71 言いたい事は言う
ピンクゴールドの髪にピンクの瞳を持つアルレット伯爵令嬢が私の目に映る。
あの血と肉片を被った姿ではなく。綺麗に身なりを整え、どこの夜会に行くのかと言うぐらいの胸が開いたドレスにこれでもかというぐらいジャラジャラと宝石を付けて、血なまぐさい戦場に立つのが嫌なのか、輿のようなものに乗って担がれている。
なんだかイラッとくる。最後の最後に出てきて何を言っているのか。采配って何を指示したのか。
私は彼の腕を叩いて下ろすように促す。はっきり言って私は疲れている上に眠い。それに加えアルレット伯爵令嬢の顔を見ると無性にイライラする。なぜだか知らないがイライラする。
二本の軸で支えられた輿の軸の部分を影を使って壊す。すると担いでいる人はそのままで、アルレット伯爵令嬢のみがそのまま輿ごと地面に落ちて行く。
「ぎゃ!」
男性の肩の高さから落ちたのだから相当の衝撃だったのかもしれない。
「また、貴女ですの!」
私の事をギッと睨みつけ言い放つ。私もその言葉をそっくりそのまま返したい。またお前かと。
「ねぇ。聖女様はどのような戦術を示したのか聞いていい?」
「そのようなもの、向かってくる魔物を倒して行けばいいのですわ。北に出現するヒュドラを倒すのが勝利条件ですもの。ザコは所詮ザコですわ。その辺の騎士に任せておけばいい魔物ですもの」
馬鹿らしい。ゲームだと思いこんでいる頭の痛い人だった。現実が全く見えていない。
輿を担いでいた見た目の良い青年に声を掛ける。多分、隊服的に近衛騎士なのだろう。
「そこの君、君の腰にある剣は使い物になる剣か?」
「無礼な!貴様「確認しただけ」」
「ほら、礼式用の剣じゃないのなら、足元に転がっている肉塊を刺してみるといい」
私を馬鹿にしたような目を向けた青年は腰にある剣を抜き、下に向けて片手で肉塊を刺すが、全く突き刺さる様子がない。
今度は両手で構え肉塊を剣で刺すが全く刺さらない。
「おい、お前何を遊んでいるんだ?」
「いくらなんでも、それはないだろう」
なんて同じ隊服の者達から声を掛けられている。
「だったら貴様らがやってみろ」
青年に言われ、同じ様に見た目の良い青年達が剣を抜き、肉塊を刺すが剣のほうが肉塊に弾かれている。
それを見ている周りの騎士たちからは忍び笑いが起こっている。
それに対して青年たちは顔を真赤にしてムキになって剣を振り回すが、面白いぐらいに肉塊に剣が弾かれている。
「ねぇ、聖女様。彼らもそれなりに選ばれて騎士になったのでしょうが、その彼らが斬ることのできない魔物を、向かってくる魔物を倒していけばいい?巫山戯んなよ!!」
呆然と、見た目のいい青年達が肉塊とじゃれ合っている姿を見ていた聖女に苛立ちを顕にする。
「私がこの彼らをどんな思いでここまでにしたと思っているの!命令は聞かない!勝手な行動はする!そして、そのままどうしようもない状況に追い込まれて死んでいく!手に追えないと分かれば逃げ腰になって後退りを始める!」
私の言葉にざわざわと周りがざわめき始めたが、無視をして言葉を続ける。
「それを上位種と戦えるまでに鍛え上げたのに、簡単に解散させるし、使えない新人は多すぎるし。ねぇ、聖女様、貴女は何がしたかったの?こんな上位種がいるスタンピードなんて一個師団必要なのに、たった600人程で対処しろ?じゃ、貴女が前線に立って戦かってよ!なんで私が、貴女に居場所を奪われた私が!ここにいるの!!」
「あ、貴女まさかあの時のバグ?」
誰がバグだ!思いっきり頬を平手打ちをする。
「痛い!なによ!本当のことでしょ!貴女がバグじゃなかったら何よ!悪役令嬢はコンフィーネでしょ!」
コンフィーネ。私の従姉妹であり現当主の長女の名だ。確か同じ歳だったはず。
「聖女様は妄想癖でもあるの?悪役令嬢って何?バグってなに?コンフィーネは私の従姉妹だけど、会ったことでもあるの?」
「ないわ」
「そう。呼び捨てにするなんて、仲がいいのかと思ったのだけど?それにしても殿下は一緒じゃないの?確か中庭のお茶会で一緒だったよね?」
そう、あの北門のときも今も、私を婚約破棄して、新たに婚約者として目の前のアルレット伯爵令嬢を選んだ元第5王子が側にいないのだ。
「ふん!王族でも無く、片足もなくなったラートは必要ありませんわ」
片足が無くなった!思わずハルドを見ると、肯定と思われる首を縦に振る動作をした。
「そんなもの神に選ばれた聖女様にはいとも簡単に治せるでしょうに」
その言葉にアルレット伯爵令嬢は私をキッと睨みつけ言い放った。
「貴女が覚醒イベントを台無しにしたのでしょ!」
「覚醒?イベント?」
そんな物がいつあったのか?全く覚えがない。
「貴女がヒュドラを倒してしまったから私が聖女として覚醒できなかったのですわ!」
私が三つ首竜を倒したから?いやいや、あの時アルレット伯爵令嬢は助けて!と叫んでいたのでは?
