第30章 拘束の下で
第30章 拘束の下で
一日は穏やかに進んでいた。
いつも通りのように。
次の客が静かに扉を閉めて去り、部屋には再び慣れた静寂が残った──空虚ではなく、仕事のための静けさだった。
マルク・オルロフは短い記録を書いた。
診察の合間の空白。
吸う。
吐く。
その瞬間、扉が勢いよく開いた。
突然に。
ノックもなく。
部屋に二人の衛兵が入ってきた。
重い足音。鎧の金属音。外気と冷たい空気の匂い。
マルクは顔を上げた。
急ではなく。
ただ視線を向けるように。
「何かお手伝いできますか?」と、彼は落ち着いて尋ねた。
衛兵の一人が一歩前に出る。
「アルデンヴァル王冠の名において」彼の声は硬く、訓練されたものだった。「事情が明らかになるまで、あなたを拘束する」
静寂は戻る前に壊された。
背後から別の声がした。
聞き覚えのある声。
「やっとか」
マルクはゆっくりと視線を向けた。
開口部にドロンが立っていた。
腕を組み、明らかな満足の表情で。
「もっと時間がかかるかと思ったよ」と彼は衛兵を見ながら笑った。「こいつ、人の“治療”なんてやってるんだぜ」
彼は一歩中へ入る。
「人の頭に入り込んで、言葉を囁く」
間。
「完全な魔術だ」
衛兵たちは彼を止めなかった。
つまり彼はすでに同じことを話していたのだ。
マルクは落ち着いて彼を見た。
「あなたが通報したのですか?」
ドロンは笑みを広げた。
「俺は“真実”を言っただけだ」
間。
「後はお前らが決めろ」
衛兵の一人が割って入る。
「十分だ」
彼はマルクの方へ向く。
「来てもらう」
「持ち物はそのままだ」
もう一人が付け加える。
「部屋は封印され、調査対象となる」
短い間。
「触れるな」
マルクは頷いた。
急な動きはしない。
ただ受け入れる。
「わかりました」
ドロンは小さく笑った。
「聞いたか?」
「触ることすら禁止だとよ」
彼は部屋を見渡す。
「いい暮らししてたな」
間。
「“だった”けどな」
マルクは何も言わない。
衛兵が近づく。
「手を出せ」
マルクは差し出した。
抵抗はない。
金属が冷たく手首を締める。
小さな部屋には不釣り合いなほど大きな音で、カチリと鳴った。
ドロンは見ていた。
満足そうに。
「その方がいい」と彼は言った。「ずっと正しい姿だ」
マルクは彼を見た。
「それが望みだったのですか?」
間。
ドロンは肩をすくめる。
「俺は人が“お前の物語”に巻き込まれるのが嫌なだけだ」
彼は少し頭を傾ける。
「後は俺の問題じゃない」
衛兵が扉を開ける。
「行くぞ」
マルクが連れ出されるとき、一度だけ部屋を振り返った。
部屋は開いたままだった。
すでに一人の衛兵が封印の印を取り出している。
もう一人は棚を調べていた。
魔術師らしき者が中へ入る。
捜索が始まる。
外の通りは視線で満ちていた。
今度はより鋭く。
ドロンも後からついてくる。
去らない。
少し後ろを歩く。
「見ろよ」と彼は通行人に言った。「これが“心の医者”だ」
目をそらす者もいれば、見続ける者もいた。
マルクは静かに歩く。
しかし街の音は変わっていた。
より重く。
城塞は冷たかった。
石。
静寂。
地下への下降。
扉。
鉄格子。
地下牢。
「入れ」
扉が開く。
マルクは入った。
牢は狭い。
湿った石の壁。
粗い、歪んだベンチ。
光はわずか。通路から鉄格子越しに入るだけ。
完全な闇ではない。
しかし安心できる明るさでもない。
マルクは座った。
手錠はすでに外されていた。
しかし感覚だけが残っている。
彼は手首を指で触れた。
感情はない。
ただの記録。
