↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/231

第1章【コミュ症でモブキャラで辺境の田舎者なのに英雄と呼ばれて申し訳ありません】1

本編再開です。

第1話【初めてのお使い】




辺境、この世界にそう呼ばれる地域がある。




この世界全体が、農業と狩猟を中心に生活を営む、地球の人類史で言うところの古代文明に近い。


しかし、一つ一つの農村は村長を中心に纏まっていて、人が多く集まる“町”では、人口に相応したきちんとした管理体制が敷かれている。文明は古代レベルでありながら、社会構成は中世に近いものがあった。


また、服飾関係や建築技術、インフラ整備に関して言えば、近世以降の概念を彷彿とさせるものもあり、農村では未だ物々交換が主流ではあるが、街には貨幣もある。


その要因の1つが、“聖魔教”の影響がある。


この世界のほぼ全域に浸透する、宗教的な教えであり、いつどこで誰が作ったのか、その起源は全くの謎に包まれている。定説としては、人類の始祖と云われている“天人”によってまとめられたと考えられている。


そしてもうひとつ、古代文明社会でありながら中近世並の文化水準を持つ要因として、“世渡り人”と呼ばれる者達の存在がある。


彼らは一様に、この世界とは別の世界からやって来たと主張し、実際にこの世界の言葉が全く理解出来ず、異なる言語を話し、まだこの世界では誰も知り得ない知識を有している。


そして彼らは、出身地である“別の世界”の知識や技術を齎し、その恩恵によりこの世界は文化文明の順序を無視した、矛盾した発展を遂げている。


特筆すべきは、世渡り人達は“魔法”を扱うことができる。しかしこれは、元の世界にいた時から使えるのではなく、この世界に来て初めて使えるようになったのだと、どの世渡り人も言う。


現在、世渡り人と魔法に関する研究機関が設けられ、日々研究が進んでいるが、おそらく世界間を渡る際に、何らかの要因で魔法が使える身体になるのだと、定説付けられている。


そして、魔法は世渡り人本人だけでなく、その子孫も扱うことができる。研究機関の見識では、本人より子孫の方が些か劣化はするそうだが。




そんな、世渡り人の子孫達が暮らす村がある。


辺境、そう呼ばれる地域に、彼らは暮らしていた。


40数年前、1人の男がこの世界に渡って来た。今はもう故人となったが、その類稀なる魔法と精力によって、たった1人でその広大な農園を切り拓いた。


そして今は、彼の子供達である5人の兄弟妹が農園を引き継いで暮らしている。


更に、彼らの父によって保護された世渡り人が1人と、この世界で生まれたその娘が1人。兄弟妹の次男が保護した世渡り人が3人と、長男の妻、合計11人が共に生活をしている。


11人という小さな集落でありながら、そのうちの4人が純粋な世渡り人で、6人が世渡り人を親に持つ、つまり10人もの魔法使いが暮らす集落であり、遠く離れた街にまで彼らの噂は届いていた。


曰く、魔物を狩って暮らす辺境の魔法使い達。


そう街で噂される彼らに、ある日街から人が訪ねて来た。


なんでも、これまで普通の森だった街の近くの森に、ある日突然魔物が現れたのだと言う。


魔物など、小型の最弱級の個体でさえ一般人には猛獣と同じだ。今まで普通に狩りや野草採取に入っていた森に、猛獣以上の脅威が跋扈するようになり、街の住民達は夜も眠れぬ日々を過ごすようになった。


そこで白羽の矢が当たったのが、辺境の魔法使い達。


彼らは、その頼みを聞き入れて、いざ森の調査と魔物退治の旅へと向かった。






「うわあっ、うああっ、ういい〜」


荷馬車に揺られ情けない声で縁にしがみつくのは、一見パッとしないひ弱そうな少年だが、こう見えて一軒家サイズの巨大な魔物を一刀の元に斬り伏せる、農園最強の魔法使い、レン。


今回の森の調査のメンバーに選ばれた1人である。


農園の最東端、カーズ家の裏には隣の村との間を隔てる小さな山脈があり、カーズ家を出てから5分と経たずに、馬車は山道へと入った。


魔物の森の緩やかな丘陵とは異なり、直ぐに急な斜面となるが、かつてジョージが馬車でも通れるように蛇行する道を切り拓いていたため、ミッツの巨馬は一頭引きでも平地と変わらない速度で進んでいく。


しかし、農園の道と違って東へ抜ける道は、土属性魔法を扱うレンが手がけたわけではなく、ジョージの樹属性魔法で木の根などを排除して均しただけなので、農園や魔物の森の整備された道と比べると非常に揺れる。


調査団メンバーの1人、レンより10歳以上歳下の幼女、ミーユはアトラクションのように面白がっているというのに、レンは大きく揺れるたびに馬車の縁にしがみつき、それを見ながら中年の美しい女性、ユキが笑う。


