第6章【辺境の農村なのに魔法使いばかりのチート集落で申し訳ありません】2
第2話【チート的狩人】
以前、レンは自分の魔法が上手く使えないと悩んだ事があった。
初めて魔物を倒した日、当時はまだ世渡り人の先人であるジョージが遺した「倒した魔物の魔力が俺に宿る!!」説を信じており、強大な魔物を倒したので相当レベルアップしているだろうと思っていた。
しかし、翌日ミッツ家の裏の荒地で、その強大な魔物を倒した魔法を再現しようとしたが上手く行かず、むしろ弱くなってしまったのではないかと思うほどだった。
その後の実証実験で、ジョージの説は一部誤りで、魔物の魔力は倒した者ではなく、絶命の瞬間に近くにいた者に宿るのが正しかったことが証明されたのだが、それでも弱くなることはない。
その後、再び魔物の森へ狩に来た時、レンは同じ魔法を試してみた。
すると、あの時のように瞬時に石刀が伸び、10数本の木と1匹の馬の魔物を切り裂いたのだ。
原理はわからないが、おそらく魔力の薄いところでは、瞬間的に出せる魔力量に限界があるのだろうことがわかった。
今まで、今のレンと同等以上の魔法使いがいなかったためにわからなかったことなのだろう。
カーズ達にとっても初めて知る事実だった。
この「空間の魔力濃度によって発動できる魔法のレベルの違い」は、今現在のレンの大きな研究テーマになっていた。
夏がいよいよ本格化し、同居する女性たちの益々目のやり場に困る格好から、必死に逃げながら、レンは新たに発見した魔法の法則をまとめた。
「フゴフゴ」
「ヴギィ、ヴギィ」
休憩場所で出発の準備をしていると、窪地の縁を乗り越えて魔猪の群れが走って来た。
四つ脚で立って人間の目線ほどの体高を持つ巨体だ。突進されればひとたまりもない。
魔猪は、どうやら此方を敵と定めて襲ってくるようだ。
「ちょうどいい肩慣らしの相手が来たな」
マーサーがパキパキと関節を鳴らしながら指を動かす。
「10頭とちょっとか、いけるな」
巨馬を荷車に繋いでいたカーズも、作業の手を止めて前に出た。
「ミーユ、バーンするー!!」
真っ先に荷車に乗り込んでいたミーユが、仁王立ちで殲滅宣言をし、そのまま荷車から飛び降りた。
ミーユと一緒に荷車に乗っていたコジロウも、荷車から飛び出してミーユの横に立つ。
アークは黙って石刀に良さそうなサイズの石を拾い、ミルクとサラは互いにアイコンタクトをして並び立つ。
レンはその様子を後ろから見ていた。
6人の魔法使いが横一列に並び、魔力を高める。
「火炎槍!!」
カーズの放った炎は、細く収束して槍のような鋭さで獲物に向かう。
発動に呪文など必要としないこの世界の魔法だが、イメージをハッキリさせるために屡々言葉を付ける。
迫り来る炎の槍に対し、魔猪は力強く鼻息を吹くが、空気抵抗の低い槍の形をした炎は、威力が削がれることなく、魔猪の目に突き刺さった。
炎の槍を食らった魔猪は、走って来た勢いのまま横倒しになるが、後続の魔猪はこれを跳んで上手く回避する。
「風刃!!」
だがそこに、マーサーによる風の刃が迫り、跳び上がり無防備になった魔猪の鼻っ柱を切り裂く。
傷は深く、この魔猪も着地と同時に地面に転がる。
「木の根の罠」
「育成光球」
大地に手をついたサラの掛け声と、魔猪の群れに人差し指を向けたミルクの声が重なる。
突進してくる魔猪の群れの足元で、木の根が盛り上がり地上に顔を出すと、そこにミルクの放った光弾が着弾する。
瞬く間に木の根が大きくブリッジ状に飛び出し、突進する魔猪を次々と転倒させていく。
「イェーイ!!」
ミルクとサラは声をハモらせハイタッチする。
サラはまだあまり強力な魔法を使えない。また、ミルクの光魔法では、直接相手を傷付けるような殺傷能力のある魔法が今のところない。
ミルクの光属性の能力の1つ、治癒魔法の応用で、生体に対して異常成長させられることが試行錯誤の末にわかった。
そこで2人は、植物を操る能力のサラをミルクの過剰成長を促す魔法で補助するという、合作のような魔法を編み出していた。
「イッポウリュウイアイジュツ、センゲツ」
サラとミルクの連携魔法によって倒れた魔猪の群れに、居合の構えから石刀を一閃させたアークの斬撃が襲いかかり、数頭を真っ二つに斬り裂いた。
その威力は、かつてこの場所で巨虎の魔物を葬ったレンの魔法を彷彿とさせるほどに成長していた。