ここには静寂があるが、それは違う種類だった。
診察室の静寂は「支える」もの。
ここは「押しつぶす」もの。
選択肢はない。
構造もない。
ただ待つだけ。
遠くで音がした。
咳。
鎖の軋み。
低い声。
マルクは顔を向けた。
隣の牢。
誰かがいる。
「おい」と声がした。
かすれた声。
年配の男。
「新入りか?」
マルクは少し間を置いた。
「はい」
短く。
男は笑った。
「やっぱりな」
間。
「まだここが間違いだと思ってる顔だ」
マルクは格子を見た。
「違うのですか?」
沈黙。
そして小さな笑い。
「最初は皆そう思う」
間。
「そのうち慣れる」
マルクは反論しない。
ただ聞いていた。
「何で入った?」声が尋ねる。
「通報です」
間。
「仕事です」
一瞬の沈黙。
「仕事?」
笑いが少し大きくなる。
「珍しいな」
「ここは普通、“仕事”じゃ入らない」
マルクは落ち着いて言う。
「理解されない仕事は、こう扱われる」
間。
隣が黙る。
考えているようだった。
「どれくらいここに?」と声。
「十分です」とマルク。
間。
「時間の流れは違います」
マルクは小さく頷いた。
気づいたように。
呼吸を吐く。
「お前、何してた?」と再び声。
間。
マルクは答えた。
「人の話を聞いていました」
沈黙。
そして小さな笑い。
「そりゃここは忙しくなるな」
マルクは壁にもたれて座った。
数分間、ただ聞いていた。
足音。
水滴。
壁越しの呼吸。
間が長くなった。
そして彼がそれを破った。
「名前は?」
沈黙。
「久しぶりだな、名前を聞かれるのは」
間。
「レス」
「レス・ソーン」
マルクは頷いた。
「マルク」
「知ってる」とレスは笑う。「もう噂だらけだ」
間。
「“頭の中に入るやつ”だろ」
マルクは反応しない。
「なぜここに?」
「小さな窃盗です」
間。
「失敗した」
「捕まっただけですか?」
「そうだ」とレスは静かに言う。「普通だ」
少し息を吐く。
「店。金が悪く置かれてた」
「取った」
「見つかった」
間。
「それだけ」
マルクは少し首を傾ける。
「よくやるのですか?」
沈黙。
「真面目に聞いてる?」とレスは笑う。「牢屋で会話してるんだぞ」
マルクは静かに言う。
「他にすることがない」
沈黙。
そして小さな笑い。
「まあな」
間。
レスはため息をつく。
「頻繁じゃない」
「でも初めてでもない」
間。
「追い詰められると考えなくなる」
「ただ取る」
マルクは遮らない。
「追い詰められる?」と彼。
沈黙。
レスは少し考えた。
「金がない」
「借金」
「急ぎ」
間。
「普通だろ」
マルクは頷く。
「その後は?」
「運が良ければ終わり」
「悪ければここ」
彼は壁を軽く叩いた。
「今回は悪かった」
間。
マルクは床を見た。
整理するように。
「後悔は?」
長い沈黙。
「盗んだことじゃない」
間。
「捕まったことだ」
マルクはすぐには答えない。
「捕まらなければ続けていましたか?」
レスは鼻で笑う。
「面倒な質問が好きだな」
間。
「そうだ」
短く。
正直に。
沈黙。
「ここから出た後は?」とマルク。
「作業だろうな」とレス。「石運びとか」
間。
「また来たいか?」
「いいや」
即答。
間。
「でも選択肢は多くない」
マルクは息を吸う。
「では考えましょう」
レスは笑った。
「ここで?」
間。
「始めるのか?」
マルクは言う。
「質問をするだけです」
沈黙。
「いいだろう」とレス。「やってみろ」
そして、彼らは話し始めた。
そしてその空間は──
少しずつ、
診察室の形に似ていった。
わずかに。




