ばし、地べたに這いつくばる礼也。楓達を抱きしめたまま影の主を睨みつけた。

「何してやがんだ、てめえ!」

 見上げれば、四人を庇うように空竜王が覆い被さっていた。

 乗用車ほどもあるコンクリートの塊が空竜王のすぐそばで転がっている。楓達のいた場所に突き刺さる寸前で、夕季が間一髪滑り込んだのだ。

 数百メートル先で海竜王とアスモデウスが向き合うのが見えた。

 青く切れ上がった両眼が四人を見下ろす。

 楓達は怯えるように抱き合い、ただ凝視するだけだった。

 空竜王のハッチが開き、蒼白になった夕季の顔がのぞいた。

「大丈夫、礼也!」

「大丈夫じゃねえ!」夕季を睨みつけ、礼也が凄まじい剣幕で噛みつく。「気ぃつけろ! ボケッ! もう少しでぺちゃんこになるとこだったじゃねえか!」

「……ケガは?」

「ねえよ!」

「……」

「ああ! もういいから、行けって!」

「ごめん……」

「いいって言ってんだろ! ウゼえぞ、てめえ!」

 ハッチを閉じ、音もなく申し訳なさそうに空竜王が飛び立つ。

 真顔で注目し続ける楓達にも目もくれず、礼也が携帯電話を取り出しホットラインを展開する。

「おい、桔平さん、陸リュウはどうなってんだ!」

『木場がすぐそばまで到着しているはずだ。近くに県道があるだろ。そこまで出てくれ』

「わかった」ぶすりと突き刺す。「おい、光輔達に言っとけって。もっと気ぃつけてやれってよ」

『仕方ねえだろ。野郎が急に暴れ出したんだから』

「仕方ねえですむかって。こっちゃ死ぬとこだったっての! 助けに来た奴に潰されるとこだったんだぞ!」

『助けてもらっといて、なんだその言い草は。あいつらだって必死にやってんだ。わかんだろ、それくらい。ぎゃあぎゃあ言ってねえで、てめえも早く合流しろ』

「わかったよ! んなろー!」

『なんだ、てめー、その……』

 通話を打ち切り、礼也は楓達に振り返ることなく表の通りへと駆け出した。

 痛む左足を引きずりながら楓がその後を追う。

 そこで楓は見た。

 大型トレーラーの上で上半身を起こした、人型のロボットを。

 兵士のような輩と二言、三言交わし、それに乗り込む礼也の姿を。

 そのロボットに楓は見覚えがあった。先に古閑夕季が乗り込んでいたものも同じくである。

 テレビで巨大なモンスターと戦っていたロボット。確か、ドラグカイザーという名で報じられていた、コンピュータで制御され遠隔操作で動く米軍所属とされていた人型兵器である。

 何らかの形でメガルが関与しているとは噂されていたが、無人でもなく、ましてやその操縦者が礼也や夕季だとは夢にも思わなかった。

 ハッチが閉じ、咆哮を従えながら陸竜王が大地に立つ。

 その様子を楓は畏怖するように眺め続けるだけだった。

「住む世界が違いすぎる……」 






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