「魔法の剣を振り回してる時はあんなにカッコイイのに、おかしなレン君ね」


そんなこと言われても…と、言葉に出そうとした拍子にまた大きくガタンと揺れて、縁にしがみつく。


「見ろ、もうこんなに高いところまで来たぞ」


御者席に座る髭面の大男、農園の5人兄弟妹の次男ミッツが、ちょうど木々の切れ間から景色がよく見えるポイントで馬車を止め、麓側を指して言う。


見ると農園が一望でき、遠くの柵に囲まれたミッツの家や、魔物の森の方までよく見える。


「おおー、良い景色だな」


御者席でミッツの隣に座る、プラチナブロンドの若い女性、ミッツの婚約者でドイツ出身の世渡り人、セシリアが感動するように言う。


ミッツの言葉に、眼下に広がる広大な農園へと顔を向けたレンは、その景色にこの世界へ来てから今日までのことを振り返った。


あの森でミッツと出会い、農園へと連れてこられ、カーズ達に保護されて異世界生活が始まった。


この世界へ来るまでは、レンは本当にパッとしないただの高校生だった。コミュニケーションが苦手で、帰宅部のエースと評されるほど存在感がない、“青春を謳歌する”とは程遠い高校生活を送っていた“藤田蓮次郎”は、この世界へと渡って来て“レン”と呼ばれるようになり、人生が一変した。


学校へ行く以外はほとんど家から出なかったレンが、農園の作業を手伝ったり、魔法使いの兄弟妹達と魔物の森へ入り、魔物と戦ったりもした。


時には命がけで戦う事もあり、そんな中で幼い頃に習ったきりで忘れていた居合剣術を思い出し、魔法と組み合わせた新たな戦闘方法まで編み出した。


それら全てが、ここから見える景色の中で起こった事だと、レンは改めて思う。


いろんな事があった。


この世界の事も、沢山知った。


でも、まだまだ知らない事だらけだ。


今見えている景色がレンが知るこの世界の全てなら、これから赴く村や町はまた別の世界と言えるのか。


知らないということは怖い。


チャレンジとは決死の覚悟だと思う。


魔物を狩って生活している凄い魔法使いばかりの農園なのに、何故か自分が1番魔法に長けていたが、町にはもっと凄い人達がいるに違いない。


魔法だけじゃない。異世界なんだから、凄い剣士とかいるかもしれない。


そうでなくとも、レンにとっては新たに人と会うというだけで身構えてしまう。


ユキの時は、異世界で同郷の人に会えるかもという期待感の方が高かったため、あまり緊張しなかったが、これから行く所にはまったく知らない人しかいないのだ。


町の人たちと馴染めるか。それが1番怖い。


そう思うほどに、手に汗をかくほど緊張してくる。けど、どこかそういった新しい出会いや変化を待ちわびている自分がいるのも感じていた。


“楽しみ” という感覚。


この世界に来て、レンが成長した証かもしれない。




山道は、山頂へ行く方向から少し逸れて、峰と峰の谷間を抜ける。それでも峠近くは中腹までと比べて道が急になるため、全員で馬車を押して上がった。道は峠を越えてからは下り坂が続くので、ミッツは馬車のブレーキを上手くかけながら峠道を下って行く。


途中で崖が崩れて大岩で道が塞がっている所も、レンの土魔法で岩に足を生やして歩かせて退かした。ミッツが感心してミーユが喜んだ。


「昔はこんな崖崩れがあると、歩いて村まで行って人を呼んで、大勢で岩を退けたなぁ」


魔法使いには属性があり、農園の兄弟妹の四男アークも、レンと同じく土属性の魔法使いなのだが、レンと出会う前のアークでは、道を塞ぐような大岩を動かすことはできなかった。


今なら、レンと同じように難なく動かしてしまうが。


ちなみに、ミッツは水属性で隣に座るセシリアは雷属性と樹属性、ユキが凍属性でレンは土、火、光の三属性持ち。そして幼女ミーユは水、凍、風、雷、光の何と五属性の魔法を扱える。