「おおー!!」
「やるな!!」
カーズとマーサー、2人の兄たちに感嘆の声をあげさせたが、アーク本人は浮かない顔をしている。
「みんなすごいなぁ」
活き活きと全力魔法を放つ兄弟妹たちを一歩下がった後ろから見ていたレンは、棒立ちのままそっと右手を振り上げた。
「ほっ」
ズッ…と大地が揺れた。
瞬間、魔猪の群れの足元から10数本の石の槍が現れ、真下から魔猪を貫き突き上げる。
生き残った殆どの魔猪が貫かれ、数メートルの高さに打ち上げられる。
あるものは即死し、あるものはまだ息はあるが苦しくもがいている。ビクビクと痙攣している個体もあった。
「チッ」
その威力に、アークは舌打ちした。
『みずミサーイル!!』
眼前に翳したミーユの小さな掌から、無数の水の弾丸が放たれ、さながら散弾銃のように魔猪の群れを襲う。
ほぼ逃げ場のない弾幕掃射により、わずかに生き残った個体も倒れていき、レンが打ち上げた石の槍も粉々に砕かれた。
「グルルゥ」
ミーユの横で少し悲しげな声で鳴くコジロウ。
「ミーユ、またコジロウに獲物残してやるの忘れたね」
「あ、ごめんねコジロウ」
レンのツッコミに、ミーユはしゃがんでコジロウの頭を撫でてやった。
猪の魔物は、各個体の戦闘力で言えば、かつてカーズ、マーサー、アークの3人で苦戦した魔物の群れにいた上位の個体と同等以上。
それを、難なく打ちのめして見せた彼らは、格段に成長していると言っていい。
しかも、猪という動物をベースにしている性質上、正面からの攻撃に強い。そんな魔物に対し、真正面から攻撃を仕掛けての結果である。
実際、レンとミーユが手を出さなくても同じく全滅させることは容易だっただろう。
「コジロウだけじゃないぞ、ミーユ。全部やっつけちゃったら、魔力取れないじゃないか」
冗談交じりな口調でカーズが笑う。
「あ、ごめんなさい」
素直に謝るミーユに、みんな笑っていた。
かつては命がけで挑んだ魔物に対し、ずいぶん余裕が持てるようになっていた。
魔猪の死体をミーユの魔法で氷漬けにし、レンの土魔法で地下に保存する。
力強い魔馬に引かせた馬車とはいえ、積載量に限界はある。この先の荷物を減らすためにこうして置いていく。
一行は馬車で更に奥へと進み、出くわす魔物を危なげなく打ち倒して行く。
森の浅い場所は、多少の起伏はあってもまだ平地と呼べるが、窪地を過ぎると地形は山地になってくる。
しかし、レンとアークによって道は強引に切り開かれ、また、前の世界の知識から、レンが山肌を蛇行するように道を整えていたことで、馬車は問題なく奥へと進んで行く。
道が整備されたところを馬車で行くので、1日もかかることなくここまで来ているが、獣道すらない山林を徒歩で行くのであれば、この辺りまでは3〜4日はかかるだろう。
危険な魔の森で宿泊できる手段のなかったカーズ達にとっては、かつては未知の領域だった。
山の中を切り抜ける道が、少しひらけた場所に出た。
山の中腹の高原のような場所で、その一角に、切り出したように四角い大きな石塊が見える。
石塊は一辺が10m程の立方体と、3m四方で高さ10mの直方体とが並べて置れている。
真上から見ると『凸』の字のようになっているなと、ニホンジンだったレンは思うのだが、ミーユはまだ子供でわからなかったし、この世界の人も誰も共感できなかった。
そのうちユキを連れてきて見せようと思ったレン。
荷馬車から降りたレンが、直方体の方の石塊に手を触れ、魔力を込める。
石塊はレンの意思に従って、レンが右へと手を動かすのに合わせてゆっくりと同じ方へ動く。
やがてそこには、大きな石塊に開いた穴が現れる。
直方体の方は扉の代わりで、立方体はその中にあるものを囲った石壁だった。
石壁の中には畳んだ状態のテントが幾つかあり、全員でテントの設営を行う。
ここは、常設の野営地として建てたもので、ここを拠点に1日〜数日狩を行うことができる。
馬車での移動時間と、開けた高原という立地条件でここを野営地にしたが、この辺りは、あの巨虎程ではないが強力な魔物が蔓延っているため、当時はこの建物を作るのも命懸けだった。
馬並みに大きい狼の魔物が群れを成していたり、熊のように大きな狸や狐の魔物がいたり、なんだかよくわからない怪鳥のような空飛ぶ魔物がいたりと、ここにたどり着くだけでも大変だったのだ。
