003
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皇城の敷地内には四柱の塔が聳えており、見張りの役割以外に塔の中腹は騎士達の修練場となっている。その修練場から外を覗くと城門前に押し寄せる民衆の姿が見え、声が聞こえてくる。彼らの表情と声は激しい焦燥に包まれている。
原因は考えるまでもなく明白だ。騎士団が敗北し、すぐそこまで悪魔の軍勢が迫っているのだから当然であろう。殺されるかもしれないのだから必死にもなる。
塔の修練場の窓より、その光景をジッと見下ろすのはレイ・ルルシオン騎士王。右眼を包帯で隠し、残る左眼が不安と恐怖に苦しむ民衆を見つめる。
顔を顰め、胸に走る痛みを堪える。
悪魔に負わされた傷よりも帝国を、民衆を守れない己の弱さが悔しかった。今にも叫びたい気持ちを抑え、更に顔を歪める。
レイの顔を歪めた原因はもう一つあった。
「陛下は何を考えている。死刑囚の力に頼るなど、信じられん」
と、ゼフィールの『死刑囚を戦わせる』発言に怪訝を覚えずにはいられなかった。
「悪魔の力は確かに強大だ。今の我々に抵抗する手段が無いことは確かだが、どうして――」
――どうして、我々に最後まで戦うように命じてくれない。
ゼフィールにそんなつもりが無いのは重々理解していた。
しかし、どこか裏切られたような気分だった。
レイは悔しかった。己の弱さが。皇帝に頼られなかったことが。
右眼を奪われ、右腕も奪われ、聖剣までも奪われ、皇帝の信頼も失い、あの黒山羊の悪魔が何もかもを奪っていった。
それでも、レイは修練場を訪れたのは諦めていなかったからである。悪魔と戦うことを諦めていないのだ。
彼を動かすのは聖騎士の一人としての、騎士王としての誇り。それだけが彼の足を修練場に向けさせた。
誰も訪れることが無い、騎士王専用の修練場で腰に携えた剣を抜く。
「私は帝国を、その民衆を守る聖騎士だ!」
左手に握った剣に魔力を纏まわせると、袈裟懸けに振り下ろす。




