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第3章【初めての狩りなのに調子に乗って狩りまくって申し訳ありません】1

第1話【不思議の国のミーユ】




「えっとー…つまり、レンとミーユで、森に行って狩りをする…ってことかな?」


翌朝、戸惑い気味ながらも真剣な眼差しで木板を持つレンに、ミルクがそう答える。


ミルクの後ろには、困り顔のカーズ、アリル夫妻がいた。




昨夜、なんだかよくわからないテンション…言うなれば、ポエムとか書き出しそうな夜の不思議なテンションで言ってしまった “魔物をいっぱい倒して強くなって日本へ帰ろう” 計画。


魔物を倒せば強くなるとは、この世界の先輩ニホンジン、ジョージが遺した言葉で、ジョージ曰く「倒した魔物の魔力が俺に宿る!!」だそうだ。


だが、強くなったところで日本に…元の世界に帰れる保証は全くない。それどころか根拠もない。


レンが勢いで言った、ただの思い付きである。


だが、6歳の幼女を誤魔化す…もとい、目標を持たせ前を向かせるには十分効果があったようで、今朝も起きがけに


『れんにいちゃん!!きょうまものたおしにいくの!?』


と、勢いよく言われた。


なので、レンはまず「狩りに行きたい」とカーズたちに伝えなければいけなかった。




昨日より随分と早く起きられたので、まだカーズが朝食を食べている時間に間に合った。


カーズに狩りに行きたいことを伝えようと、レンは頑張ってみたが、ジェスチャーでも木板でもカーズにはなかなか伝わらず、どうしようか途方に暮れているところへ、昨日同様元気いっぱいにミルクがやって来た。


