第十一話 『シーユーアゲイン』 OP
進藤あさみは表情もなく、彼方の通話相手に相づちをうっていた。
よどんだまなざしを薄暗い室内に泳がせる。
『ガーディアンの封印を解いたそうだな』
「申し訳ありません」
『何故私の指示を守らなかった』
「計画を実行すべきタイミングを逸してしまったと判断したためです。ロシア支部の妨害も含め、あれほどまでの状況に陥ってしまえば修復は不可能だったものと考えられます」
『一度リセットすることが望ましいと考えたわけか』
「はい」
『なるほど、一理ある。我々の目的はメガルの消滅であって、世界の破滅ではない。だが、それは君個人が決断すべき問題ではない』
「申し訳ありません。今後、指示をあおがずに勝手な行動をとらないことをお約束いたします」
『わかっていればいい』感情のともなわない謝罪をすんなりと受け入れる。『くどいようだが、ガーディアンの封印は今後何が起ころうと解いてはならない。周知のとおり、プログラムは凪野博士が砦埜島から三竜王を持ち帰ったために発動したことは、まぎれもない事実だ。アスモデウスは奪われたそれらを取り返しにやって来たにすぎない。だからメガルだけが襲われる。決して人類に敵意を持って訪れるわけではないのだ』
「心得ております」
『懸念はそれだけでない。博士が己の私腹を肥やすために我々を欺いていることが知れたら、政府も世界中の先進国も黙ってはいまい。メガルのせいで日本が孤立化するような状況だけは、何があろうと回避しなければならない』
「……」
『遠からず、第二、第三のアスモデウスが押し寄せて来るだろう。そうなる前に何としてもガーディアンと三体の竜王を砦埜島へ還さなければな』
「はい」
『今となっては君だけが頼りだ。躊躇するな。手段も選ぶな。この国を守るためなら、私は悪者になってもかまわない。できうる限りの支援は約束する。頼んだぞ、進藤司令官』
「……はい」
『海竜王の件も含めてだ。いいな』
「わかっています。人選には細心の注意を払っておりますのでご安心ください」
『信用してもいいのか』
「はい。すでに我々への賛同も確認済みです。彼女ならば必ず期待に応えてくれるはずです」
『そうか……』一拍おく。『我々の協力者たる人員、か』
「はい……」司令室の窓から突き刺さる夕陽の眩しさに目を細めた。「火刈さん」
あさみの全身が血のように紅く染まっていた。