60 三つ首竜
空が白じんで来た頃、私と魔王様は第4層の北門外壁の上に立っていた。殆どの騎士が南の魔物討伐に手を取られているらしく最低限、北門を護る門兵しかいなかった。
そこに六頭引きの馬車が中央の方からやって来るのが見える。
恐らく、聖女と仲間たちが乗っているのだろう。朝早くからガラガラとはた迷惑な。
北門広場で馬車は停車し、中から次々と人が降りてきた。12人·····ちょっと待って!多分大きさ的に8人乗りだと思われる馬車から12人!え?どうやて乗っていたの?もしかしてギュウギュウ詰め?うぁー。嫌だ。
私は外壁の影からその姿を見て、遠い目をする。逆ハーレムって大変。
そして、降りてきた人達はその場で武器を抜き出した。え?意味がわからない。
南門付近は民間人を避難させているけれど、この辺りの人は別に避難なんてしていない。それなのに門の内側で武器を抜くってどういう事?
あと、ここに近づいて来ている魔物はいない。地上から来ていないということは空からか?
視線を上に向ける。遠くの空から朝日を反射する物体がいるUFO!
遠見の魔術を使って視る。翼を大きく広げ、首が3つある黒いドラゴンが見える。色は黒いけどキン○ギドラ?私にはキング○ドラにしか見えない。いつから特撮も混じったのだろう。
その飛行物体はまっすぐにこちらに向かってやってくる。
ん?そもそもだ。なぜに王都が標的になっているのだろう。南からの魔物の群勢だけなら、スタンピードがこちらに向かって来たのだろうと考えることもできる。だけど、ロードクラスを使って東西から攻めるとなると、これは完璧に王都の在り方を分かって、落とそうとしている敵将の考え方だ。
南側に気をもたせ、ジャブのように東西を攻める。混乱したところに北からトドメと言わんばかりのキングギ○ラの登場だ。
いや、私の考えすぎか。
「アリア、どうするつもりだ?」
隣から、魔王様に声を掛けられ、思考を止める。私の考えすぎならそれでいい。
「まず、様子見。というか、結界の中で剣を抜いて何をしているのかと、つっこみたいのが今の心情」
「彼らは結界が在ることを知らないのでは?」
はっ!確かに普段は第4層には結界は張っていない。いないけど、普通は人の迷惑にならないように対策を取るでしょう?
黒い影が近づいてきたが、結界があるので、上空で旋回し、咆哮を上げる。
その声に人々が叩き起こされ、上空を見上げ、悲鳴を上げている。やはり、何も知らせてはなかったようだ。
これは、混乱をきたしてしまう。彼らは対応をきちんとしてくれるだろか。
「うるさいですわ。静かにしてくださいまし!」
女性の声が響く。いや、うるさいじゃないよ。
「わたくしたちはあなた達を守ろうとしているのですよ!」
守るなら避難させろよ。というか、結界の外にさっさと出ろ!私は空を見上げている外側にいる門兵の所に降り立つ。
「ねぇ。門を開けて聖女様達を外に出して、民達が混乱している」
「貴様どこ····聖女様!」
やはり、色を変えただけでは私だと分かってしまうのか。私は右手の人差し指を門兵の口に持って行き、黙るように促す。
「しっ!聖女はあっち、私はただ人。早く彼らを門の外に連れ出して!民の説明は私がしておくから」
「はっ!」
いや、私に敬礼しないで。横から手が伸びてきて、右手を取られてしまった。私の横にはいつの間にか魔王様がいらっしゃった。
そして、抱えられ外壁の上に戻される。何か機嫌が悪いのでしょうか?
