42 忍者になれる物?
「銀の、どうしたのじゃ?」
金色を流し込んだような目を私に向けて楽しそうに笑う小さな妖精が金色の陣からふわりと出てきた。
「冷たくて甘いお菓子を食べる?」
そう言って私は、ローテーブルの上に置いてある小さな器に盛ったアイスを指し示す。
「つ、冷たくて甘い?」
目をキラキラさせたフェーリトゥールがローテーブルの上に降り立ち、器に盛られたアイスの周りを回りながら観察している。
楊枝のような匙を手に取り、フェーリトゥールはアイスを掬って一口食べた。その瞬間、目を大きく開き私の方を見る。しかし、何も言わず、再びアイスの方をガン見して一心不乱に食べだした。
食べ終わったフェーリトゥールは満足した表情でここではないどこかを見ているようである。満足してくれてよかった。
「銀の!これは美味しいのじゃ!もっと食べたいのじゃ!」
「食べすぎるとお腹壊すよ。なんでも程々がいいの。それで、フェーリトゥール今度は外套を作って欲しい」
「良いぞ!良いぞ!また食べさせてくれるのじゃろ?」
「次来た時にね。それに、果物を持ってきてくれるともっと美味しくなるよ」
「な!コレよりも美味しくなるじゃと!何が良い?紅珠か?桃珠か?紫珠か?」
妖精の独特の言い回しはよくわからいな。果物なら、大体シャーベットになると思う。
「フェーリトゥールの好きな果物でいいよ」
「それは良い。今度持ってくる故、美味しい物を作るのじゃ」
そのあと、フェーリトゥールはご機嫌で外套を作って、帰っていった。しかし、フェーリトゥールがご機嫌過ぎて、常にキラキラと光を放っている外套になってしまった。祝福が強すぎる!め、目立ってしまうじゃないか!
仕方がないので、裏地に隠蔽の陣を縫い込むことにした。蜘蛛の糸でチクチクと縫っていく。出来上がれば、目立たないはず!
王都には知り合いも多くいるから目立つ服装は避けたい。そして、よく分からない行動を取っている聖女とその仲間たちにも会いたくない。
欲しい情報だけ得てさっさと王都をでよう。朝早くここを出発すれば、夕刻に着くはずだし、行くところは決まっているから、門が閉まるまでにはでられるはず。
しかし、黒の外套に黒い糸で縫っているので、どこを縫っているか分りずらい。違う色の糸にすればよかった。
そう言えば昔、父に言われて刺繍したハンカチは捨ててくれただろうか。なんだか、初めての刺繍は父親に贈るものだと、父にうざいぐらいに念を押された記憶がある。それも厳つい顔で1日に何度も来るので、怒りを込めて特攻服バリの昇り龍を刺繍してしまった。そんなもの実用性は全くないハンカチだ。
使い勝手が悪いからきっと捨ててくれただろう。
何とか黒い糸で陣を縫い終えた。それに魔力を込めて発動すれば·····よし!キラキラは消えた。しかし、これは?
「ねぇ。これをちょっと羽織ってもらえない?」
顔を上げて、目の前の人物に声が掛けるが····いない?横から手が伸びてきて外套を取っていかれた。
横?顔を横に向けると外套を広げて見ている彼がいた。いつの間に横に移動してきた?全く気が付かなかった。
「全くわからないのだが、何を縫っていたんだ?」
まぁ、同じ蜘蛛の糸だから、光を反射させないとわからないくらい同化してる。だけど、隠蔽陣を発動してしまったがためにそれさえもわからなくなってしまった。
「祝福のキラキラを抑えるもの」
「確かに、先程までのキラキラは無くなっている」
観察をし終わったのか、立ち上がって彼は黒い外套を羽織ってくれた。魔王様、よく似合っていますと心の中で合掌しておこう。
しかし、思っていたとおり、気配まで隠してしまっている。相手に声をかければ、ああここに居たのかと認識できる程度だ。
「気配を隠してみてくれる?」
ははは、これは流石にやりすぎたかな?目の前にいるのに認識できない。私が探知魔術を駆使してやっと存在が認識できる程になってしまった。これはよほどの勘の鋭いものか、それなりの目を持っているものじゃないとわからないな。
逆に言えば、これは都合がいいと言えるかもしれない。
「ありがとう。もう良いよ」
「で、これがどうしたんだ?」
「うーん。忍者になれる物?」
「ニンジャ?」
「あ、いや。普通に着ていれば存在感の薄い人だけど、気配を消せば人に認識されないレベルになってしまった」
外套を脱いで長椅子に掛けた彼が私の腕をとった。その私の右手には黒い糸を通した針と、左手には私用の外套を持っている。なに?危ないのだけど。
「アリア、それはやめようか」
「なんで?」
「人に認識されないって普通じゃないことだろ?アリアがどこに行ったかわからなくなるのは困る」
いや、私は全くもって困らない。
誤字報告ありがとうございます。




