29 私は悪役じゃないよ
受付けの女性がガタガタと震え出した。震える暇があるなら手を動かせ!
「アリア。魔力が漏れている」
そう、指摘され溢れていた魔力を押し込める。落ち着く為に煙管を取り出し火をつける。
「で、いつ終わるの?」
「も、もう少し·····です」
私は魔力を含んだ煙を吐き出す。
「もう少しね·····」
大した事は書いていないのに随分時間が掛かるのねっと口から出そうになったのを飲み込む。私は悪役じゃないよ。絶対に悪役じゃないから!
ちっ。この分じゃ閉門してしまう。ここで宿を取るつもりなんてなかったのに。
「こちらです」
受付けの女性がチェーンに2枚のプレートが付いた物を差し出してきた。
「あ、あのs····説明を「必要ない」」
私は受付けの女性の言葉をぶった切る。
「時間が惜しいからいい」
そう言って私はカウンターに背を向け歩き出す。思ったより時間がかかってしまった。後どれぐらいで門が閉まってしまうのだろう。
早足で歩いている私の後ろで愚兄が『なんでお前が姫をアリアって呼んでいるんだ』と言っており、私の横で彼が『貴様には関係ないだろ』なんて言っている。どうでも良いことを一々言わなくてもいいのではないのだろうか。
冒険者ギルドの出入り口の扉に手をかけようとしたところで、外から内側に扉が勢いよく開いた。もうちょっとで開く扉にぶつかるところだった。
いや、横から引っ張られなければぶつかっていただろう。
2人の冒険者らしき人たちが慌てて入ってくる。何かあったのだろうか。その後ろから両側から支えられながら怪我をしている人も入ってきた。応急手当はされているようだが、頭に巻いてある包帯からは血が滲んできていた。ここに来るよりも、何処かで休めばいいのにと思っていると、その人物の緑の目と合った。
「あ!あんたたちだ。そうだろう?」
私と隣の彼に視線を交互に移動させ、怪我をしている男性が言った。あちらこちらに傷や火傷が生々しく体に刻み込まれ、応急手当しかされていないので、血が滲み火傷には何かしらの軟膏が塗られたままの状態で私達の側まで来ようとしていた。しかし、支えがないと立つのもままらないのか崩れ落ちてしまった。
「頼む助けてくれ」
ん?なんのこと?なんで初対面でそんなことを言われなければならないのか。
「まだ、キマイラがいるんだ。仲間がまだ戦っているんだ。頼む。助けてくれ」
私は首を傾げてしまう。キマイラ?いや、キマイラがどういうモノかは知っている。ライオンとヤギと蛇のMIXだ。しかし、なぜ、私に助けてと言ってくるのか?
「なぜ、助けなければならない?」
そう、満身創痍の男性に尋ねると唖然として表情で喘ぐように言葉を漏らした。
「な、なぜって、キマイラを二体倒して俺たちを助けてくれたじゃないか」
キマイラを倒した?いつ?記憶を探ってみるけど、全く覚えがない。隣の彼を仰ぎ見ると
「竜の森を抜ける手前で2体倒した」
え?私は全くそのような事があったとは記憶してない。ぶっちゃけ肉が美味しくない魔物には興味がない。きっと無意識で倒したのだろう。しかし、目の前で懇願している人の仲間を助けるかと言えば否だ。私は暇ではない。というか面倒だ。
「悪いのだけど。急いでいるから、他を当たってほ······」
欲しいと言おうとしている私の耳にドンドンドンドンと低い太鼓の音が聞こえてきた。門の閉門の合図だ。間に合わなかった。ここで宿を取る予定ではなかったのに、思い通りに事が運ばない苛立ちを表面にはなるべく出さないようにして断る。
「他を当たれ」
少し、声が低く出てしまったような気もするけどそれは仕方がない。満身創痍の人物の横を通り過ぎようとすれば、足を掴まれてしまった。
「頼む」
懇願する人物の掴んだ手を振り払おうとする前に、その人物が消えた。いや、建物の壁に激突していた。
「アリアに触るな」
「なに私の姫に勝手に触れているのかな」
あ、けが人に追い打ちをするように攻撃してはいけないと思う。
隣の彼が掴んだ手を蹴り上げ、愚兄その3が魔術で飛ばしたのだが、飛ばされた本人は傷口が開き、倒れている。まだ、意識はあるようだ。
私は倒れた人物に近づき、側にしゃがみ込む。そして、手をかざし止血程度に治癒の魔術を施した。
「悪いのだけど、私は登録したばかりで、Fランクなの」
そう言って、先程もらったばかりのチェーンに付けられたタグを見せる。Fランクを示す鉄色のタグだ。
「だから他を当たって?」
それを見た目の前の男性は信じられないという目で私を見てきた。私は立ち上がり今度こそ冒険者ギルドの外に出る。
ああ、今晩泊まるところを探さないといけないのかー。
煙管から伸びる煙を見上げながら、途方に暮れるのだった。