今でこそ全員がそれらの魔物と1対1でも負けない戦闘力を持っているが、当時は単体で対処できるのはレンだけだった。
そのレンは、石壁作りに集中しているので、襲ってくる魔物は他の全員で対応するしかない。
瀕死になったアークを、ミルクが泣きながら治療していたのも、今では笑って話せる思い出になっていた。
「アーク、何してるの?」
夕食を終え、就寝までまだ時間があり、それぞれが思い思い過ごす中、アークは高さ10mの石壁の上にいた。
壁の内側には、何箇所か縦に規則的に並んだ窪みがあり、それを使って梯子のように壁の上まで登れるようになっている。
壁の上にいるアークに気付いたレンが、壁を登って来て声をかけた。
「狼、来ると思うか?」
アークにしては珍しく、気持ちが上がっているのが声音でわかるほど、抑揚を感じる声で答える。
この辺りには、様々な魔物が棲息しているが、その中でも厄介なのが魔狼だった。
彼らは家族単位での群れを形成し集団で襲って来るため、単体で現れる魔物と比べるととても厄介である上に、群れの統率力が非常に優れており、何度も苦戦を強いられていた。
最初に遭遇したのは野営地設営の時で、三頭で襲ってきた。
個別の戦闘力もさることながら、その機動性と連携に翻弄され、レンが作った石壁に逃れ何とかやり過ごした。
次の野営の時には10頭ほどの群れが襲ってきた。前回3頭でも翻弄されて逃げ込むのが精一杯だったので、これは石壁の中でやり過ごした。
3度目の襲撃は、野営地に辿り着いた所を狙われ、戦闘を余儀なくされた。
ここに至るまでに各個人、いくらか魔物を倒し強くなってはいるのだが、やはり過去に恐怖を植え付けられていたこともあり苦戦を強いられる。
レンがボスに深手を負わせてなんとか撃退したが、こちらのダメージも深刻だった。
そんなこともあり、次の野営地泊まり込みまでに、各個人の魔力の底上げを実施。
窪地の休憩所に野営を張って1週間の泊まり込みで大量の魔物を狩った。
準備万端で臨んだ次の野営の時には、全員が1対1でも魔狼を倒すことができ、10頭の群れの半分以上を仕留めて、残りも逃げていった。
その後も何度か魔狼が野営地に姿を現したが、群の頭数を半減させた魔狼は既にこちらの敵ではなく、襲撃というよりもちょっかいを出しては逃げて行くといったふうだった。
「来るんじゃないかな。狼ってプライド高そうだし」
「プライド?奴らにプライドなんかあるか。相手が弱けりゃ全力で叩き潰しに来るくせに、強くなると尻尾巻いて逃げる。そんな獣にプライドなんかない」
やはり今日のアークは機嫌が良さそうだ。いつもよりよく喋る。
もっとも、魔物とはいえ元野生動物だ。誇りやプライドといった形のないものよりも、自分たちの命の方が大事に決まっている。勝てない戦いはしないのが当然である。
「いいか、お前は手出しするなよ」
開けた平原の向こうに不自然に動く影が見えると、アークはレンを制した。
腰に携えていた、石の棍棒を片手で持ち、肩越しに背中に当てるように構える。
「ふん!!」
釣竿のように棍棒を振ると、それは勢いよく伸びて10mほど先の地面に突き刺さる。
「はっ!!」
アークは気合いと共にジャンプした。
「えええええ!!?」
その光景に、規格外の魔法使いであるレンでさえ驚愕した。
石柱の先端が地面に刺さると同時にジャンプしたアークは、石柱を一気に短くする。
石柱に引っ張られるようにアークは飛んでいき、地面に激突する直前に石柱を引っこ抜き、再び投げるように伸ばす。
伸ばした石柱が再び地面に突き刺さると、またアークは魔法で石柱を短くし、その勢いで飛んでいく。
10数回繰り返したところで魔狼に追いつき、もう1度飛んで魔狼たちの前に出ると、アークは地面に手をついて、魔狼たちと自分を囲う壁を出現させる。
「悪くない」
初の実戦実験で逃げる魔狼に追いつくことができた。
機嫌が良かったのは、この新たな魔法をレンの目の前で試すチャンスが今日あると確信していたからだった。
アークは、自ら開発した技の出来栄えに、更に上機嫌になる。
何より、ライバル視しているレンの驚く声が聞けことが、1番アークを調子付けていた。
魔狼の群れは、調子に乗ったアークによって全滅し、その魔力をアークへと捧げることとなる。
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