第4章【モブキャラ気質なのに少年漫画の主人公みたいで申し訳ありません】2
第2話【ニーシュ魔法学園】
アークが魔人らしき魔物と遭遇した翌早朝。
カーズとマーサーが満身創痍のアークを発見し、コジロウの背に乗せて運び出して夜明け前の森を移動している頃。
農園から馬車で10日以上離れた、コセ・シティやニーシュの町の北に広がる、広大な森。
通称「北の森」と呼ばれるこの森は、奥へ奥へと進んで行くと、やがて大河ベルスへと至る。
山林を歩き慣れた者でも、コセ・シティから真北に進んで3日はかかるため、滅多にその最奥まで行く者はいないが、今では魔物の森化してしまったため森に入る者すらいなくなってしまった。
そんな森の最奥、大河ベルスとの間にある広い河原に、大きな大きな岩があった。
高さは20mに届くだろうか。短辺も同じぐらいあり、長辺はその3倍以上あり、大河ベルスの流れと並行するように鎮座している。
重量にして推定10,000tを超えるであろうその大岩の麓に、人影が1つ。
白いゆったりとした服を着たその男は、昇り始めたばかりの朝陽に照らされる大岩を見上げていた。
「まったく、誰がこんな物をこんな所に…」
同じ朝、ニーシュ。
こちらは、地区長達と魔法使い達が聖廟に集まり、辺境の魔法使い達との邂逅を果たした翌朝。
空の七分が雲に覆われていて、涼しさを感じる朝だが、それでも日中陽が高くなればまだまだ暑くなるであろう、晩夏と初秋の狭間。
ニーシュの聖廟を囲うように建てられた防壁に沿って、ユキを除くミッツ達北の森調査団のメンバーが聖廟の方を向いて並んでいる。
「みんな準備はいい!?」
聖廟の屋根裏部屋の窓から身を乗り出しているのはユキ。手にはミーユが作った氷の板を持っていた。
ユキも水があれば氷を作れるが、木桶に張った水の表面数mmを凍らせるのが精一杯で、今回はもう少し大きな氷が必要だったためミーユに作ってもらった。
「私も、少しは魔力を身に付けた方がいいのかな?」
ミーユが一瞬で木桶ごと凍らしてしまうのを見て、そんなことを呟いていた。
「いいぞー!!」
ユキの呼びかけに、ミッツが答える。
「じゃあ、行くよー!!」
聖廟を囲う様にスタンバっているメンバーの様子を見て、手に持った氷の板を手放す。
氷の板は重力に引かれて真っ逆さまに落ち、下にある大きな石にぶつかって割れた。
その音を合図に、防壁に並んだメンバーが一斉に聖廟に向かって走り出す。
まず、一瞬でアドバンテージを確保したのは、最近風魔法で数秒なら空を飛べるようになったミーユ。
はじめの一歩と同時に魔法で爆風を起こし、その小さな体を文字通り吹っ飛ばす。
そのペースで一気に丘を駆け上がる…否、飛び上がる。
ミーユ以降はやはり魔力の恩恵が最も強いレンが早いが、そこに並んでセシリア、次いでミッツが続く。
しかしミッツは、巨体のせいか中盤から遅れ始める。
遅れ始めたミッツを追うのは、最後尾争いを繰り広げるモリスンとミリィサ。
元々体力のなさそうなモリスンだが、この数日の北の森での修行により、思った以上に魔力の恩恵を受けていて、遅れ始めたミッツに追いつき始める。
対して、この中で最も魔力による体力向上の恩恵の少ないミリィサは、モリスンにだけは負けたくない!!という一心で、基礎身体能力だけで必死に食らいつく。
レンとセシリアの2位争いが中盤を越えて来た頃、ミーユは僅か3歩であっさりにゴールし、ユキ特製の冷んやりフルーツミックスにありついていた。
そして、レンが2着となり、数歩遅れてセシリアが3位になった。
ゴール目前で、なんとミリィサとモリスンがミッツを抜かし、4位5位とほぼ同着に、そしてミッツが6位という結果になった。
ちなみに、1位のミーユのフルーツミックスには、この世界では非常に珍しい苺が入っており、2位、3位までが冷んやりフルーツミックス。
4位と5位は冷やしていないフルーツミックスで、最下位は只の水。
「そんな、バカな…レンやセシリアはともかく、モリスンやミリィサにまで抜かされるとは…」
木製のコップで水をちびちび飲みながら、ゴチるミッツ。
「ねえセシリア、私も冷たいやつ食べたい」
「ダメだ、これは勝者の権利だからな」
その傍では、あと半歩モリスンに勝てなかったミリィサが、冷たさに目を細めながらセシリアが食べている、ひんやりフルーツミックスを羨ましそうに見詰める。
「ケチ。セシリアだってレンやミーユに負けたくせに、何が勝者だ」
事実を突きつけられ、一瞬眉間に皺を寄せるセシリア。
「しょうがねぇな、まぁミッツに勝ったし、ちょっとだけこの冷たい汁をやるよ」
