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銀の魔女の憂鬱〜ここが乙女ゲームの世界だったなんて聞いていない〜  作者: 白雲八鈴


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64 レイラ!復唱!

「リーゼ様お久しぶりです」


 そう声をかけてきたのは赤い短髪が印象的な第9小隊のエリュト小隊長だ。主に私の身辺警護をしていた小隊の隊長をしていた。


「エリュト小隊長、お久しぶりね」


「久しぶりにリーゼ様の突拍子もない行動に笑わせていただきました」


 さて、何の事だろうと首を傾げてしまう。


「あの、閣下の目を覚まさせてくれたどころか、殴って氷漬けにしたとか」


 いや、してないから!いつもエリュト小隊長はよくわからない噂を流してくれる。


「ビンタはしたけど殴ってないし、氷漬けにもしてないから!で、今回の噂の出どころは誰?」


 そう言うと『意外だ』みたいな顔をされた。


「こっちまで氷の塊が来たので、てっきりリーゼ様のお怒りが収まらず、閣下を氷漬けにした余波が戦闘中の俺たちに向けられたのかと思っていましたが?」


 やっぱり今回もお前か!私の有る事無い事を噂に仕立てた本人は!


「レイラ!復唱!」


「はっ!」


 目の前のレイラが姿勢を正して私を見る。


「エリュトなんて」


「『エリュトなんて』」


「大っ嫌い」


「『大っ嫌い』地獄に落ちればいい」


 私はそこまでは言っていないよ。すると、エリュト小隊長は『うっ』っと言葉を漏らしてうつむいてしまった。


「フォーデリア副隊長·····時間があまりないから、部隊に戻るぞ」


 そう言って肩を落として簡易食堂を出ていくエリュト小隊長。私はハンカチを取り出し、私のお皿に置かれていたクッキーを包む。


「レイラ、甘い物が嫌いなエリュト小隊長にこのクッキーを突っ込んであげなさい」


 出陣の準備をするために戻ろうと立ち上がったレイラにハンカチを差し出した。それを受け取ったレイラはやる気満々で『おまかせください』と言って、エリュト小隊長の後を追っていく。


「プッ」

「クククッ」

「これこれ、この感じ」

「やっぱこうじゃないとなぁ」


 皆口々に言いたいことを言って笑いながら、食堂を去って行く。彼らも、この後戦場に行くために準備をするのだろう。


「あははは、流石リーゼ様ですぅ。飴と鞭ですね」


 ユエはお腹が痛いと言いながら笑っている。騎士の者達が笑いながら出ていく中、こちらに来る者がいた。


「リーゼ様。ありがとうございます」


 第6小隊のアリストス小隊長だ。彼は確か2年前に結婚したばかりだったと思う。何故か私に『先に結婚してしまって、すみません』と謝られてしまった記憶がある。


「私は何もしていないけど?」


「いいえ。この2年間は我々にとって、ただ日々を過ごすだけでした。やっと時が動いた気がします」


 大げさだね。私はただここに立ち寄って君たちを扱き使っているだけなのに。


「エリュトも中々言い出せないものですからね。色々不満は溜まっていたようです」


「私なら言いやすいと?」


「ええ、後でご褒美ももらえますからね」


「あははは!そうですぅ。大の甘党のエリュト隊長が大好きなレイラちゃんからクッキーもらえるなんてご褒美ですよねぇ。リーゼ様ぐらいしかレイラちゃんにそんなこと命令できないし、ふふふあははは」


 ユエ、笑いすぎ。この2年間は彼らにとって色々不満があったのだろうか。その不満を言い出せない組織だったのだろうか。

 それは危ういな。こんな仕事をしていると色々ストレスも溜まるといのに、仕事以外のストレスが溜まっているとすれば、命を落とす可能性も出てくる。

 私が作り上げた聖騎士団を解体して、新たに騎士隊を作ったのに、アルレット伯爵令嬢はいったい何をしているのだろう。



「この騎士団はアリアが中心に動いていたんだな」


 騎士の者達が出ていったあと、隣の魔王様が言ってきた。

 私中心というか、陛下の命令でオヴァールの討伐隊のような組織を作れと言われたから、偶像(アイドル)···いや、愛玩(マスコット)的な感じではあったと思う。成人もしていない子供の命令を聞かなければならないというのは、彼らにとって屈辱的だっただろう。


「そんなこと「そうなんですぅ」」


 私の言葉をユエが遮ってきた。


「リーゼ様は皆に沢山のものを与えてくれたのですぅ。ねぇ、お兄さんもそうなんでしょ?」


「ああ」


「やっぱりぃ。あ、ここの皆はきっとお兄さんの仮面の下の顔を見ても何も言いませんよ。ほら、ギルスくんもああやって食事をしていますし、大丈夫ですよ」


 ユエはそう言って、戦闘には関わらない第0小隊や衛生隊しか残っていない室内の一角を指す。そこには狐のお面を斜めに上げて食事を取っているギルスがいた。引きつった皮膚に鼻は存在せず、起伏がない顔に瞼がない目には青と赤の魔石がハマっていた。

 色々怪我人を診てきたユエには慣れた光景かもしれないが、何も知らない人が見れば悲鳴物の姿だ。ギルスもそれがよくわかっているので、食事を取るときはいつも時間をずらしていた。


 しかし、私の隣りにいる魔王様は怪我とかでは無い。ユエが関わることのない呪いというものだ。この世界では受け入れがたい姿なのだ。


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