下の方では、数人の門兵が聖女とその仲間たちに外に出るように促している。
「なぜ、わたくしが動かなければなりませんの!」
「····ら····がいg····」
門兵が一生懸命説明をして、彼女の意思を変えようしてくれている。
「いやですわ!」
「ですから!ドラゴンなんですよ!場所を考えてください。ここで戦われると民に被害が及んでしまうと言っているのです!」
おお、門兵がキレてしまったようだ。しかし、アルレット伯爵令嬢は動く気配が全く無いようだ。
上空のキ○グギドラは3つの口から火を吹き出そうとしているのか、口の端から炎が漏れている。丁度いい。クァドーラ魔術師長が張った結界に少し穴を開け、北門広場のみに攻撃が届くように細工をした。
クァドーラ魔術師長ほどじゃなけど、あの取り巻きの中に魔術師が混じっているようだから、彼が結界を張れば対処できるだろう。
「アリア。これは」
魔王様は私が結界に細工をしたことがわかったらしい。
「ここで戦いたいって言うから、望みを叶えてあげた。でも、馬鹿だよね。上空の敵に対してこんな空が狭い場所で戦いたいって、私なら嫌だね。まぁ、こだわるぐらいなら、何か作戦でもあるのだろうね」
指笛で撤退の合図を吹く。『ピピピピピー』その音を聞き、上空を見上げた門兵達は慌てて外門の方に戻って行く。
と同時に、上空から巨大な火の塊が3つ降ってきた。突然明るくなった上空をアホ面で見上げる聖女とその仲間たち。魔術師くん早く結界を張らないと丸焦げだよ。
狭い空間に落ちていく炎の塊が結界を響かせる。ここから逃げようとしていた人々の悲鳴が大きくなる。
はぁ。本当にどうしたらいいものか。なんで、私がアルレット伯爵令嬢の尻拭いをしなければならないのか。
声に魔力を込めて結界内に響き渡らせる。
「『皆さんどうか落ち着いてください。北門広場以外は結界に覆われていますので、皆さんに被害が及ぶことはありません。落ち着いて、第3層に向かってください』」
悲鳴は聞こえなくなった。これで落ち着いて行動をしてくれれば、逃げる途中で問題が起きることは避けられるだろう。混乱をしていれば、怪我をしたり、家族とはぐれてしまうこともある。
魔物から逃げ惑う人々を見てきて、こういう人災は一番よくない。一番、被害を受けるのはいつも幼子なのだから。
視線を人々に向ければ、逃げようしていた人々が何かに祈っていた。いや、早く逃げてよ。
三つ首竜が咆哮を上げる。私が視線を広場に向ければ、結界に覆われた聖女と仲間達がいた。魔術師くん間に合ったようだね。しかし、その奥にあった豪華な馬車は炎に包まれて炭化している。もったいない。
「リーゼ様」
視線を呼ばれた方に向ければ、5名の門兵が立っていた。外門の内側にある外壁に登る為の階段で上がってきたのだろう。
「お帰りなさいませ」
「戻って来たわけじゃないからね。オヴァールに戻る途中に立ち寄っただけだからね」
ここはきちんと否定をしておく。魔王様、ちょっと近いですよ。抱き寄せないでほしい。
「しかし、リーゼ様が戻って来ていただいたおかげで、皆の心に光が差したのも事実です」
大げさな。私はそこまでのことはするつもりはない。あのキングギド○の首は横から掻っ攫う気ではあるけど、何かを成すつもりはない。
「空を飛んでいるなんて卑怯ですわ!」
何やら、下から声が響いてきた。いや、ドラゴンに翼があるのは何のためだと思っているのか。地竜じゃないのだから、翼があるのは飛ぶ為に決まっているじゃない。
その三つ首竜から、雷電がほとばしり、雷撃が地上に降り注ぐ。
「ぐっ!」
そう言って、魔術師くんが倒れた。早いよ倒れるの。まだ、二回しか攻撃されていない。クァドーラ魔術師長の結界は王都全体に張られているというのに、びくともしていないけど?
「ねぇ、門兵さん。彼らに言ってくれる?ドラゴンは空を飛ぶものですから、広い王都の外で戦うようにと言ったのです。っと」
門兵の一人にお願いすると、門兵は広場の方に向かって言ってくれた。
「ドラゴンが空を飛ぶものってことは幼子でも知っていることですよ!だからあれほど、広い王都の外で戦うように言ったではありませんか!馬鹿ですかあなた達は!」
いや、私はそこまで言えとは言っていない。
「「「ぷっ。あはは」」お前言い過ぎ」
他の門兵にも言い過ぎだと言われているが、言った本人は満足そうだ。
「そ、そんなことぐらい、わかっておりますわ!」
そう言って、アルレット伯爵令嬢は王都の外に出ていった。魔術師くんを置いて。
「門兵さん。門を閉めてもらえる?」
「はっ!かしこまりました」
その言葉を聞いて私は、ドラゴンの炎によって溶けてしまった石畳の上に降り立つ。気を失った魔術師くんのところに向かい治癒の魔術を掛けるが、魔力を使いすぎただけのようだ。しかし、攻略対象なだけあって美形ではあるけれど、戦力としては心もとない。これぐらいで倒れてしまうなんて。
そして、溶けてしまった広場の石畳を見る。はぁ。どうして、こうなることがわからないのかな?後始末をどうするつもりだったのだろう。
「『寸刻の復元』」
少し前の状態に戻す魔術だ。物が記憶している少し前の有り様に戻す事ができるのだ。魔物討伐時にこの魔術はよく役に立った。
この魔術は少し前にしか戻せないのが難点ではあるが、それでもしないよりはましだ。
人々が行き交い、表面がすり減った先程の状態の石畳の姿に戻った。これでいい。満足し、ふーっと深くため息を吐く。
そして、三つ首竜とどう戦うつもりなのかと観戦に戻る。外壁の上に飛び戻ってみると、立っているのが男性3人とアルレット伯爵令嬢のみだった。
え?少ししか経っていないけど何があった?