属性を二つ以上持つのは世渡り人の特徴らしい。


岩を歩かせたのをミーユが面白がったので、しばらく四つ脚を生やした人の胴体ぐらいの石を、馬車と並走させて遊んだりした。




そうこうしているうちに、家屋や田園風景が見えて来た。


まだ空がオレンジ色に変わり始める少し前に、一行は村に到着した。


畑仕事をしていた若者がミッツ達に気付き手を振る。ミッツも既知の顔らしく名を呼んで手を振り返した。


朝出て夕方前に村に着くならば、そのまま次の村まで行ってしまってもいいように思えるが、この村から次の村へ出るまではほぼ1日かかるのだ。


日の長い田植え後の季節であれば、早朝に農園を出て1日で次の村まで行ってしまうこともあるが、今日はここで村長宅に泊めてもらうことになっていた。




「村長、世話になる」


「おお、今年は熊男が来たか。聞いたぞ、嫁さんが出来たんだってな!!」


「いや村長、まだ結婚はしてない。婚約しただけだよ」


嫁さんと言われて戸惑うミッツ。その隣に立ったセシリアが、嬉しそうに頬を染める。


「一緒だろそんなもん!!お、そっちの若ぇのが例の凄腕魔法使いだな!ちょっと腕前見せてみろ!」


白髪の中にほんのりグレーな部分が残っている程度の老人が、ミッツたちを応対した。


この村の村長で、先日農園に来たジンの父親である。


その村長のいきなりグイグイ来る感じに圧倒されて、レンは「あ、えと…」と口籠ってしまう。


「お、かーわいいお嬢ちゃんがいるじゃなねーか。ほれ、こっちおいで」


レンが口籠っていると、村長はミーユに気付き抱っこしてやるように両手を伸ばすが、ミーユは怯えてレンの陰に隠れてしまう。


「ははっ、照れてやがる」


「子供怯えさせてんじゃねーよ、親父」


村長の後から出てきた男…先日農園に助っ人の若者を連れてきたジンが、父親を叱責する。


「バカッ!!怯えてるわけねーだろ、こんな優しいじーちゃんによぉ。なぁ、嬢ちゃん」


日焼けした皺だらけの老農夫の顔は、文明大国の都会に育ったミーユには見慣れない風貌だ。更に怯えてレンにギュッとしがみ付いてしまう。


「ほら、遊んでねーでとりあえず休ませてやれよ。ミッツはともかく、他の連中は旅慣れてないんだろ」


「わーってるよ、んなこたぁ!!おうミッツ、いつもの部屋空けてあるからよ、適当に休んどけ。じき夕飯だ」


ぶっきらぼうに言い放つと、玄関から一歩外へ出る村長。そこへミッツが木箱を抱えて差し出した。大きさは巨漢のミッツがなんとか担ぎ上げられるぐらい大きい。


「悪いねいつも。これ、夏前に獲った魔猪の氷漬けだ」


途端に顔色を変えて歓喜する村長。レン達が魔物を狩るようになってから大量に獲れる魔物の肉を、こうしてミーユの魔法で限界まで低い温度にして持って来るのだ。


それを更に氷の板で囲って木箱に入れてくるので、農園から村まで馬車で運んでもまだ凍ったままなのだ。


「おお!!これこれ。すげぇよなぁ魔法ってのは。塩漬けや干し肉にしなくったって保存できるんだからよ。おおそうだミッツ、前にカーズが話してた冷凍庫ってのをウチにも作ってくれる話だけど、どうなってる?」


「ああ、そうだな。夕飯の時間までまだ時間もあるし、やっちまうか。レン、ミーユ。頼めるか?」


「え?」


「はーい!!」


それぞれ対照的な返事をする世渡り人だった。




「お世話になります」


「おう」


今夜一晩を過ごすだけなので、着替えなど簡単な手荷物だけを持って、ミッツとセシリアに続いて村長宅へ入るレンとミーユ。


最後に入って来ようとしたユキが、玄関前で立ち止まり、村長に深々と頭を下げる。


それに対して、さっきまで上機嫌だった村長は、わざとらしいほどぶっきらぼうに一言だけ応えた。


目も合わせずそっぽを向き、まだユキが頭を下げたままだというのに、何処かへ歩き去ってしまった。


その様子をぼんやり見ていたレン。


「気になるか?」


そのレンに話しかけたのは、村長の息子のジン。先日農園に来た時、挨拶ぐらいはしたが、これといって言葉を交わしたわけではないので、ほぼ初めて絡む相手ということもあり、レンは対応が遅れて言葉が出ない。


そのレンの無言を肯定と受け取ったのか、ジンは簡潔に今の様子を説明する。


「あのユキって女が何をしたか知ってるだろ?ジョージとロティシーの仲を取り持ってやったのが親父でよ、あのユキって女がジョージを誑かしてぶっ壊しちまったって思ってんのさ」


ロティシーとは、ジョージの妻でカーズ達の母親の名前である。その名はジョージのノートに記されていたので、レンも知っていた。


ジョージがどうしようもない遊び人のイメージだったので、レンの中では、ユキは被害者の1人だと思っていたが、見る者が違えばユキも悪いことをしたと見えてしまうのか。


なんとも難しい大人の事情である。レンにはまだまだわからない。


村長が居なくなったあともしばらく頭を下げていたユキが、ゆっくり顔を上げるとレンと目が合った。


なんとも言えない切ない笑顔を見せて、申し訳なさそうに敷居を跨いで行くユキをボーッと見ていたレンは、家の奥からミーユの呼ぶ声が聞こえると、家の中へと入った。

ご閲覧いただきありがとうございます。誤字・脱字、矛盾点等ありましたら、ご指摘頂けると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。