57 もしかして私、仲間外れ?(挿絵あり)
魔物の群勢が次々に押し寄せてくる。大海の嵐と言い表してもいいほどに、魔物が向かってくる。
ゴブリンから始まりファイター、アーチャーに続きボブゴブリン、そして狼に乗ったゴブリン狼騎兵が襲来してくる。
まぁ、雑魚だ。オークも同じように段々と進化系が見られるが、ある一定の場所に来ると死に絶える。
私の魔術だ。私が敷いた境界線を超えると己の影に殺される魔術だ。本当はこの魔術は死を与えるように使わない。これは本来、相手の行動を影で縛る魔術なんだけど、私はそれに攻撃性を持たした。
『影捕縛鋭突』
今日はとても綺麗な月夜だ。満月が下界を明るく照らして、押し寄せてくる魔物の姿を鮮明に見せつける。そして、地面には魔物の影を濃く作り出している。
魔物共は己の影に囚われ、無数の棘と化した影に貫かれ絶命するのだ。己の影からは絶対に逃れることができない。
しかし、私の魔力によって影に命を奪われることになるので、一定の所に魔物の死骸が溜まっていってしまうのだ。
普通なら風の魔術で吹き飛ばすのだけど、隣の彼が横薙ぎに大剣を振るうだけで、魔物の死骸が飛んでいく。それも細切れになりながら。私、そんな機能は付けてないけど?
「いつミても悍ましいモノですね」
老人の様に嗄れているこの声は、第0小隊第1班のギルスか。やっぱり声を掛けられるまで、全く気が付かなかった。
「そう?でも人の命がかかっているなら、見た目がどうとか、悍ましいとか言ってられないと思うけど?」
「失礼しました。全くそのとおりであります」
後ろを振り向くと地面に跪いた黒い隊服を着た人物が頭を下げていた。
「それで何?ギルス」
呼びかけて顔を上げた人物の顔は異様だった。いや、私からしたらなんとも思わないのだけど、ギルスの顔は長めの金髪の隙間から隈取の白狐のお面が見えるのだった。
ギルスの仮面の下の皮膚は幼い頃に襲われた魔物の酸によって爛れており、両目も潰れていて目は見えていない。
ギルスの傷も私が治せないものの一つだ。ギルスはこの姿が自分自身だと認識をしてしまっていた。意識も細胞もこれが己の姿だと認識していた。
体が、細胞が、認識している姿に戻すことしか出来ない私は無力だった。だからお詫びに狐のお面を渡した。あのお面には治癒の陣を施しているので、痛みを軽減させる役割を持っている。
「はい。リーゼ様が危惧されておりました、怪しい動きをしている魔物に関する情報ですが、西側からゴブリンロードがゴブリンナイトやゴブリンウィザードを引き連れて向かってきており、東側からオークロードが同じくナイトやウィザードを引き連れて向かってきています」
へぇー、ロードを統率するモノね。南に気を引き付けておいて、西門と東門からのロードクラスの同時攻撃か。きついね。
紫煙を吐きながら考える。
まだ、オーガとトロルの群勢は来ていない。ここで、騎士達を動かすと後が続かない。足りない。全くもって戦力が足りない。
「ねぇ。本当に動かせる騎士はこれだけなの?国王は何を考えているの?」
「はい。王都に待機していた白竜・赤竜・青竜・赤虎騎士隊のみとなっております。これ以外の騎士隊は地方に派遣されております。それと今回のスタンピードは聖女に一任すると国王陛下の勅命であります」
国王!一任ってこれ無理ゲーに近いよね。あの氷狼竜を倒せなかった聖女達がこのスタンピードを乗り切れるとは思われない。
いや、何か勝利条件があるのか?
「その聖女達の動向はどうなっている?」
「申し訳ありません。そこまで把握はしておりませんでした」
まぁ、そうだよね。あんなお花畑に近づきたくないよね。
「そう、じゃ追加でその聖女の状況を視てもらえる?」
「かしこまりました」
そう言ってギルスは跪いたまま動かなくなってしまった。しかし、ロードか。何人か向かわせるしかないか。
「アリア。彼は何をしているんだ?」
隣の魔王様が聞いてきた。確かに急に動かなくなったら怪しいよね。斜め上を見上げると、黒に赤い隈取の仮面が私を見ていた。目の前には赤い隈取の白狐のお面の人物がいる。もしかして私、仲間外れ?
「ギルスは両目がないから、代わりにダンジョンで手に入れた魔眼石を入れている。今それを使って、視て貰っている」
そう、ギルスは私が作り出した光景が悍ましいと表現した。目が無いのに見えているのは私が与えた魔眼石のおかげなのだ。
まだ、少年だったギルスが目をもらったお礼を体で返すと言って騎士団に入り、第0小隊で魔眼石を使いこなし、情報収集の役目を担っていたのだ。
そう言えば、第0小隊の人は気安く話かけてくれたなぁ。
「リーゼ様。聖女と呼ばれている者は」
ん?呼ばれている者?
「皆さんと仲良くしております」
あ、うん。そうか、なんかごめん。
「それで、予定通り夜明け前に、行動を開始すると言っておりました」
予定通りね。やはり、何かがあるのだろう。
「ヴァザルデス騎士団長閣下?とクァドーラ副長?にこの事について知らないか聞いておいてくれる?」
「クスッ·····失礼しました。探りを入れておきます」
そう言ってギルスは明るく月が照らした夜の闇に姿を消していった。しかし、あの二人の肩書に間違いは無いはず。何がおかしかったのだろう。