「くっ!ヴァザルデス!早く助けに来なさいよ!」
アルレット伯爵令嬢が叫んでいる。もしかして、ヴァザルデス師団長頼みだったの?マジで?さすがのヴァザルデス師団長でも一人で戦うのはきついと思うけど?
ここまでかな?私は、亜空間収納から、一本の剣を取り出す。ノコギリの刃のような赤い刀『血吸丸』だ。大型と戦うなら剣で戦いたいよね。私の鬱憤晴らしのためにも。
「アリア、行くなら俺が行く」
「いや!あれの首は私がもらう。なんで私がことごとくアルレット伯爵令嬢の尻拭いをしなければならないのかな?あれの首ぐらい私が貰ってもいいよね」
そう言って、髪と目の色を戻す。上空にいるドラゴンの三つ首からブレスが放たれ、風の刃がアルレット伯爵令嬢に向かって行く。
「いやー!誰か助けてよ!門を開けなさいよ!」
3人の取り巻きが彼女の前に立ち、風の刃を受け止める。崩れ去る3人に一人佇む聖女。
最低だ。何が助けてだ。何もしていないくせに助けてだなんて、私なら恥ずかしくて口に出来ない。相手の力量もわからずに喧嘩を売るなんて、愚か者だ。
フーと息を吐き、魔力を血吸丸に流す。
「『覚醒せよ。血吸丸』」
その言葉と共にノコギリの様なギザギザの2枚刃がギシギシと動き出し、ギヤャャャャーと悲鳴のような音を発するようになった。イメージとしては電動ノコギリを参考に作ってみた物だったが、ことごとく皆からの評判は悪かった。
空間を魔力で固定し、空を駆けて行く。上空でホバリングしている三つ首竜に向かって行くが、こちらに気が付き一つの首が私を見た。その口から青い光が漏れている。
その一つの首が大きく口を開き、氷の槍が向かってくる。体を捻り、氷槍化したブレス攻撃をよけ、そのまま一つの首に駆けて行き、血吸丸を黒い鱗に当てる。
ノコギリのような刃が鱗を削り、そのまま首に食い込んでいき、血を撒き散らしていきながら首を削り落としていく。
『GYAAAAAAAAAA』
キ○グギドラが悲鳴を上げ、2つの首が私を見る。2つの首から炎と雷が放たれるが、上に避け1つの首に焦点を定め、血吸丸を当てる。血を撒き散らしながら、地面に落ちていく黒い首。
最後の首が、私に牙を向けてきた。ブレスでは避けられると悟って、直接攻撃をしてきたのだろうが、無駄。大きく開いた口に爆裂式苦無を突き刺す。と同時に爆破され、落ちていく巨体。同時に私も落ちていき、最後の首に血吸丸を当て斬っていく。
ドン!と巨体が地面に墜落して、私はその上に降り立つ。その前には腰を抜かしているのか、地面に座り込んだアルレット伯爵令嬢が土埃と血と肉片にまみれていた。
そんなアルレット伯爵令嬢を見下ろす。
「ヒッ!」
何かを恐れるように後ずさろうとして、動けていない。
ああ、血吸丸を使うと私も血まみれになるんだった。私の手を見ると、服は全く汚れていないのに、手にはべっとりと血が付いていた。流石、フェーリトゥールの祝福だ。
私は尋ねる。血を被り、地面で腰を抜かしている聖女ミエーヌに。
「ねぇ。聖女さま、貴女は何がしたいの?」
誤字報告ありがとうございます。