「じゃ。これを斬ってみれば?」
そう言って私は亜空間収納に手を突っ込み1メル程のキン○ギドラの手を取り出し、アルレット伯爵令嬢の足元に放り出した。
「ヒィィィ」
「ああ、剣が無いよね」
私はオーガキングが持っていた刀を地面に突き刺し、剣も提供し、場を整えてあげる。私にはキン○ギドラを倒しても何も起こらず、スタンピードも予想通りでしかなかった。己が聖女だというなら示すといい。
アルレット伯爵令嬢は立ち上がり刀の柄を握り込み、刺さった地面から抜こうとするが、全く動く気配がない。これはお箸より重いものを持ったことがないのですの、と言われるパターンか。
「抜けませんわ!」
睨みつけながら文句を言ってきた。私は、肉塊で遊んでいた青年たちに声をかけ、手伝うように促す。青年の一人が刀を抜いたものの刀の重さに耐えきれず、腕が地面に引っ張られ思わず放してしまう。
軟弱過ぎる。
ドスっという音ともに土埃を立てながら倒れた刀を見て、アルレット伯爵令嬢は更に文句を言ってきた。
「こんな持てない刀でどうやって切るのです!こんなもの誰も持てませんわ!」
いや、さっき私は持っていたし。
「言っとくけど、コレぐらいの魔剣じゃなければ、常に魔素を纏ったドラゴンなんて斬れないけど?ここにいる騎士たちはこれと変わらない剣を身につけている。
それで、どうやってヒュドラを倒す気だった?泣き叫んで助けを呼べば、トドメだけ刺させさせてもらえるとでも思っていた?馬鹿じゃない?」
私をにらみつけても何も変わらないから。貴女が非力なのは貴女が努力をしなかったから。
私は刀と三つ首竜の手を回収し、踵を返すが、思い出したようにアルレット伯爵令嬢に振り向く。
「ああ、そうそう。このヒュドラの魔石は王都の結界と連動させて、精神攻撃無効を施したから。これから聖女様は行動するとき気をつけてね」
アルレット伯爵令嬢が主に暮らしている第3層までの結界を管理しているところに侵入し、三つ首竜の魔石を使って結界に新たな効果を付随させたのだ。
「精神攻撃?わたくしは何も気をつけることなんてありませんわ!貴女が邪魔さえしなければ!」
本当にアルレット伯爵令嬢はわかっていない。ゲームの世界だと思いこんでいるのか。これだけのことをしておいて、ただで済むとでも?
「ヴァザルデス師団長、クァドーラ魔術師長。今回の事と顛末を国王陛下に報告しなさい。あなた達を含め、この件に携わった者達が何をしでかしたのか。あと、私のことは立ち寄っただけの冒険者と説明するように」
「「はっ!」」
私は彼の元に行き、ここから去ろうと促す。
「グラン様!お待ち下さい!」
まだ、言い足りない事があるのか?
「グラン様!そのバグに騙されていらっしゃるのです!」
は?私が何を騙すことがある?
「その女はバグです。この世界に必要のない異分子です!」
アルレット伯爵令嬢の言葉に、周りの者達から一斉に殺気を向けられた。彼だけではなく、騎士たちからも殺気を向けられたのだ。息もできぬほどの威圧感。きっとアルレット伯爵令嬢はそんな物を受けたことはなかったのであろう。膝が砕けるように崩れ落ち、空気を取り込もうと口をハクハクしている。
「お前にアリアの何がわかるんだ?」
そう言いながら、魔王然とした彼が血肉にまみれた地面に座り込んでいるアルレット伯爵令嬢に近づいていく。
「ああ、そう言えば俺のことも分かるようなことを言っていたよな」
彼はかがみ込み仮面に手を掛ける。そして、仮面をずらし、アルレット伯爵令嬢を深淵を覗き込んだ目で見下ろす。
「俺の何をわかっているんだ?」
「ヒィィィ!化け物!」
え?彼の事を知っていてその反応?しかし、アルレット伯爵令嬢は慌てて言い直す。
「ち、違いますわ!わたくしは貴方様をす、救えますわ」
ないわ。化け物と言ったことは取り消せない。いくら取り繕うとも先程言った言葉は取り消せない。
「必要ない」
そう言って魔王様は私のところに来て、外套を出すように言い、それを纏うと私を抱き上げ、その場を離れていった。
だから自分で歩けるし。
遠くの方からアルレット伯爵令嬢の声が聞こえるが、もう王都は遥か彼方後方になっていた。
次はオヴァールか。その前に一休みしたい。流石に疲れたと、私はそのまま意識を手放した。
ここまで読んでいただきましてありがとうございます。王都スタンピード編はここで終わりとなります。(章設定等はしていませんが······)
次回はオヴァール編になるのですが、少し時間をいただきたく、一旦完結とさせていただきます。まだ、書き足りないので続きは書きます。あ、聖女視点は入れるべきでした?
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多分来年の2月か3月ぐらいに始められるかなぁと構想中です。遠っ!
あと71.5話の閑話を同時投稿しております。
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評価していただきました読者様、ブックマーク評価をしてくださいました読者様。
ここまで読んでいただきまして本当に有難う御座いました。
感想ありがとうございます!読者様のご感想・ご意見を知ることが出来て嬉しく思っております。
不快感を感じる読者様がいらっしゃることも、承知しております。しかし、ここまで読んでくださいました事を感謝申し上げます。




