表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
運び屋の手記より ~スワイライム~  作者: くろきほむら
運び屋の備忘録 ~グローリ~
48/49

運び屋の備忘録 ~グローリ~ 第一章-2 剣術とグローリ

 霊術師には、一般人にはない感覚がある。

 それは精霊術が、働いているかを知る感覚である。

 そこに、火があったとする。

 その火が自然に発火したものか、霊術により発火したのかを判別するすべはない。

 しかし、火が付く直前に、霊術師が、その場に居合わせていれば、霊術師はその感覚で、霊術で発火したものだと知ることができる。

 感知できる距離は、その霊術の大きさや、感知する霊術師の才能によるが、フレイナは、視界内においては大抵の霊術の発生を見逃すことはない。

 昨日まで自分の墓石があった場所に来た時、グローリがそこにいないことを確認し、近くでグローリが霊術を使っていないことも確認するとため息をついた。


「すみません。どうやら、ここではないみたいですね」


 レイクル山に入り夜を明かすとき、いつも、グローリはこの場に来て寝ていた。

 デーリッガとなって彼の傍にいた時、その彼の体を冷やさないように、彼女はその羽でグローリを包んでいたものだった。


「そうですか、残念です。では、いったん村に戻りますか?」


 ギャゼズは、落ち込むこともなく、返事をする。

 グローリがいる場所ならわかると大見得を切った手前、フレイナは、このまま戻るのもばつが悪いと、少し待ってくださいと目を閉じた。

 こうすることで、感知する範囲が視覚の範囲ではなく、聴覚の範囲へと切り替わる。

 しばらくして、川の流れの音とともに、氷を操ろうとする霊術をフレイナは捉えた。


「おそらく、こちらです」


 道を外れ広場の奥の枝をかき分け、林の中へとフレイナは進んでいく。

 『おそらく』というのは、霊術の発動主が誰かまでこの方法では分からないためだ。

 これは、フレイナだけではなく、霊術師や、霊獣師の誰もが、例外なく分からない。

 それでも、このレイクルで、霊術を使う可能性のあるものなど、グローリ以外は考えられないので、彼女は、発言とは逆に、確信をもって川に向かって山を下りて行った。

 そして、木々がなくなり、狭い川原が視界に広がると、その場所に見つけることができたのだった、グローリを。

 グローリへと近寄ろうと、フレイナは腰の高さほどある段差を飛び下りると、その勢いを殺せないままよろける。


「……大丈夫か、無理をするな」


 フレイナが着地した音を聞き、振返ったグローリが倒れそうになったフレイナを霊術で浮かし、近寄った。


「助けて頂きありがとうございます、グローリ師よ」


 地面に足がつくと、フレイナは深々と頭を下げる。


「……礼はいい。それより……」


 グローリは、フレイナの後ろから追いついてきたギャゼズを見る。

 ギャゼスが軽く会釈をするのをみて、フレイナが話し始めた。


「師へ弟子入りをしたいそうです。名前は……」


「……知っている。顔見知りだ」


 フレイナの言葉を遮り、グローリはギャゼズを睨む。


「やはり、ご無事でしたか。ココヤスで霊術師の噂を聞きもしやと思いやってきましたが、来たかいがありました」


 ギャゼズはそこまで言うと、右膝と左拳を地面につけて、グローリを仰ぎ見る。

 セレルーネ王国の剣術の流派でみられる、弟子入りの作法である。


「このギャゼズを弟子にしてもらえないでしょうか?」


 ギャゼズは、グローリが迷惑がるだろうと思っていたが、何日でも、何十日でも頼み込む覚悟でいた。

 しかし、グローリは、やれやれと漏らすと、断るでもなくギャゼズに話しかける。


「……お前は何のために弟子入りを望む」


「誰にも負けない強さを得るためです」


「……それならば、霊術を教えればいいのか?」


「いえ、私は剣で貴方を超えたい」


「……剣で霊術を超えることはできん。なぜ、剣に固執する?」


 ギャゼズは、迷いなく答える。


「剣術が好きだからです」


「……そうか。それならば、面白いものを見せてやろう……」


 グローリはそういって振り返り、川岸まで歩くと、霊術を発動するため、念じ始める。

 すると、川の中から、牛を二回りも大きくしたほどの氷柱が宙に浮かびあがり、ゆっくりと川原の上に移動し、地面に置かれた。

 中には、牛ほどの大きさのハリネズミのような魔物が、真っ二つになったまま氷漬けにされていた。

 ブラドベリューだ。

 スワイライムを襲い、キジュに両断されたブラドベリューを、グローリは大事に保存していた。


「これは?」


 ギャゼズは、意味が分からずに、グローリに尋ねた。


「……お前にこれができるか?」


 グローリの言葉に反応するように氷が溶け始め、ブラドベリューを間近でみられるようになる。

 そのブラドベリューの切断面を指さしながら、グローリはそういった。


「この切断面……霊術ですか?」


 腹から背へ向けての切断面は、見事なまでに綺麗に切れているのだが、綺麗に切れているその細胞は、グズグズに壊されていた。

 体の内部を破壊し柔らかくなった後で、鋭い刃か何かで寸断されたのではないかと、ギャゼスは見立てた。

 そして、最初の内部から破壊という点で、剣術では不可能と、ギャゼズは判断した。


「……いや、剣術だ」


 グローリは、空中にブラドベリューと同じ大きさの氷塊を作り出すと、おもむろに剣を抜いた。

 中段に剣を構えると同時に氷塊が、高速でグローリに向かって飛んでいく。

 グローリもそれを迎え撃つように駆け出し、両手で剣を持ちなおして、交差する瞬間に剣を振りぬいた。

 カン!!!

