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銀の魔女の憂鬱〜ここが乙女ゲームの世界だったなんて聞いていない〜  作者: 白雲八鈴


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36 勿論、跡形もなく

 宿を出ると、横から捕獲された。見上げると銀髪のイケメンが······ちっ、愚兄だった。宿を出るまで待っていたのだろうか?


 が、腕を引っ張られ彼の方に引き寄せられる。


「愚兄。何か用?」


「姫、ごめんね。あの馬鹿共はお仕置きをしておいたから」


「は?」


 お仕置き?まさか


「シエルスパイダーの糸で、それも妖精が祝福した衣服を着ている姫を泊められないなんて、そんなところ、もういらないよね」


「は?」


 思わず、愚兄の隣にいるアレンを見る。そのアレンも首を縦に降っている。愚兄を止めなかったのか!


「まさかそんなことで宿屋を壊したということはないよね」


「勿論、跡形もなく存在しないよ」


 跡形もなく!くっ。だからオヴァールの者たちは扱いが難しいのだ。私に対する好感度が高すぎる。魔女っ子リーゼの黒歴史が何年経っても影響しているなんて!


「アレン!何故愚兄を止めなかった!」


「ギルドに入っていくリーゼお嬢様をお見かけしたとき、サヴェル様の命に従い、リーゼお嬢様を宿まで送り届け無かった自責の念を込めて、ささやかながら手伝わせていただきました」


 アレンも率先して手を出していたなんて、頭が痛い。何?この二人。私を泊めなかったというだけで、宿を破壊するってどこの暴君だ。


「クククッ」


 上から笑い声が響いた。見上げると怪しい仮面の男が笑っていた。これはちょっと怖い。


「二人は面白いな」


 面白い?いや、面白くないでしょ。


「リーゼお嬢様、この者は?」


 アレンが聞いてきた。まぁ、怪しいよね。愚兄に説明した通りに言う。


「怪我した人を拾った。血筋的には私より高貴なのは確か。ただ訳あり」


「流石、リーゼお嬢様です」


 ん?


「どの様な者にも慈悲をおかけする、そのお姿は素晴らしいです」


 あ、うん。別に誰にでも慈悲は掛けないよ。私、優しくないよ。そんなキラキラした目を向けないでほしい。居心地が悪い。


「それじゃ、私は王都に向かうから、そちらはオヴァール辺境伯爵領に先に戻って報告をよろしく。それからアレン、戻ったらファルに王都に迎えに来るように言ってもらえる?」


「え?ふ···ふぁる。あの、ファルですか?わ、私がですか?」


「無理ならカティーに頼めばいい」


「リーゼお嬢様のた···頼み、たのみ····」


 アレンの顔が若干青くなっている気がする。無理はしなくていいのだけど、愚兄も同じ事を思ったのか、アレンに声をかける。


「アレン。カティーに頼め。お前じゃファルに近づくのは無理だろ?」


 そして、愚兄が私の所に近づいて来て、ニコリと笑う。周りで物が落ちる音や悲鳴が聞こえてきた。


「姫、先に帰っているよ。待っているから」


 愚兄は私の頭を撫で背を向けて去って行った。愚兄。建物を破壊した事で賠償金の支払いの請求をされないだろうか。




 私も王都に向けて出発しようと思い、足を出せば腕をつかまれたまま、引き止められてしまった。何かと思い、仰ぎ見る。


「ファルとは誰だ?」


 なんだかとても低い声が響いてきた。ファルが誰?誰と聞かれても····


「フェンリルの子」


「····フェンリル」


「そう、餌付けしたら懐かれた。普通は領地の外に出すわけにはいかないけど、今回は緊急事態だから、王都からオヴァール辺境領まで連れて帰ってもらおうと思って」


「森に返したという?」


「そう、王都に行くまではよく一緒に領地内を走り回っていた。で、そろそろ、出発をしたいのだけど?今日中にはハイメーラ領に入りたい」


 辺境と王都の中間地点にある領地がハイメーラ領だ。足の早い騎獣なら2日、馬車なら5日といったところにある。

 身体強化して走り抜ければ、夕刻には領地に足を掛けるところまで行くだろう。


「ああ、わかった。今日も昨日と同じような感じで移動するのか?」


 西の外門に向かって、足を進める。このリレイシルは国の東の端にある領地だ。そこから西に向かって行けば王都にたどり着く。


「そう、街道は避けるけど、街道を少し外れたところを行く予定」


 煙管(キセル)から伸びる煙は青い空に吸い込まれていっている。今日の天気は崩れることはないだろう。あの、嵐の後の数日は晴れることが多い。雨の中を移動するのは避けたいので、丁度良かったのかもしれない。


 西の外門の外に出る時は何も検問されることはなくそのまま外に出ることができた。普通は街の中に犯罪者を入れない為の検問なので、よっぽどのことが無い限り、街の外に出る時は足止めをされることはない。


 門が見えなくなるまで歩き、そこから、体中に魔力を巡らす。そして、足に魔力を集中させ、思いっきり地面を蹴る。

 景色が勢いよく後ろに流れて行き、街道の位置を横目で確認しながら、駆け抜けていった。



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