もうひとりの自分との出会い
……目が、覚めた。
夢野陽
「……ここは……」
オレは冷たい、白い床に倒れていた。上体を起こし、辺りを見回す……。
夢野陽
「……なんだ、ここ?」
辺り一面ずっと、何もない白い空間が続いている……。
夢野陽
(……ここは現実か? ……それとも……)
??
「やっと来たね」
夢野陽
「⁉」
振り向くと、
さっきはいなかったはずの見知らぬ少年が、床に三角座りをしていた。
夢野陽
(だ、誰だ……⁉ いつのまに……)
「き……キミは……?」
少年
「はあ。白々しいなあ。知らないフリ?」
夢野陽
「えっ? …………あっ」
よくよく少年を見ると、
──なんと、小さい頃のオレにそっくりだ。本人そのものと言ってもいい。
夢野陽
「え……キミは、オレ……?」
幼い夢野陽
「おーそーい。……そうだよ」
少年は腕に顔を埋めた。
幼い夢野陽
「いくら呼んでも反応しなかったくせに。いまさら来られてもね」
夢野陽
「……そうなの? ……ここは、どこ? キミは、なんでここに……」
幼い夢野陽
「分かってるくせに。……さっきから、知らんぷりだけは一丁前だね」
夢野陽
「………………」
……そう言われても、オレはこの場所も、なぜいるのかも、全く心当たりがない……。
幼い夢野陽
「ほんと、……お前はバカだね」
夢野陽
「え?」
幼い夢野陽
「人のためとか言って。
結局は人を巻き添えにして……大怪我負って。
ほんと、アホ」
夢野陽
(……今までのことか? それにしても……)
「……バカとかアホとか、失礼だよ」
幼い夢野陽
「はっ、別にいいじゃん。自分でそう思ってるんだから」
彼は冷たい目で笑った。
夢野陽
「……そんなこと、思ってないよ」
幼い夢野陽
「あっそ。まあ、いいや」
彼は上の方をジッと見た。
幼い夢野陽
「……そろそろ帰ったら?」
夢野陽
「えっ?」
幼い夢野陽
「みんなが、待ってる……」
彼はもう一度、腕に顔を埋めた。
幼い夢野陽
「羨ましいよ……。僕には待ってくれる人なんて、いないからね。
……それに比べて」
彼はジロリとオレをにらんだ。
幼い夢野陽
「お前は自分の好き勝手にやって、
それでもなお、待ってくれる人がいる。
ずるいよ……。
……僕の声を無視し続けて、やっと聞いてくれたと思ったら、
お前は僕の手の、届かないところに……」
夢野陽
「……?」
幼い夢野陽
「……もう、いい」
彼の声が、ワントーン下がった。
彼は遠くの方を指差し、
幼い夢野陽
「帰れよ、邪魔だ」
冷たく告げた。
夢野陽
(……な、なんなんだ?
出会ったと思ったら、意味のわからないことを言われて、
あげくの果てには出てけだと……?)
「ど、……どう、出ていけば……」
幼い夢野陽
「バッカだなあ! ほんと!」
彼は勢いよく立ち上がった。
夢野陽
「!」
幼い夢野陽
「自分のことくらい! 自分で分かれよ!
バ――カ!
ア――――――ホ!
マヌケ――――――――!」
夢野陽
「な、なんなんだよ??? ……って、キミ……!」
肩を怒らせた彼の小さな身体には、無数のあざがあった。
夢野陽
「ど、どうしたの、こんな……」
幼い夢野陽
「……お前と話してると、とことん不快になるよ。
……自分がつけたって自覚、ないみたいだね?」
夢野陽
「オレが⁉ キミに⁉」
全く心当たりがない。
ましてや、ここに来るのも、彼に会うのも、初めてだというのに。
幼い夢野陽
「そうだよ……。
無視だけじゃなくて、こんなことまでしてきて。
……ほんと、最低だ……」
彼は悲しそうな顔をして、うつむいた。
夢野陽
(……訳が、分からない……)
でも、傷をつけたことは、謝るべきだと感じた。
夢野陽
「………よく分からないけど、ごめん」
幼い夢野陽
「なんっにも分かってないヤツに言われても、ぜんぜん響かないね。
……もういいよ。とっとと出ていけよ」
夢野陽
「……わ、わかった……あっちに歩いていけば、いいの?」
幼い夢野陽
「………………」
彼はまた、オレを睨んだ。
幼い夢野陽
「はあ……。そうだよ。歩いていけば、現実に戻れる……」
夢野陽
「そ、そう……。ありがとう」
幼い夢野陽
「……………」
夢野陽
「じゃ、じゃあね。また会えるか、分からないけど……」
幼い夢野陽
「僕はお前に、ずっと会いたかったよ」
夢野陽
「えっ?」
幼い夢野陽
「でも、会ってみてわかった──
お前はずいぶんとバカで、
話していても、ただただ不快にさせられるだけだってね」
夢野陽
「…………」
……ひどい言われようだ。
オレは、この子とは初対面だ。
なのに、心当たりのないことをまくしたてられ、
ここまでバカにされる筋合いは、ない……。
少年は手を振った。
幼い夢野陽
「はい、しっし。とっとと帰った。いてもうるさいからね」
夢野陽
「……わかったよ。じゃあね」
幼い夢野陽
「………………」
さっき、彼が指差した方へ向かって歩き始めた。
夢野陽
(なんなんだ、いったい……)
あの少年も、この空間も、まるで意味不明だ。
しかし、彼が言うことを踏まえるに……
どうもここは、オレにとっては慣れ親しんだ場所のようだ……。
夢野陽
(こんな場所……知らないし、来たこともない……)
……しばらく歩くと、急に、目の前が光った。
夢野陽
「‼」
(これが……出口か⁉)
目を手で隠しながら、歩き続ける。
夢野陽
(待ってる……って、あの子は言ってた……。
……誰だ?
メグちゃんは屋敷に戻って……
あの女性は、逃げたんじゃ……)
……また、意識が遠ざかり始めた……。
◇ ◇ ◇
夢野陽
「………………」
メグ
「あっ!」
なぜか目の前に、メグちゃんの顔がある……。
夢野陽
「メグ、ちゃん……? ここは……」
??
「診療所……というべきか」
夢野陽
「!」
横を向くと、
なぜか女性がパイプ椅子に座り、腕を組んでいた。
その横に、メグちゃんも座っている。
女性
「……目が、覚めたみたいだな」
夢野陽
「診療所……っていうか、なんで二人ともここに⁉
メグちゃんは屋敷に戻って、あなたは、逃げたんじゃ……」
メグ
「零が、連れてきてくれたんだよ!」
夢野陽
「れ、れい???」
女性
「……私のことだ。
氷室零……それが、私の名前だ」
夢野陽
「ひむろ……れい……」
氷室零
「そうだ」
夢野陽
(やっと、名前を知れた……!けど……)
オレは辺りをもう一度見まわした。
夢野陽
「……あの男の人たちは? 診療所って……?」
氷室零
「……あのあと、私は………………」
彼女は目を伏せ、語り始めた。オレが意識を失った後のことを……。