 !!

 !

 甲高い打撃音とともに、刃が氷に食い込むが、次の瞬間、刀身に亀裂が走り、砕け散ったのは剣の方だった。


「今のは?」


 事態をのみ込めないギャゼズは、グローリに問いかける。


「……上手くいけば、そのブラドベリューと同じようになるはずなんだがな……」


 折れた刃を拾い、霊術で剣を復元しながら、グローリは答えた。

 その言葉の中に、悔しさを感じ取れたのは、フレイナだけだったが。


「私には、ただ、氷塊に剣を叩きつけたようにしか見えませんでしたが?」


「……俺にも、それ以上の事は分からん。俺が知っているのは、構えだけだ……」


 グローリの返答で意味が分かれというのが酷な話で、ギャゼズには、グローリが何を言いたいのかが、全く見えてこなかった。

 ただ、見せてやろうといってたものが、このブラドベリューと、今、見せようとしていた技なのだろうという事だけは理解していた。

 そんなギャザズの心境を察してか、フレイナが口を挟む。


「ギャゼズさんは、アーレス流という剣術の流派を知っていますか?」


「いえ、知りません。この大陸の流派でなくても、国を代表するような流派や、最強いといわれるような誉高い流派なら覚えていますので、どこかの些末な流派だとは思いますが?」


 幼い頃から、剣術とともに世界の数多ある剣術の流派の名前や、時には型を見せられてきた彼にとって、知らないというだけで取るにたらない流派であるといえた。


「そのブラドベリューを真っ二つにした技の名前は、アーレス流奥義交差竜破というのだそうですよ」


 そんな無名な流派に、こんなことができる技があるとは思えないと、ギャゼズは半信半疑だ。


「もっとも、私もグローリ師も、その技がだされるところは見ていないのですが。その技を見ていた人に聞いただけなのです。師は、構えは別の機会に見ていたそうですけど」


「では、その方の見間違えで、実は、霊術だったのではないでしょうか?」


 ギャザズがもっともな感想を述べるが、グローリが否定する。


「……あれに、霊術は使えん。それに、それをあれがやったというのなら、納得しうるだけの力量は持ち合わせている」


「あれというのは、キジュさんという女の子なんです。十四歳だということですが、グローリ師と同じ位にすごく腕の立つ剣術使いなのです」


「少女? まさか!?」


 ギャゼズは、グローリが大会で言った言葉を思い出した。


「数倍上をいくといっていた女性というのが……」


「……そうだ。あの時はああいったが、剣術だけで戦えば、俺でも勝てるか分からん。こんなことができるくらいだからな」


 グローリは、直った剣を鞘に納めながら続ける。


「……それで、どうする……。剣で強くなりたいというのなら、ここではないと俺は思うがな……」


「ここではないとは?」


「ああ、キジュさんは運び屋で、昨日、旅立ったんです」


「運び屋? 剣術家ではないのですか?」


「剣は、強くなれないから止めて運び屋になったという事みたいですよ」


「強くなれない……って、もし、話の通りならば十分なほど強いと思いますが……」


「……本人が納得できる強さにならなかったという事だろう。だからこそ、まだ、伸び代もあるだろう……」


 ギャゼズは、もう一度、ブラドベリューの切断面を指でなぞり頷いた。


「分かりました。貴方ほどの人がそこまで言うほどの人物です。私も会いたくなってきました。きっと、その少女にあって強くなってみせます」


 ギャゼズは、拳を強く握りしめる。


「キジュさんを追いかけるのでしたら、一旦、スワイライムに戻りましょう。ベッケルさんの家への届け物をしに来たので、今度は届けたという証明書をココヤスのエルナードさんのところに運ぶといってましたから。エルナードさんの家を教えてもらえれば、追いつくのに役立つでしょう」


「それは、助かります」


 ギャゼズは、深々と頭を下げる。


「いえ、いいのです。先ほどは失礼をしましたし。ついでに家でご飯を食べていってください。その間に、キジュさんへの紹介状も書きますので。いきなり行っても不躾でしょうから」


 フレイナの心遣いに、ギャゼズは、また、頭を下げた。

 そんなギャゼズをみてグローリは、遠い昔の事を思いだしていたのだった。

お待たせしました。

ようやく、グローリが登場させることができました。

楽しんでいただけたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