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閑話5【夢で逢えたら①】

現代日本、レンとミーユが現代日本で行方不明になってから約1ヶ月後。ミーユ(美遊)の母親、佐久間 巴奈の視点のお話です。閑話2【君の瞳は1000000V①】の続きになります。

カランカラン


「ありがとうございましたー!」


今日も、最後のドアベルの音が鳴って、常連のお客さんが帰り、1日の仕事が終わった。


「ん〜、終わったぁ!」


「お疲れさん。もうラストまでは慣れた?」


最後のお客さんを見送った直後に伸びをする私に声を掛けるのは、このカフェのオーナー、新見店長。


本人は最近太って来たって言うけど、全然そんな風に見えないアラフォーの優しい目をした店長。


「はい、働いてる方が気楽でいいから、助かります」


4月の中旬にバイト復帰の相談をしたんだけど、店長が


「復帰してすぐGW(ゴールデンウィーク)は大変だから、少し前からちょっとずつ出るのはどう?」


て言ってくれたから、相談した2日後から復帰させてもらって、2週間が経つ。


前はランチタイムが終わるまでだったし、土日祝日は休んでたけど、私のワガママでGWもラストまで働かせてもらってる。


以前とはガラッと生活が変わったけど、我ながらよく続いてると思う。


「お客さんの前と、全然違う顔してんな」


「そうですかぁ?」


ちょっと惚けた返事をしてみたけど、ラストまで働くようになって、こうして最後のお客さんが帰って息を抜くと、なんか店長の言ってることがわかる気がする。


ランチタイムが終わって帰ってた頃は、美遊(みゆ)を迎えに行かなきゃいけないから、バイト終わってもバタバタしてたし、こんな風に伸びして息を抜くことなんかなかったし。


そう思うと、店長はよく見てるなー。すごい、本当に。


「店長、改装の件ですけど、追加するイラストまとめてありますので、お時間あるときに目を通してくださいね」


「あ、はい。ありがとうございます」


「じゃあ、お先にあがります。お疲れ様でした」


「お疲れ様です」


「堀田さんお疲れ様でーす」


パートの堀田さんは、大学生の娘さんと高校生の息子さんがいる、働くお母さんだ。


旦那さんももちろん仕事をしてるけど、2人の子供を大学まで行かせようと思ったら大変なんだって。


堀田さんも凄い。いろんな事を教えてくれるし、私の話をいつも親身に聞いてくれる優しいお姉さん。


まだ美遊が行方不明になる前、お店の内装を変える案が出て、堀田さんが率先してレイアウトとかみんなの意見まとめて図案を作ってくれたり、才能も凄いある。


本当に、働く女性として尊敬できる人だと思う。


前はラストまで仕事してたけど、私がラストまで入るようになってからは、ラストオーダーの時間でタイムカード切って帰るようになった。


お客さんが少ないともっと早く上がることもある。家の事もやらなきゃいけない主婦は大変だよね。


私もシンマ…だ(・)っ(・)た(・)からよくわかる。


で、堀田さんが帰ると私と店長の2人だけになる。


売り上げの集計とか難しいことは店長がやってくれるから、私はホールの掃除とキッチンの片付けを担当…て言っても、空いてるテーブルはほとんど堀田さんが綺麗にしてくれてるから、私のやることはあんまりない。


だから、だいたい私が先に終わるから、帰る支度をしてスマホいじりながら店長を待つ。




「おじゃましまーす」


「どーぞー」


店を閉めて、店長の車の助手席にお邪魔するのも慣れてきた。最初は流石に緊張したけど。


ラストまで入るようになって、店長が送ってくれるようになった。最初はもちろん断ったけど


「店の看板娘の巴奈(はな)ちゃんに何かあったら困るから!!」


と、断固として聞かない店長に押し負けてしまった。


けど、10分足らずの送迎を、店長は「ドライブデート」なんて冗談ぽく言ってくれるから、その気遣いが正直めっちゃ助かる。


だって、申し訳ないじゃん。私のワガママでラストまで働かせてもらってるのに、店長はわざわざ遠回りして送ってくれるんだもん。


私がいなかったら、店長は真っ直ぐ家に帰れるのに、それを嫌そうな顔をせずにそうやって冗談言って和ませてくれるから、本当にありがたい。


送ってもらいながら色んな話するけど、“あの話”にも触れないようにしてくれる。


どんだけ良い人だよ!まったく!!


