038
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式典が行われ、三人の勇者が誕生した日から十日が過ぎていた。
勇者の誕生に帝都は活気を取り戻し、民衆の表情は希望に満ちていた。
しかし、皇城ではゼフィール皇帝が体調を崩し、起き上がることすら出来なくなっていた。
まともに食事を摂れず、みるみる痩せ細り、式典の時とは別人と化している。
何かの病を患った訳ではなく、精神的な過労が祟り、心の病に掛かってしまったのだ。
原因は明白である。度重なる悪魔との戦争に加え、死刑囚の存在がゼフィールの心を蝕み、遂には壊れてしまった。
三人の死刑囚と交わした約束を後悔していたゼフィールは思い詰め、自分を責め続けた。帝国と民衆を護る為とは言え、鬼の手を掴んでしまった罪を悔いていた。
そして心は後悔と罪の重圧に潰された。
ゼフィールは優し過ぎるが故に自分を責めてしまったのだ。
そのような愚かな父親をユーリス皇女は誇りに思っている。
「お父様。今日は何の日か覚えていますか?」
と、椅子に腰掛けているユーリスはベッドに横たわるゼフィールに話しかけた。
しかし、父親から返事は無い。瞳は開いており、起きているのは間違いないのだが、全く反応が無かった。心が壊れてしまい、話す事も出来なくなっていた。
それでもユーリスは話し掛け続ける。
「今日は、亡くなったお母様の誕生日です。もし宜しければ、御墓へ花を届けに行きませんか?」
と、尋ねたが返事は無い。
優しく微笑み続けるユーリスだが、その瞳は悲しく沈んでいる。
不意に、部屋の扉をコンコンと叩かれ、
「ユーリス皇女殿下。お時間で御座います」
と、メイドの声が扉の外から聴こえてきた。
「……次は会議の予定でしたね。お父様、また伺います」
と、反応の無いゼフィールに言い残すと立ち上がり、扉へ向かう。
部屋を出たユーリスはメイドを連れて回廊を歩く。
皇帝であるゼフィールが倒れ、娘であり皇位継承権を持つユーリスが皇帝代理を務めることになってから、まだ日は浅い。まだ慣れないところは宰相であるローランドが代行している。
これから参加する会議は、帝国の未来を左右する大切な会議である。悪魔の軍勢を討ち倒したが、それは氷山の一角に過ぎない。
つい先日、ゼフィールが倒れた日にローランド宰相から知らされた情報がユーリスの脳裏に鮮明な言葉として蘇る。
「悪魔には、まだ上の階級が御座います。これは、一部の者しか知らない情報ですが、まだ確認を取れていなかった為、皇帝陛下も知りません。ですが、先ほど調査団から報告がありました」
と、ローランドは酷く険しい表情を浮かべて言った。
常に冷静な彼がこれほど険しい表情を見せたのはユーリスが知る限りでは初めてだった。
「……まさか」
と、ユーリスは悟り、碧い瞳を大きく見開いた。
「最上級悪魔『レベル4』の存在が確認されました。現在、把握しているのは二体。調査団の報告では見た目は殆どが人間と瓜二つではあるそうですが、見た瞬間に人間ではないと分かったそうです」
と、ローランドは言った。
回廊を行くユーリスは思考を巡らせる。
――最上級悪魔の存在が確認された今、皆の知恵を借り、対策と今後の行動を考えなければいけません。お父様に代わって、私が帝国を護らなくてはいけないのですから。
遅かれ早かれ、いつかは皇帝として帝国を導かなくてはならない。それならばと、皇帝代理を務めることに迷いは無かった。
力強く碧い瞳で前を見詰めるユーリスは回廊を進み、会議が行われる部屋の前に立つ。
メイドが扉に手を掛けた時、
「少しばかり待って頂けますか?」
と、ユーリスは彼女の手を制止した。
ピタリと手を止めたメイドは「畏まりました」と静かに頷く。
大きく息を吸い込んだユーリスは深く息を吐き、胸に手を当て、瞳を閉じる。
心を落ち着かせると、徐に瞳を開け、覚悟を決めた。
「ありがとう。開けて下さい」
と、ユーリスはメイドに言った。
そして、扉が開かれるとユーリスは皇帝代理として帝国を導くべく、足を踏み入れる。
帝国は静かに蝕まれ、破滅への道を辿っている。
それでも、諦めず力強く立ち向かうユーリスこそが、帝国に残された唯一の希望なのかもしれない。
この暗黒時代を迎えた帝国に咲いた一輪の花の如く、ユーリスは輝きを失わない。
円卓を囲むのは宰相、文官長、武官長、四大貴族の領主。
帝国の最高位権力者である彼らに向かってユーリスは力強く言う。
「必ず帝国を護って見せます! ユーリス・テイン・シャーロットの名において!」
こうして、それぞれが選んだ道を進み始めた。
ある者は戦うことを辞め、
ある者は人々の未来を護る為に動き出し、
ある者は主人を生き返らせる為に戦い、
ある者は想いを寄せる皇女の為に戦い、
ある者は強者と戦う為に戦う。
未来に向かって進む者、剣を手放して立ち止まる者、過去を悔やみ己を責める者。
それぞれが選んだ道の先には何が待っているかは、誰にも分からない。
道が続いていないかもしれない。
隠された道があるかもしれない。
選択の結末は誰にも分からない。
しかし、道を進まなくては目的地に辿り着くことは無い。それだけは分かる。
間違った道を行くことを恐れ、足を止めるのは死んでいるも同然だ。
だから、恐れず足を踏み出せる者こそが本当の『勇者』なのだ。
そういう意味では、三人の死刑囚は『勇者』である。
彼らは人間でも悪魔でもない。
破滅の願いを託された『勇者』となった。
三人の勇者の戦いは、まだ始まったばかりである。
終わり
またいつか投稿するかもしれません。
書く時間を作れるようになったのが嬉しい限り。
追記:10/10 別の御話を書いている途中でしたが、「書きたかった話と何か違う」と思い、書き直します。読んでいる人は多くありませんが、少しでも楽しめるものを書けるよう頑張ります。




