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彼は嘘を愛し過ぎている  作者: さもてん
9/44

朝日と東

イザヤは夢を見ていた。

自分は金髪の男に髪を掴まれる。そしてそのまま上に引っ張ると、床に叩きつけられた。男に怒声を浴びせられると蹴り始める。

そうなると、しばらくは止まらない。それをよく知っていた。だからイザヤはこのままされるがままにされるしかないのだ。

別に怖くはない。痛くない。

むしろ…………


*      *

イザヤがフッと目を開けるとそこはイザヤの元寝室、ヒョウの医療室だった。帰ってきたようだ。

ヒョウは本に顔を突っ伏したまま床で熟睡していた、体勢は正座である。


(フフッ…ぜってぇ足痺れてるな。)  


イザヤはクスッと笑った。

そして彼の金髪の髪の毛を見つめてイザヤはヒョウの頭をパフパフと叩いた。

…起きない。


オモチャが寝てしまってつまらなくなったイザヤは起き上がり仕事部屋に向かう。そこは元々ヒョウが来る前からの仕事部屋だ。簡素な作りだが地下では上等素材で作られた椅子に腰掛け深く考える。さて、仕事の時間だ。


(誰かが俺を陥れようとしているかも知れない。)


イザヤはギャング連続殺人事件の動機について考えていた。

西以外の国だけで犯人が暴れている。それは誰かがイザヤに罪を押しつけようとしていることの証拠だった。


なんのために?

…そんなの被害者(イザヤ)に分かるハズがなかった。


(面倒くせぇことしやがって。)


こめかみを押さながらイザヤはため息をついた。

その理由を知るために、情報を探す為には色々と手配しなければならない。

イザヤはペンと紙を取り出しメッセージを書き終えると、その辺にいたギャングの端くれである部下に手紙を渡した。東宛の手紙だ。

 

「お前は信用しているから託すんだからな。もしお前が殺されそうになったらそれ、食え。そのくらい大事なものだからな?」


部下に優しく笑いかけると部下は赤く、そして言葉の恐ろしさに青くなりながら慌てて行ってしまった。

その様子を見ながらイザヤは部屋に戻った。


*      *


それから三日間、特に用事もなかったのでヒョウは大好きな治療を専念していた。カズが連れてきたボロボロの部下達を次々と治していく、高揚した気持ちで銃の弾を抜き、傷口を縫っていく。

そして縫合し終えた痕をみて満足げに頷いた。全て事が終えたら盗んできた本を隅から隅まで読みこむ。…幸せの極みだ。

けれどまだ地上に戻る為の情報を全く仕入れていない、南の所に行く機会があればぜひ、あの時の続きを聞きたいものだ。


イザヤはどうやら犯人探しを押しつけられたようですこぶる機嫌が悪い。

けれどだからといって別にヒョウに当たる訳でもなく、仕事部屋にひきこもって何やら作業をしているようだ。


そういえば、五日目に東に向かうと行っていたが何をするのだろう。けれどヒョウには関係ないので待っているつもりでいた。


「あの、医者の方ですか?」おずおずといった表情で入ってきたのはヒョロリとした短髪黒髪の男だった。


「すぃせん。任務中に怪我してしまって……小さいんですけど大丈夫ですか?あ、(わたくし)中側近の「エディ」と申します。」


「大丈夫です。小さい怪我でも放っておけば市に至ることもありますから…………はい。」ヒョウは彼を椅子に座るよう促す。


腕にナイフが掠ったような傷だった。ヒョウは、包帯を取り出したながらたずねる。


「自分で切ったんですか?」


エディは目を大きくする。

「………その通りです。ナイフを仕舞うときに誤って擦ってしまったんですよ。なぜ分かったんですか?」


「傷口が左手の外側だったので、他の人に切られたにしてはこの切り口は不自然だなと。」あとは勘だ。


「いやぁ……さすが、イザヤ様が連れてきただけあるなぁ。治療も知識も丁寧で豊富だ。」


「………イザヤ様?」


「あ、頭首の側近の方です。頭が良くて、とても頭首に信頼されている方です。そして何より美しい。」


(そうか……この人はイザヤが頭首であることを知らないんだ。)


「ところでヒョウさんはどういった経緯で医者になったのですか?」


「イザヤに大切な物を盗まれて………それを取り返すために戦ったから、どういうわけかこうなりました。」


「あのイザヤ様が窃盗………?意外だなぁ。あ、もしかしたら貴方の才能に気づいていたのかもしれないですね。」


(んな馬鹿な……。)と思いながらヒョウは道具を片付けた。


「イザヤ様は聡明な方です。きっと何かお考えがあってあなたを連れてきたのでしょうね。」人懐っこい笑みでこちらに微笑む彼にヒョウは唖然とした。


できるなら彼の質の悪さと、その正体をカミングアウトしたい衝動に駆られたが、そんなことしたらヒョウがどうなるか分かったもんじゃないので止めておいた。


「エディさん。」「エディでいいです。年も近そうですし。」と言ってくれた。

躊躇しながらも「エディはイザヤの事を尊敬しているんですね。」と思ったことを言った。


その瞬間エディはすこし顔を赤らめ、手を振り盛大に否定した。


「いえいえいえいえ、滅相もないですよ。私なんかがイザヤ様を尊敬していいはずはありません。………ですが、叶うのならぜひ一度でいいから、肩を並べて話をしてみたいと思っています。」真剣な表情でまっすぐそう言う彼の目はどこか夢を見ているように綺麗だった。


