39 だから、言ったよね
白き巨体の咆哮が辺り一帯に響き渡る。
大気が凍てつく。
凍った大気が割れるように様だ。耳が痛い。
大気が·····魔素が動く。来る!
空間から数百ともなる数の凍った氷槍が出現し、全てがこちらに鋒が向けられている。
ふふふっ。ゾクゾクする。小太刀を持った両手を前に掲げる。
「闇刃陣乱舞」
こちらも複数の刃を地面から出す。闇が有れば闇が存在すれば、私はやれる。厚い雲で覆われ、月の光が入り込まないこの状況下で私が負けることはない。
そして、そのまま凍てついた大地を蹴る。
一斉に向けられた氷の槍が解き放たれた。それを撃ち落とす様に闇の刃を差し向け放つ。
凍てついた大気に足を掛け、一気に駆け上がるが、鋭い爪が目の前に迫る。体をねじり避ける·····は?硬い毛で覆われた前足が切り落とされた?
下を見ると呪われた大太刀を振り切った姿のシヴァがいた。もしかして、衝撃波だけで前足を切り落とした?この硬そうな毛と肉と骨を断った!
しかし、これならそのまま突っ切ることができる。巨体な獣の顎の下まで駆け抜け、小太刀を構える。炎の刃を横に構え、刃のない小太刀を縦に構え、刃を交差させる。炎の刃が一瞬燃え上がった刹那、音が無くなった。
私は爆風に煽られ空間を滑り落ちる。
炎は高温過ぎて肉を焦がしてしまい使えない炎の刃に、ウォーターカッターを目指したのに多量の水が吹き出るだけの刃。
それの刃を交じ合わせ、できあがるのが水蒸気爆発だ。
それを頭付近で爆破させると、思ったとおり脳震盪を起こしている。
本当なら頭が吹っ飛んでいてもおかしくはない威力なのだけど、流石にあの巨体じゃ頭を揺らすのが精一杯だったみたい。
空中で体勢を立て直し足に魔力を込め、使えなくなった小太刀を捨て、地面に着地する衝撃に備える。いや、衝撃というより積もった雪に埋もれる覚悟か。
が、ふわりと体が抱えられる感触が····デジャヴ。巨体が倒れる振動が大地に響き渡り、積もった雪が舞い上がる。
「アリア。無茶しすぎだ」
「いや、私よりもアレの首を落としてよ。あれぐらいの爆発じゃ、直ぐに復活してしまう」
今は気を失って倒れているが、あんな小手先の技なんてその場凌ぎ、次は同じ事は使えない。あの魔物は寸前まで何も感じなかっただろう。魔力も魔素も動かなったため魔物が油断してくれただけなのだ。己の方が絶対的強者として疑っていなかった傲りが生んだスキを突いただけ。
「剣が届けば落とせる」
そう言って彼は私を抱えたまま白き巨体の上に飛び乗り、呪われた大太刀を掲げる。大太刀が鳴いている。『ギィィィィィィィ』と刃が鳴いている。
その刃を巨体に落とす。
刃が白き巨体の首元に触れた瞬間、首が切り落とされ、ガクンと足元が崩れた。いや、下の雪原までも斜めに亀裂が入っている。
「あ?」
「私は地面まで斬ってとは言っていない」
巨体ごと地面がズレる。一体どれ程斬ったのか。私は雪と地面に埋もれる前に、巨体を亜空間収納に仕舞うため、下に向かって手をかざすと、足元の空間が歪み、足場にしていた巨体が消えた。
巨体が消えた瞬間、後ろに引っ張られるような重力を感じた。どうやら、足場が無くなる前に彼が移動したようだ。
ここに来た時に見下ろしていた高台まで戻ってきた。暗くてどうなっているかは詳しくはわからないが、地面ごと崩れた事で、積もっていた雪が舞い上がって、すり鉢状の窪地の中が真っ白になっている。
不思議そうに大太刀を眺めている彼の左腕を叩いて地面に下ろしてもらう。
「だから、その大剣の扱いは気をつけてって言ったよね」
以前私は注意した事を言うと彼は不服そうな顔をして答えた。
「普通ここまで斬れるとは思わない。確かにあの大型の魔物を斬るのにいつもより力は込めた事は認めるが」
「その大剣、私が素材を取るためだけに作ってもらったものだから、振り回しただけで斬れるの」
「は?」
「私が剣を扱える様に見える?魔術特化の私は剣なんて振り回すだけで精一杯。はぁ、私が作ってもらった剣は全部特殊なの。特にその大剣は魔物の肉を美味しくいただくためだけに作ってもらったものだから、切れ味がすごくいいの」
「魔物の肉」
「そう、魔物の肉」
彼は呆れてしまったのか呪われた大太刀を見て、おもむろに大太刀を構え眼下に向けて振り下ろした。
な、何が起こったのか真っ白で見えなくなった視界が晴れ、深く広大に広がっていた雪原が跡形もなくなり、月の光が降り注いだ土の地面が目に映る。月?上を見上げると厚い雲に覆われた空が星の瞬きで満ち溢れていた。
あの一振りで何が起こったのか、全てが吹き飛んだということだろうか。
きっと何かの技を出したのだろうけど、これは流石にヤバいと私でもわかる。
魔王様に武器を与えてはいけなかった。
補足
リーゼが剣を振るうだけで魔物が斬れるというので、シヴァは剣を思いっきり振っただけです。




