027
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大雨が降る中、帝都の東門を背に五万の帝国騎士団は陣を組み、悪魔の軍勢を迎え撃つ準備を整えていた。
騎士団と対峙するように、丘の上に立ち並ぶ三千を超える悪魔の軍勢が開戦の時を待っている。
五万の騎士団の後方、帝都を囲む高い壁の上で胸壁に立っているのは死刑囚のバグである。
黒い斑模様の赤髪と褐色の肌を雨に濡らし、ジッと戦場を見下ろしている。
バグの薄紅色の瞳は、悪魔の軍勢の先頭に立つ黒山羊の頭を持つ悪魔に目を奪われていた。
その黒山羊の悪魔こそ、十騎士を壊滅させた上級悪魔であり、その手にはレイから奪った白銀の聖剣が握られている。
黒山羊の悪魔を見つめていたバグは、壁の上に控えている騎士の青年に声を掛ける。
「小太刀のような少し短めな剣が欲しい」
「え、はい? 小太刀ですか?」
と、不意に声を掛けられ、騎士の青年は動揺してしまった。
「小太刀か、それが無ければ少し長くても構わない。用意してくれ」
「わ、分かりました。ですが、何かあったのですか?」
と、騎士の青年は興味本位に尋ねた。
「……あの悪魔は危険過ぎる。全力を出す為にも武器が欲しい」
と、バグは黒山羊の悪魔から目を離さずに言った。
騎士の青年は戦慄した。四体の中級悪魔を倒したと噂には聴いていたバグが、警戒する程の悪魔。それほどに上級悪魔は危険なのだと騎士の青年は悟った。
彼は飛び出すように小太刀を探しに向かう。
騎士の青年は今回が戦争初参加の新米騎士だった。
悪魔と戦争するのは自殺するようなものだと思っていた。少し前までは。
そんな時、騎士団が砦を奪還したという報を聴き、彼は驚いた。
砦奪還の成功には三人の死刑囚の戦士がいた事を知ると、彼の心にひとつの想いが芽生えた。その三人の、新たな『英雄』に対する希望と憧れ。
三人の中でも、最も多い四体の中級悪魔を倒したという、黒い斑模様の赤髪と褐色肌の青年の強さに憧れを抱いていた。
バグが死刑囚であると知った時は驚き、嫌悪感を抱いた。
しかし、人伝に彼の強さを知り、畏怖を覚えた。
それに、帝国を救うために戦ってくれた彼らに感謝している騎士は多い。先日の戦争で死ぬはずだった騎士達は三人の死刑囚を命の恩人だと思っているに違いない。
騎士の青年も三人の死刑囚に、既に嫌悪感は抱いていなかった。それどころか会ったことも無いのに、歳が近いという理由だけでバグに対し、勝手に親近感を抱いている。
先日の、帝都に突如現れた巨人の悪魔と炎の悪魔の争いを止めたのも彼だと言われている。
その青年が、バグがこの戦争に参加する。
他の騎士や、聖騎士達も悪魔と戦うのは脅えていたが、バグが参加するのを知ると勝てるかもしれない希望と期待を持ち、皆の士気が高まった。
新たな英雄バグがいれば、悪魔にも勝てる。
と、この戦争に参加している騎士の殆どが希望と期待を抱いている。
彼の存在が騎士団の士気を高めているのだ。
しかし、騎士の青年は一抹の不安を覚える。
そのバグが警戒するほどの悪魔がいる。
もし、彼が敗れたら帝国は間違いなく滅びる。
帝国の存亡はバグの手に握られているのだ。