セシリアは、底の方にちょこっと溜まっている果汁をスプーンで掬って、ミリィサにあーんして飲ませてやった。
「んー!!冷たい!!セシリア大好き!!」
そんな、戯れ合う女子を少し離れた所からチラチラ見ている、常温のフルーツミックスをつつくモリスン。
あんな風に、自分もミリィサと戯れ合いたいのだろう。
事の起こりは、先日レンが建てた塔を競争して登った時、セシリアがミリィサに圧勝したことに、ミリィサが「平地なら負けない!」と言い出したことがきっかけで、みんなを巻き込んだ小運動会に発展した。
危険な魔物の森の滸で、長閑な魔法使いたちの朝の出来事だった。
「朝から何やってんだ、あんた達」
そんな、魔法使い達が競って丘を駆け登っている様子を見ていた、1番にやって来たケージ。彼は西地区に住んでいるが、北地区の直ぐ南に隣接する地域に住んで居るので、比較的早く来れたという。
「あのおばちゃん北地区だから、先に来てると思ったんだけどな」
それから少し経って、二頭引きの小さな馬車がやって来た。乗って居たのは北地区長のホグルと、今話に上がっていたおばちゃ…ヴァルチャル。
「ありがとう御座います。では帰りも、よろしくお願いしますね」
「はいィ〜、お任せください」
ホグルは、満面の作り笑顔を残して去って行った。
どうやらヴァルチャル、地区長であるホグルに迎えに来させたようだ。
もっとも、身分制度どころか、王侯貴族も存在しないこの世界である。目上だとか立場だとかはあまり関係ないのかもしれない。
ヴァルチャルの到着から15分ほど、帰って行ったはずのホグルの馬車が引き返してきた。
見ると、どうやらリンネとトビーを乗せて来たようだ。
「二人とも一生懸命走ってたんでね、拾って乗せて来ましたよ」
とのことだった。
身分云々よりも、ただホグルがお人好しなだけのようだ。2人を降ろすと、ホグルは町へ戻って行った。
昨日のやる気に満ちた雰囲気とは打って変わって、トビーは少し緊張した面持ちだった。
おそらく、昨日は突然の報せだったこともあり、舞い上がったままやって来たのだろうが、一晩経って冷静になり、今から魔物が出る森に行くことに恐怖感でも芽生えてしまったのだろう。
対してリンネは
「レン様、おはようございます!!」
これだけの面子が揃って居る中で、真っ先にレンを見つけて挨拶をする。
「お、おはよう…ございます」
レン、まだ師匠モードに入っていないため、慣れない女性への対応に戸惑うような挨拶をする。
集まった魔法使い達に、改めてミッツが今回のことを説明する。
「まぁ、だいたいのことは昨日話したから、特に今日は話すことはないが、改めて、みんなのこれから数日間の頑張りが、ニーシュの町を救うのだとしっかり心に留めておいてほしい。
まず今日の予定だが、3班に分かれて行動する。
これは、それぞれの魔法属性から割り振った班編成になっている。自分の属性の魔法使いが、魔物と戦う時にどんな魔法を使うかを見て貰うだけでも勉強になると思うから、今日はそんなゆるい感じで行こうと思う」
事前説明が終わり、班編成が伝えられ、それぞれの班に別れる。
まず、土属性及び火属性の班は、レンをリーダーとし、補佐役にモリスン。メンバーは火属性魔法のケージと、土属性のリンネ。そして、1〜5番の魔犬たち。
次に、ミッツをリーダーとする水属性及び風属性班。メンバーは、ミーユ、ミリィサ、ヴァルチャル。そして6〜10番の魔犬たち。
総戦力としては最強チームだが、班のまとまりとして非常に不安の大きいチームだ。
そして3つ目のチームは樹属性チーム。一応セシリアがリーダーだが、セシリアも樹属性はあまり使ったことがない。最近、安全に魔法を披露する為少しずつ覚えてきたが、タネから数秒で花を咲かせることしかまだできない。
今回、セシリアも戦闘向けの樹属性魔法を試す機会となりそうだ。
一応補佐役というか、まとめ役というか、ユキが同行し、メンバーは樹属性のトビー。11〜15番の魔犬が付く。
一応、モリスン含むビギナー組は、魔物撃退用に砦に常備してある槍を借用し装備した。
戦力的にもメンバー的にも安定しているレンの班は、出来るだけ森の深い所に入り、その調査も兼ねる。
メンバーも少なく、リーダーのセシリア以外は戦力外の樹属性チームは、魔力境界線の石柱付近で行動。
伝令役に重宝する高速機動ミーユを有するミッツのチームが、その中間を行くことになった。
緊急自体の場合、セシリアとミーユは空に向かって雷を鳴らし、レンは火柱を立てることを決めて、そのまま森へと入り、それぞれの方向へと別れる3チーム。
セシリアが少し寂しそうにミッツを見ていたが、ミッツが似合わないウインクとよく似合うサムズアップで大丈夫とアピール。