レンとミーユの世話をするのにアリル1人では大変だろうと、ミルクも手伝うことになっていたようで、ちょうど困っていたカーズがミルクにバトンタッチ。


ミルクが、レンの言いたいことをなんとか聞き取ろうとしてくれた。


ただ、レンはレンで、朝からハイテンションで現れたミルクに一瞬ドキッとして、しばらく挙動不審になってしまったが。


どうも、昨日の帰り際のこととそのテンションの高さに、あの窓際の女生徒とイメージが被ってしまう。


しかし、彼女とミルクは随分容姿が違う。そもそも人種が違う。異世界人なんだから当たり前だが。


元の世界で言う、西洋系とアジア系の混血の様な顔立ちのミルクと、純日本人顔のあの女生徒では、面影が重なることはない。


加えて言うならば、ミルクはデカイ。


身長ではない。


身長は、日本人男性の平均的な身長のレンよりも、10cm以上低いだろう。


デカイのは体の一部、ミルクのミルクタンクが隠しきれない破壊力を持っているのだ。


まだ経験の浅いレンは、服で隠されたソレに過剰な妄想を抱くこともなく、デカイなーと思うだけだったのでセーフだ。




それはさておき


木板と身振り手振りを駆使した結果、なんとかミルクに言いたいことは伝わった。


だがしかし、ミルクに伝わったということが、レンに伝わらない。


この世界に来て3日目、名前以外では今朝やっと「おはよう」を覚えたレンとミーユ。


やっぱり英語の『good morning』に似ているなぁと、レンは思った。


もしかしたら、この世界の人に最初に言葉を教えたのは、アメリカ人かイギリス人なのかもしれないなんて、ぼんやり考えていた。


とにかく、レンのこの世界の言語レベルは赤子同然なのだ。ミルクは自分の答えの正否が知りたいが、レンに確認する手段がない。


とりあえず、おそらく2人は狩りに行きたいと言っているのは間違いないとカーズに伝える。


「そうか。実はな、昨日4人で久しぶりに狩りに行っただろ。だが午後から出たのでロクに収穫がなかったんだ。だから今日また行こうと言う話になっているんだ。

2人は魔法も使えるし、周囲への警戒さえこちらで怠らなければ危険は少ないだろう。むしろ2人の魔力は十分な戦力になる。場合によっちゃ助かるかもな」


それに対して、カーズは乗り気で答えるが、隣で聞いていたアリルが怪訝そうな顔をする。


「ちょっと、カーズ。ミーユも狩りに連れて行くの?」


「俺たちがついてるんだから大丈夫だよ。それに、このメンバーの中ではミーユの魔法が1番強い」


「そうは言っても…」


「大丈夫だって、アリル姉。いざとなったら、私がミーユだけでも抱えて逃げてくるから」


あっけらかんと笑って言うミルク。


この兄妹、別に危険意識が欠落しているわけではない。


幼い頃から魔物が出る森の近くに住み、親に付いて狩りを覚え始めた頃から魔物の森へも行っている。


森の魔物の危険性を熟知した上での発言なのだ。


対してアリルはのどかな農村育ちである。


魔物とは無縁の世界に生きてきたからこそ、未知の存在に対する恐怖心が強く出るのだ。


まぁ、普通に考えて6歳の幼女を魔物の出る森へ連れていくことは危険だ。当たり前である。


アリルが正しい。


この兄妹がズレているのは間違いない。


「だがなぁアリル、さっきのレンの必死さを思うと、何か訳があるんだろうと思うんだ。今俺たちが連れて行かなかったら、もしかしたら勝手に2人で行ってしまうかもしれない。俺にはその方がよっぽど危険だと思う」


カーズの説明に、それでもアリルは「うーん」と唸るばかり。




しばらく問答していたが、兄弟妹で最も戦闘力が高く狩りに慣れているミッツに、2人から離れないでいてもらうことを条件に、なんとか狩りに連れて行けることになった。


ということで、まずは集合場所になっている、魔物の森に1番近いミッツの家まで向かう。


その事をミルクは、言葉だけで教えてみようと、レンに向かい合った。


「“ミッツ”」


『………?』


突然、普段ノリの軽いミルクが、真面目な顔をしてミッツの名を言うので、レンは疑問符をいくつも頭に浮かべる。


「“ミッツ”」


再度ミルクが言い、同時にレンに向けて何かを指し示す仕草をする。


あれかな?リピートアフターミーみたいなことかな?


『えと、「ミッツ」?』


そう解釈したレンが、ミルクが言ったミッツの名を復唱すると、ミルクは満足そうな笑みを浮かべて、次の言葉を発した。


「“行く”」


そう言って、ミッツの家の方を指差すミルク。


『「いく」?』


「そう、“行く” 」


「いく」、


「“一緒に”」


ここで、自分とレンを交互に何度も指を指す。


「いっしゅに」


同じように、自分とミルクを交互に指差すレン。


「おしい!!ちょっと違う、“いっ、しょ、に”」


「いっ…しょ…に?」


「そうそう!!」


レンが上手く発音できて、ミルクは手を叩いて喜んだ。


「ミッツ、いく、いっしょに」


繰り返し呟きながら、ミルクがやったジェスチャーも合わせて行うレン。


『ミッツも一緒に行くってことでいいのかな?』


ちょっと違って伝わったようだが、ミルクは今度こそ伝わった手応えを感じ、2人に出かける支度をさせて自分も身支度をする。






ミーユは、ミルクが子供の頃に着ていた服を簡易に仕立て直した物を、レンはカーズの服をそれぞれ借りて着替えた。


2人とも少しぶかぶかな格好になったが、学生服や入学式の格好(見たことのない変な服)よりはかなりマシになったと、ミルクは満足げに笑う。


カーズは、屋根のない荷車に二頭の馬を繋いで、準備万端で待っていた。カーズ家の馬たちは、ミッツの馬ほど大きくない。レン達から見ると、普通の馬といった印象だった。


この世界の馬がデカイのかと思ったが、やはりアレは別の種類の動物と思っていいようだと、レンは思った。


カーズの荷馬車は、前にベンチのような部分──御者席──があり、そこにカーズが座って馬の手綱を取る。


ミルクが、荷台に上がり、御者席に座るカーズと背中合わせになるような位置から、少し荷台の隅にズレた位置に座り、レンとミーユに隣に座るように促す。


すでにミルクに懐いていたミーユは、ミルクの隣に座り、レンはその隣に座る。


ミーユ、レンが女性慣れしていない事を察して気を使った…わけではなく、突然親元を離れて異世界で暮らすことになった寂しさと不安が無意識に表れ、大人2人に挟まれて安心感を得ようとした結果だったのだろう。