イケメンではないけど、優しい目をしてるし鼻筋も通ってて清潔感もあって、女性のお客さんとかにも気さくに話しかけられてるから、モテない方じゃないと思うんだけどな。


6〜7年ぐらい前に奥さんと別れてから、1回も彼女がいたことがないとか。前の奥さんの事引きずってるのかなぁ。


私も離婚してからは、再婚どころか彼氏すら欲しいと思った事ないから、店長も同じなのかな。




「ありがとうございました、気を付けて帰ってくださいね」


公団の前で降ろしてもらって、爽やかに手を振りながら走り去っていく店長を見送って部屋へ向かう。


最初の頃は「巴奈ちゃんが先に部屋に入ってくれないと安心して帰れない」って言って、いつまでも待ってたけど、送ってくれた人を見送りもせずに家に入れないって何度も言って、やっと先に帰ってくれるようになった。


「おうちに着きました…っと」


その代わり、家に入ったら必ずLINEするように言われた。お母さんかよ(笑)


店長にLINEしたら、スマホを無線充電器に置いてベッドにダイブッ!!


「今日も疲れたなぁー」


ベッド脇にあるヌイグルミのクマを引っ張ってハグ。


今日はカレンダー的には平日だけど、GW期間のせいか忙しかったなー……


去年は美遊もいたし、GWは……去年は……




「ママ、みてみてー!きょうねぇ、みゆのまほーでブタさん3ひきもつかまえたよー」


──へぇー!すごいすごい!──


「でもねぇ、レンにいはもーっとすごいんだよー!こーやってねー、オオカミさんをねー…」




はっ!?


あ、夢か。


いつのまにか寝ちゃってた。


また、美遊の夢だ。どうやら最近は魔法を身に付けて森の中で狩りをしているらしい。


あれから、美遊の夢ばかり見る。


最初はずっと泣いてる夢ばっかりだったけど、夢の中で私を慰めてくれた時から、美遊は“今日のお話し”をたくさんしてくれるようになった。


それこそ、保育園から帰ってきて、今日1日あったことを話してくれてた時みたいに。


魔法を覚えたとか、魔物をやっつけたとか、森で拾った子猫のお世話をしてるとか。


まるで、どこか別の世界で生きているような。


私の妄想なのかなって思うときもあるけど、人の名前が出てきたり妙に具体的だったりもするから、もしかしたら本当にそうなのかも。


ちょっとぶっ飛んでるから、誰かに相談したくても信じてもらえなさそうだけど、誰かに聞きたいなぁ。


男の人ならそういうゲームとかやるから、何かわかるかな?


今度、店長に聞いてみよ。


そういえばまだメイクも落としてないや。あんまりズボラなことしてると、また美遊に叱られるから、とりあえずシャワーを浴びてこようかな。






「店長って、ゲームとかします?」


次のバイトの日、いつものように店長の車で送ってもらいながら、何気なく聞いてみた。


「ゲーム?あんまりやらないけど…なんで?」


「あ、えっと……なんか、ほら、モンスターとか倒すようなゲームとかあるじゃないですか。あれって面白いのかなーって」


「んー、“怪物狩り”とか?それとも、“竜の冒険”みたいな?」


「あ、タイトルとかよくわかんないですけど、はい、そういうのです」


「珍しいね、巴奈ちゃんがそういうのに興味持つって。俺もあんまり詳しくないけどさ….」


そう言って、店長は数少ない知ってるゲームの話をしてくれた。


あんまりよくわからなかったけど、とにかく剣や魔法を使ってモンスターを倒して、レベルアップして強くなって最後には魔王をやっつけるっていうのが普通なのかな?


