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【完結済み】The Safe House  作者: さかな煎餅
第2章「温もり」
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共犯

女性――氷室さんはざっと、ここまでのことを話してくれた。

とっさに倉庫のバイクに乗り、ここまで連れてきてくれたこと。

金は足りなかったが、なんとかして治療はしてもらえた、ということ……。

……金が足りない、という部分については、彼女はなぜか顔を赤らめた。


氷室零

「まあ、色々あって、

……金は今のところ、問われなくなった」


……よく分からないが、彼女がここに連れてきてくれたおかげで、

オレはなんとか、一命をとりとめたらしい……。


夢野陽

「ありがとう……ええと、氷室さん……で、いいかな」


彼女はうなずいた。


夢野陽

「でも……オレをここに連れてきて、よかったの?」

氷室零

「どういうことだ?」

夢野陽

「だって……氷室さんは、巻き込まれただけじゃない。

……ここにオレとメグちゃんを連れてきたってことは、

氷室さんは共犯になっちゃうよ」

氷室零

「……」


彼女はうつむいた。


氷室零

「……それは、もういい」

夢野陽

「そうなの?」

氷室零

「ああ。……もう、共犯でいいよ」

夢野陽

「!」


……ドキッと、心臓が高鳴った。


夢野陽

(いや……なに、嬉しくなってるんだ……!

社会的に考えて、よくないことなのに――)

氷室零

「……別に、お前のためじゃない。メグのためだ。

……メグが、お前がいないと、イヤそうだから……」


氷室さんはうつむいたまま、口元をもごもごさせた。オレは頬が緩んだ。


夢野陽

「そう……。でも、ありがとう。うれしいよ」

氷室零

「……そ、それよりも……色々、話し合わなきゃだろ!」


彼女は手をぶんぶん振った。


夢野陽

「ん?」

氷室零

「今後のこととか……あの、スーツの連中とか!

……なあ、メグ、」


彼女は真剣な顔になり、メグちゃんの方を向いた。


氷室零

「あのスーツの連中は、なんなんだ? メグの家の人か?」

メグ

「! ……えっと……」


メグちゃんはホッとした顔をしていたが、急に青ざめた。


氷室零

「あっ……悪い……。……イヤなら、ムリに言わなくてもいい」

メグ

「うん……」


オレは顎に手を遣った。


夢野陽

「どうも……あの人たちはメグちゃんの家の人……

あるいはその関係者に見えたけどね。

メグちゃんのお母様がどうの、とか言っていたから……」

氷室零

「……そうだな。

……ヤツら、暴力まで使ってくるとはな……

ひどい連中だ……

――って、……私たちも、ひどいといえば、同じか……」

夢野陽

「……そうだね」


……ご両親の許可もなく、

メグちゃんを、あの屋敷から連れ出してしまった。

それだけじゃなく、氷室さんはバイクで、この診療所まで連れてきてくれた。

――暴力的な手段を使ったという意味では、こちらも同じだ。


夢野陽

「…………」

氷室零

「……すまん。……これから、どうする?

……あの家には、もう帰れないと思うが……」

夢野陽

「そうだね。あの人たちにバレちゃったから……」

(じゃあ、メグちゃんを連れて、警察や児童相談所に――)


ドクッ……と心臓が鳴った。


夢野陽

(……それだけは、イヤだ……)


……いけないことのはずなのに、

……胸が、勝手に重く――。

オレは胸元を押さえた。


氷室零

「……どうした? 傷が痛むのか?」


……氷室さんが、オレの顔を覗き込んだ。


夢野陽

「あっ、いや、大丈夫だよ、ありがとう……」


オレは笑ってみせた。


氷室零

「なら、いいが……。

……長居しすぎたな。お前の傷にも障る……。

……そろそろ、と言いたいところだが……」


氷室さんは自分のジャージのポケットをまさぐった。


氷室零

「なあ……金を貸してくれないか?

……この後、どこかに私たちが泊まるとしても、

私は金を持っていなくてな。

ここに寝泊まりするわけにもいかないだろう」

夢野陽

「いいよ、ちょっと待って」


オレは革財布から数千円を出し、渡した。


夢野陽

「はい」

氷室零

「悪い……いつか、必ず返す」

夢野陽

「いいよ、巻き込んだのはオレだし」


氷室さんはムッとした顔をした。


氷室零

「それとこれとは、違うだろ。

お前はメグを連れ去るところまでやった、

でも、それについていくと決めたのは、私だ。

私が、私の事情で、勝手に決めたことだ」

夢野陽

「……そうかも、しれないけど……

……ここに連れてきてくれて感謝してるし、

連れてきてもらわなければ、オレは死んでたよ。

宿泊代は、当然、こっちが出さないと」

氷室零

「いや、だから、それとこれとは、違うだろ!」


氷室さんが、パイプ椅子から立ち上がった。

ガチャッ……

部屋のドアが開いた。


一同

「!」

医者

「うるさいぞ、静かにしろ」

夢野陽、氷室零

「「あっ……」」

夢野陽

「すみません」


オレは頭を下げた。

氷室さんは、パイプ椅子にいそいそと座りなおす。


医者

「……仲がいいのはわかったが、ほどほどにしろ。傷に障る……」


彼は身体をひっこめ、扉を閉めた。

……オレと氷室さんは顔を見合わせた。


夢野陽

「……あはは、怒られちゃったね」

氷室零

「……別に、仲はよくないだろう……」


氷室さんはまた、口をもごもごさせた。


メグ

「……」


メグちゃんはオレと氷室さんの顔を見て、なぜかにこにこしている。


氷室零

「……今度こそ、出てくよ。

まあ、安いホテルかなにか、調べて見つけるさ」

夢野陽

「わかったよ。……気を付けて」


氷室さんはうなずき、立ち上がった。


メグ

「また来るね!」

夢野陽

「うん。ふたりとも、ほんとうにありがとう」


……二人が、部屋から出て行った。オレはベッドに横たわり直す。


夢野陽

「オレのために、氷室さんが……」


……最初の、オレを怪しんでいた氷室さんの目を、思い出した。


夢野陽

(まさか、こんなふうに、仲良くお喋りできるなんて……

……まあ、彼女は仲良くない、って言ってたけど)


思わず、口元がゆるむ。


夢野陽

「共犯、か……」


……天井をにらんだ。

たしかに、彼女の言う通り──

彼女の意志で、彼女はオレと共犯になった。

だけど――


夢野陽

(……そもそも、オレがメグちゃんを誘拐しなければ、

共犯にもならなかった……)


……やっぱり、オレが、悪いんだ。

オレのせいで――

……胸のあたりが重くなるのを感じながら、

オレはうとうとと、眠りに身を任せ始めた……。

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