ゆっくりと、ガタゴトと音を立て、荷馬車は走り出した。




道中、ミルクは2人に言葉を教えていった。


道、馬、山、木、森、石、草、大きい山、小さい山。


ミルクが指差して言うと、2人はそれを復唱する。


何度も繰り返すうちに、幼いミーユと現役高校生だったレンは、1つ1つ確実に覚えて行く。


『みゆは「小さい」みゆ!!』


「アハッ、ミーユ賢いね!!そう、“小さいミーユ” 」


早速覚えた言葉を応用してみせたミーユに、ミルクは驚きと教え甲斐のある生徒への喜びとで、ミーユの頭をハグして褒める。


豊満な胸に押さえつけられてグリグリされたミーユも、褒められた事への嬉しさと、包み込まれる母性への安堵感に表情を綻ばせる。


ミルクの柔らかな温もりから解放されて、ミーユは “そう言えば” というような目でレンの方を見た。


『ねぇ、れんにいちゃん。なんで “ふしぎのくにのひと” たちは、みゆのことミーユっていうの?』


ミーユ、今更自分が「ミーユ」と呼ばれていることに疑問を持ったようである。


そして、昨夜のレンが言った “不思議の国のアリス” の例えがそのままミーユのイメージに嵌まってしまったようだ。


『うーん、たぶんこの国の人たちには、“みゆ” よりも “ミーユ” の方が言いやすいんだよ』


『ふーん』


本当のところはレンにもわからないが、愛称なんてそんなものだ。


『“不思議の国のミーユ” だね』


『ふしぎのくにのみーゆ!!あははっ!!すごいすごーい!!』


どうやら、“不思議の国のミーユ” が幼女のお気に召したようである。


面白がって何度も口にする


「え、なに? “フシギヌクニヨ” ?」


その様子を御者席で聞いていたカーズが、ミーユが連呼するその言葉に興味を示した。


クニヨって誰だ。


節絹 邦代さんか。




突然の問いかけに、『え?えとぉ…』と考え出すレン。


さて、どう説明しよう。


『んー、僕…あーっと』


頭をひねるレンは、自分とミーユをそれぞれ指差して


「レン、ミーユ、ニホンジン」


自分たちは “ニホンジン” だとまず説明する。


「うんうん」


今更説明不要なこの言葉は、難なく伝わった。


そして、カーズとミルクを順に指差し


「カーズ、ミルク…」


続けて、馬車の進行方向と逆の方、さっきまでいたカーズの家の方を指差して


「アリル」


次に馬車の進行方向を指して、今向かっている場所にいるとわかっている人たち


「ミッツ、『えーっと…あ』、マーサー?アーク?」


「うんうん」


カーズとミルクには、自分たち兄弟+アリルのことを指したのではなく、レン達と自分たちが共通して知っているこの世界の住民を指して言っているとだろうことは、前述の「レン、ミーユ、ニホンジン」から容易に連想できていた。


「フ・シ・ギ・ノ・ク・ニ」


「なるほど!!ニホンジンの世界では、この世界を “フシギヌクニヨ” というのか!!」


レンの説明がわかって思わず大声でリアクションしたカーズ。答えは正解だが、何故か「フシギヌクニヨ」という言い方は直っていなかった。レン、ちょっと強調して発音したのに。


けど、レンは訂正せずにそのままにした。自分たちがこの世界の言葉を覚えることは必須だが、彼らはニホンゴを覚える必要性はないのだ。




こんな調子で、4人は荷馬車に揺られて行った。


ちなみに、この世界を『不思議の国』と呼んだのはレン達が初めてである。


正式名称はもちろん、固定した呼称もないが、敢えて言えば『異世界』が最もポピュラーだろう。


今後、この世界が “フシギヌクニヨ” と呼ばれることは…たぶんない。

ご閲覧いただきありがとうございます。誤字・脱字、矛盾点等ありましたら、ご指摘頂けると幸いです。

今回まで日曜日の9時に投稿していましたが、次回から月曜日の20時に投稿します

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