「知り合いにそういうの好きなヤツいるから、興味あるならおススメとか聞いとくよ」


車を止めて、会話を締めくくるように言う店長。


店長の話を聞いてたら、あっという間に公団に着いちゃった。


「あ、ゲームはいいです。あんまり興味ないから」


店長の話はもっと聞きたいなって思ったけど、ゲーム自体には興味はないなぁ。


「そっか」


せっかくの親切を断ったのに、いつもの優しい笑顔で答えてくれる店長。


その優しい笑顔と向き合うと、もうちょっとだけ店長と話をしていたくなる。なんでカフェから家までたった10分なんだろ。もう少し遠ければいいのに。


「店長は、ゲームみたいな世界が本当にあるって、思います?」


だから、ちょっとだけ話の続きを振る。この質問の返事を聞いたら車を降りようって、朝のあと五分みたいに心の中で言い訳をして。


「んー、あったら行ってみたいね」


「モンスターと戦うんですか?」


思ってた答えとは違う、YESとかNOじゃない答えだったから、反射的にまた私は質問を続けてしまった。


「ああ、戦ってみたいね。ただ、チート級の力で圧勝できる前提だけど」


「チート級?」


「うん。ズルイぐらい強い、って意味かな。めちゃくちゃ強いドラゴン相手に、一方的にボコるぐらいの」


「ええ、それドラゴンが可哀想!!」


「え!?だってそういう世界だよ!?」


あと一言、そう思って振った質問だったのに、返事を聞いたら車を降りるつもりだったのに……


なぜかそのあと話が盛り上がっちゃって、30分ぐらい話した。


「ごめんなさい、なんか長話しちゃいましたね。店長明日も早いのに…」


「いいよ、俺も楽しかったし」


また、そうやって優しい笑顔。


私は、楽しかったし、もしかしたら美遊が今そういう世界で生きてるのかと思ったら、想像が膨らんじゃって夢中になっちゃったけど、ただでさえ遠回りさせちゃってる店長には迷惑でしかないのに。


「異世界の話に興味あるなら、いくつかそういうの教えてあげるよ」


「え、本当ですか!ありがとうございます!!」


最後に、またちょっとだけそんなやり取りをして、私は車を降りて店長を見送った。




それから、店長に送ってもらう日は、ゲームや異世界の話で盛り上がるようになった。


「モンスターは倒しただけじゃダメで、ちゃんと触れていないとレベルアップはしないらしいですよ」


「へぇ、よくそんなこと知ってるね」


「あ……」


美遊が夢で話してくれたことを思わず言っちゃって、そんなふうに突っ込まれて戸惑う事もあるけど。


でも、もし本当にそんな世界があって、もし本当に美遊とレン君がそんな世界で今も生きているなら…


「みんなで一緒に冒険とかしたら、楽しそうですね!」


「あははっ、そうだね!ドラゴンとか倒しちゃったりね!」


「だから、ドラゴンが可哀想ですって!」




部屋に帰って、シャワーを浴びながらも、店長との会話の余韻に浸る。


優しい店長は、私のバカな妄想に付き合ってくれるから、つい一緒に異世界に行きたいだなんて言っちゃったけど、やっぱりバカな子って思われたかなぁ…。


「店長と一緒に異世界に行って、あっちで美遊と一緒に暮らして…」


まるで家族みたい



………家族?



「いやいやいやいや!!」


思わず口をついて出た自分の妄想に、首を横に振る。


店長は確かに良い人だし、あんな人が美遊のお父さんだったら、離婚なんてしなかっただろうなって思うけど、それはそうだったらいいなってだけのただの妄想で、他に意味なんかない。


そう、ただの妄想。だいたい、こんなこと店長に言ったら絶対引かれちゃうよ。






「あら、巴奈ちゃん。少し元気になったみたいね」


「あ、叔母さんこんにちは。うん、なんとか元気」


レン君の家は公団のすぐ前だから、時々おばさんとは買い物で顔を合わせることがあるけど、そういえば最近はフルでバイトに入ってるから、時間被らなかったんだ。


おばさんから見て元気になったんなら、たぶんそれは店長のおかげだ。いっぱい励ましてくれて、いっぱいバカな妄想に付き合ってくれて……


「何ニヤニヤしてるのよ。何かいいことあった?」


「え!?いや、なんにもないよ!てか、私そんなにニヤニヤしてた!?」


「ふふ、良い人でも出来たのかなって思っちゃった」


「やめてよ、美遊とレン君が行方不明なのに、そんな浮ついたことしてられるわけないじゃない」


一瞬、ドキッとした。


おばさんの「良い人」に店長のいつもの優しい笑顔が過ったけど、確かに店長は良い人だけど、ただ私の境遇に気を使って優しくしてくれるだけの、善良なって意味の「良い人」で、おばさんが言うような意味の「良い人」じゃないし、実際美遊が行方不明になってる今、そんな事に気持ちが向くわけがない。