婚約中はラブラブでよろしい。
セシリアの班と別れてからおよそ1時間ほど。レンとミッツの班もそれぞれ別れて、ミッツは西へ、レンは更に北へと入って行く。
森の奥へと進むレンの班は、先頭をモリスンが歩き、魔犬達は周囲と背後の警戒に当たる。
レンがモリスンから数歩後ろを歩き、レンにピッタリ寄り添うようにリンネが続く。
魔法使いとしての戦闘力は低いが、狩人として森を歩き慣れたケージが、その後ろを守るが、最後尾には魔犬が着いているのでケージも然程警戒心を張る必要はなかった。
「モリスン、何か感じない?」
ミッツのチームが見えなくなってしばし、レンはモリスンを呼び止め一旦足を止めた。
「え?何も感じないっす」
「そうか。実は、この辺まで来ると魔力濃度が境界線あたりの1.5倍ぐらいになるんだよね」
「ええー!?そうなんすか!?」
「え、どういうことだい、レン君」
とても気軽に言うレンに、モリスンもケージも慌てた様子で聞き返す。
「え、じゃあ何か危ないんですか!?」
リンネは不安げな表情でレンの袖を握り、ここぞとばかりに密着するほど身体を寄せ付ける。
「別に、ただそれだけだよ。魔物の強さもそんなに違わないし。うーんと、犬と狐ぐらいの違いかな」
確かに、全員犬と狐の戦闘力の違いがわからなかった。
「あっちの方に魔物の気配がするから、行ってみようか」
魔物がいる…レンのその発言に、ケージとリンネの表情に緊張の色が途端に濃く浮き出て、モリスンも気を引き締めた表情になる。
しばらく進むと、レンがまた何かに気付いた様で、歩みを止めずに話し出す。
「あ、気付いて逃げてくなぁ。ちょっと捕まえとくか」
ケージやリンネはもちろん、森での魔物狩りの経験が、のべ9日目となるモリスンでも、今のレンが言った意味がわからなかったが、次の瞬間はっきりする。
ズバババッ
「ヒッ!?」
「うおっ!?」
「うわっ!!」
轟音と小さい地響きにリンネが腰を抜かし尻餅をつき、ケージが槍を前に身構え、モリスンも驚いた声を上げて一歩飛び退く。
鬱蒼と茂る森の木々に阻まれてわかりにくいが、前方に大きな何かが出現したように見える。そして近づくにつれて、それが土を迫り上げて作った縦長の卵型のドームだとわかる。
直径は6〜7m、高さは森の木々を越えてすっぽり包んでいる。
「この中に魔物がいるよ。モリスン、行ってみよっか」
「は、はい!!」
既に、斬り込み隊長は自分の役目だと認識しているモリスンは、レンの指示に素直に従う。
数日前のモリスンなら「え!?ぼ、僕っすか!?」なんて言っていただろう。
「この前のデッカい鳥より全然楽だと思うよ」
レンは、中の魔物の気配を探りながら、卵型のドームにモリスンが通れるだけの穴を開け、モリスンがそこから中に入っていく。
「真っ暗っすね」
「あ、そうか。ごめんごめん」
完全に土壁で覆い尽くしたので、太陽光さえ入らない暗室になっていた。レンが土壁を網目状に変えて、卵型のドームは鳥籠のようになった。
「コレで僕らも見やすいね」
にこやかに言うレンだが、同じ土属性のリンネには、あまりにもレベル違いのことを平然とやってのけるレンが、もう神にしか見えない。
腰を抜かして座り込んだまま、星屑さえ見える様なキラキラした瞳でレンを見つめていた。
モリスンが鳥籠の中を歩き進むと、何かが動いた。
見ると、ミーユより頭ひとつ小さいぐらいのサイズの魔栗鼠が、モリスンが敵対する相手だと理解したのか、様子を見ている。
樹上の魔栗鼠と地上のモリスン。しばらく睨み合ったまま膠着状態が続き…
「レン君、アレではモリスンは攻撃できないんじゃ……」
状況を見て、ケージがふと思った事を伝える。
「あ、そうか。お前たち、ご主人様を手伝ってあげて。絶対お前たちが倒しちゃダメだよ、ご主人様が戦いやすいようにあの栗鼠を追い込むんだよ」
レンは、魔犬達に指示を出し、鳥籠の中に5匹とも入れた。
魔犬達はその高い身体能力で木の間を跳び上がり、樹上の魔栗鼠を地上へと追い込もうとする。
頼もしい猟犬に育ってくれたものだ。そう思ってレンが見ていると
ドガッ!!
「ギャインッ!!」
「へ?」
思わぬその光景に、レンは変な声を出した。
太い枝の端に追い詰められた魔栗鼠。
あと一息で地上へ落とせると踏んだ魔犬が、もう一押し追い詰めようと足を踏み出し吠えたその時
魔栗鼠は、その枝に実っていたまだ青い果実をちぎって、魔犬に投げ付けたのだ。
青い果実は魔犬にクリティカルヒットし、ダメージを負った魔犬は狭い枝の上でバランスを崩した。
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