62 は?使えない?
南の第4層の外壁まで戻ってきた。その上にはクァドーラ魔術師長が南側の平野の戦場を眺めていた。
機嫌がもとに戻った魔王様の腕を叩いて下ろしてもらう。
「今はどう言う状況?」
「ご無事でしたか」
紫紺の長い髪をなびかせながら振り向き、クァドーラ魔術師長が言ってきた。私の質問に答えてよ。
「見たこともない三つ首の竜が北に飛んで行きましたので」
ああ、確かに南から来たのでこの上空を通ったのだろう。
「あれぐらいどうも無い」
「しかし、私の結界に干渉されましたので、何かあったのかと心配しておりました」
流石に結界に干渉すればわかるか。
「あれはアルレット伯爵令嬢のわがままを叶えてあげただけ、よくあれで聖女と名乗れると感心したよ。恥ずかしくないのかと」
私なら恥ずかしくてあんなに堂々としていられない。口ばっかりで何もしていなかったじゃない。
「はぁ、確かに治癒の魔術も浄化の魔術もまともに使えませんから」
「は?使えない?」
治癒も浄化も出来ない?聖女に選ばれたのよね?
「かすり傷が治癒できるぐらいです」
あり得ない!そんなの衛生隊の新人以下じゃない!
「ごめん。ちょっと聖女って何?って聞いていい?」
「なんでしょうね。本人は覚醒するから大丈夫と言っておりましたが」
覚醒イベント!?そうですか、それは私の関係ないところで頑張ってほしい。
その時前線で爆発が起こった。南の方には爆炎の炎が上がっている。これは·····
「ヴァザルデス師団長が前線に出ている?」
「はい。トロルとオーガが襲来してきていますので、前線に出て指揮をとっています」
トロルとオーガね。どちらも戦いにくい相手ではある。再生能力の高いトロルは一撃で首を刈り取らないといけない。
強靭な肉体と力を持ち合わせたオーガは己の肉体を強化し続けながら戦わないと剣の刃が通らない。
ここから遠見の魔術で見る限り、進化系の個体は見当たらない。これなら、まだ彼らに任せても大丈夫だろう。
まだ、剣を振るっている彼らの顔にも余裕が見られる。そう、今はまだ。
「第5波はどのような感じ?」
「はっ!約1時間後にゴブリン、オーク、オーガの上位種が襲来予定です」
いつの間にかイオブライが後ろに控えていた。1時間後に上位種か。思ったよりペースが早い。以前ならオーガの上位種は開戦16時間後ぐらいに襲撃してきた。
いや、今回はこちらに休ませる暇を与えぬように続けて襲撃しているふしがある。私が手を出さなければ、一晩休む暇など得られず上位種との戦いに持ち込まれたはずだ。
「新人であれらの上位種と戦えるほどの者はいる?」
私の質問にクァドーラ魔術師長が首を横に振る。
「流石に常時身体強化をしながら戦えるものはいません」
となると、全ての騎士を出しても400人程か。はぁーと長くため息を吐く。
本当にこれ無理ゲーじゃない?あのキン○ギドラを倒せば、何かしらのフラグが立ち、こちらに有利な戦況になるのかと思えば、当初私が予想していた通りになっている。ただ、間隔が短くなっただけ。
きついな。
「30分後に交代要員を連れて前線に出るから、人を采配しておいて」
「了解しました!」
それだけ伝えて私は歩き出す。外壁の中にある階段を降りていき、そのまま外に出た。
「アリア。無理をしていないか?」
斜め上から声が降ってきた。無理ねぇ。疲れているけど、これぐらいいつものこと。問題はここから、どこまで持ちこたえられるかということだ。第5波で終わるならそれでいい。
「まだ、そこまで疲れていない。ただ、皆が保たないと思って。ここまでの戦略を考えた者がいるのだと考えると、第5波で一気に攻め込むか、それとも分散させこちらを疲れさせるのか。それとも全く別の策で来るのか。対応を考えなければならない」
そう答えながらサクサク歩く。その先には簡易的に設置された救護所がある。
「まだ続くとなると、流石にきついな。たしかエルグランのスタンピードだったか?前回はどのような感じだったのか?」
「前回ねぇ。20時間の戦いだったけど、もう少し襲撃の間隔は開いていた。第4波で上位種の襲撃があって、そこにオーガキングがいて、それを倒したら終わり」
言葉で言えば簡単だけど、実際は泥沼の戦いだった。今よりも騎士たちは未熟でオーガに傷をつけるのも、とても苦労していた。彼らが成長した分余裕はあるかもしれないけれど、今回のスタンピードは前回とは違う。なにやら戦略的なものを感じずにはいられない。
「20時間か。それは中々きついな。そうだな、俺が敵なら間髪入れずこの次で叩き込むな」
やはり、そちらが濃厚か。南から攻めてきて、西と東からの同時攻撃で敵を分散させ、疲れがピークの夜明けぐらいに北と南の同時攻撃。次いでトドメの一撃を食らわす。
どちらにしろ、こちらの戦力は乏しいのはかわりはない。
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