「そうよね、ごめんなさい。そうそう、このあいだレンのクラスメイトっていう子かウチに来てね、また可愛いらしい女の子でね」


「へぇ、あのレン君に」


話を切り替えたおばさんに、私も同調する。


ていうか、可愛い女の子だと?いとこの私から見ても、ドがつく陰キャのレン君に女の子とは。


「レンも隅に置けないっていうか、せっかく女の子の友達が出来たっていうのにこんな……ねぇ。あ、そうそう、それでね、その子達が言うんだけどね」


そこで叔母さんは辺りを見回して、声をひそめた。


「紫の大きな蝶々が居なかったかって言うの、レンと美遊ちゃんが行方不明になった公園に」


「紫の、蝶々?」


「そう。でね、何もなければ私もそこでわからないわって言って終わりだったんだけど、ほら、警察からもらった写真にあったじゃない、紫の粉」


「ああ、あったね。でもそれが蝶々とどう繋がるの?」


「ほら、蝶々って鱗粉?羽についてる粉みたいなのあるじゃない」


「ああ!!え、あれそうなの?」


「わかんないけど、ちょっと偶然にしちゃ出来過ぎじゃない?」


「うーん。ていうかなんでその同級生の女の子は、そんなこと知ってたの?」


「なんかね、その子のお兄さんが昔行方不明になって、その時に紫の蝶々を目撃したっていう話があったらしいのよ」


「それで、同じように行方不明になった美遊やレン君にも、同じことがあったんじゃないかって思ったってこと?すごいね、その発想が」


「私もちょっとゾッとしちゃったけど、それよりもお兄さんが行方不明になったっていうその子がとても可哀想でね、私が優しく慰めたら泣いちゃって…」


叔母さんの話は蝶々の話からその女の子の事に移って、しばらく続いた。


私も叔母さんも、突然我が子を失った。お兄さんが行方不明になったその女の子の気持ちは、痛いほど共感出来る。




「紫の蝶々かぁ」


「どうかわかんないけどね」


叔母さんと一緒にドラックストアを出て、よく晴れた空を見上げて不意に呟いた。


美遊は蝶々も好きだったからなぁ、見つけたら絶対追いかけただろうなぁ。


「今度、美遊に聞いてみるね」


「え?聞いてみる…て?」


「あの子ね、最近夢の中で逢いに来てくれるんだよ。森で大きな豚を捕まえたり、拾った子猫を育てたりしてるんだって」


「そ、そう…」


あ、しまった。叔母さんの顔が引き攣ってる。


ま、しょうがないか。いずれは話さなきゃって思ってたし。


「じゃあ、美遊に聞いたらまた話すね」


空気が気まずくなる前に、手を振って叔母さんと別れた。




夢で美遊に聞いてみる……か


普通に考えたら、子供を失ったショックでおかしくなってるって……思うよね。自分で言っててそう思うもん。


店長も、こんな話聞いたら私のこと頭のおかしい女って、思うだろうなぁ。


夕暮れの空を見上げながら、美遊も何処か違う世界で、同じような夕焼けを眺めているのかな、なんて考える。


慌ただしくすることで誤魔化していた色々が押し寄せて来そうで、私は少し重たく感じる足を動かして、家へと帰った。


今夜も、美遊に逢える。夢の中だけど、今はそれだけで心の支えになってる。


いつか、ひょっこりレンくんと2人して帰ってくる日を信じて……。

ご閲覧いただきありがとうございます。誤字・脱字、矛盾点等ありましたら、ご指摘頂けると幸いです。

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