「任務って、どんなことをするんですか?」


「あぁ、今回の任務は頭首の命を狙ったテロリストの残党の抹殺でした。」

彼はヒョウに事の顛末を話してくれた。残党のアジトを見つけ、人質を助け出す為に刃を振るうその様は、まるで地上で見たおとぎ話の騎士のようだった。


イザヤを尊敬し、命の為ならば残酷に刃を触れれるが、どこか抜けているこの男にヒョウは密かに感心した。


✱      ✱


その夜

ガタンッと大きな音がしてヒョウは目を覚ました。どうやら外からのようだ。

ここでは日が沈むと同時に寝静まる。光がなくなるからだ。だから6:00を過ぎると町は静かになるが、時計で時間を確認すると10:00だった。

一体何の音だろう。

まだ眠くなかったヒョウは気になって外に出てみた。そこにはカズが荷物をまとめて馬に乗せていた。


「何しているんですか?」


「お…あ…ち、ちょっと色々売り出そうと思ってよ。まとめてんるだけだよ。ガキはまだ寝てろ。」


こんな夜更けに、そして不自然に受け答えするカズにヒョウは違和感を感じた。が、何でもないと言うのだしヒョウには関係のなさそうな荷物達だったのでその場を後にした。

このまま部屋に戻ってもいいのだがすっかり目が冴えてしまったのでこの家を徘徊することした。他の部屋おろか自分の部屋もあまり場所を把握していなかった。それは単にヒョウの記憶力の問題ではなく、この家が広すぎるからだ。

未知なる場所に足を踏み込み、ヒョウは少し楽しんでいた。

ヒョウはここに来て三ヶ月半、ずっと暗い中で過ごしていたので、目が暗闇の中でも機能するようになった。

きっとずっとここにいるイザヤやカズはもっと夜目が利くだろう。


ある一室を通ると誰かの話し声がした。

どうやらイザヤのようだった。

『~~~…?』


『あぁ、そっち方が東も助かるだろうな。…そゆこと。そこで待ち合わせな。期待してるぜ。』


仕事の話のようだ。邪魔しない方がいいだろう。

そう思って離れようとした時、

『あ。そういえばそんな話を聞いたな。そこら辺も詳しく聞いとかないと。』


『……~~~、東で……~地上~~~落ちてきたかと、~~思われ~~~。』


ヒョウは地上という言葉にピクリと反応した。

ヒョウは前のめりになって静かにドアに耳を当てた。何かまだ自分の知らない外に出る為のヒントがあるかも知れない。聞き漏らせない。


『……~~~。』


『そうそう。ちょっと警戒強めないと、食われるかもしれない……』


『……~~~~…………。』


『分かってる分かってる。ちゃんと生きて帰りますよ……



       なっ。ヒョウ?』


イザヤがそう言うやいなやドアがガチャリと開いた。

ドアに張り付いていたヒョウは前に倒れた。顔を上げるとイザヤと話していたであろう男がいた。


「盗みに盗み見に、盗み聞き。いやぁ、困っちゃうな、俺の医者は。」 


イザヤがテンポよく話し出した。身に覚えがある行為にヒョウは視線を泳がす。


「頭首どうします?処します?処します?処しますか?」男は目を光らせながらヒョウを睨み付ける。


(処すというのは処刑の事である。)

ヒョウはサァと青くなった。男の目は本気だった。


「いい、俺が呼んでいたのを忘れてたわ。…ちょっと悪いけど、席外してくんね?」

イザヤは苦笑しながら男の行動を止めて部屋を退出させた。


「……。」


「……。」


いきなり二人きりになり沈黙が広がった。


「んで、なんか用?」


そんな冷や汗をかいているヒョウの様子に笑みを浮かべながらイザヤはたずねた。

ヒョウは腹を決めて心にあったものを打ち明けた。


「二日後にいく東に、俺を連れて行って欲しい。」

「ヤダね。」


即答である。

けれど今日のヒョウはひと味違う。なんせ外の情報があるかも知れないのだから、粘るに粘らなければならない。


「俺がいれば外出先でも君や君の部下がケガしたときに対処できる。出かけるのなら必要だろう?頭首ならなおさらだ。」

頭首という理由を付けて反論した。


「そんなやわじゃねーよ。うちの連中は。しかも日帰り、行って帰ってくるだけだぜ?」


「それでも、危険だ。」


「大丈夫だって……あ、そっか。アンタはさっき話してた地上から落ちてきた奴がいるって盗み聞いたからそこまでして来たいのな?」

ぐぅの音も出なかった。


「……そうだ。それが悪いか?」 


誤魔化すのもあれなのでヒョウは仕方なく、開き直った。


「………プッ、クッ…クッハハハハ!ア、アンタ、本当にバカみたいに素直だなぁ!!」

イザヤは爆笑しながらもヒョウを褒める。


(全く嬉しくない。)


ヒョウは表情を変えず、ただ心の中で悪態をついた。


「はーあ。…イイヨ。特別だぞ?」


笑い終えたイザヤは片目を開いてヒョウをみた。


「………!」


イザヤの言葉にヒョウは驚き、そして内心で喜んだ。

そんなヒョウには彼は人差し指を突き出し不敵な笑みで言った。


「ただし交換条件だ。」


(…またかよ。)ヒョウはゲンナリする。


「今、またかよ。って思ったデショ?」

首をブンブンと振った。

ここは黙っておくのが正しい。

イザヤはまた笑いながら続ける。


「まぁまぁ、そんな危険な条件じゃないから。俺はアンタを信じているけど、アンタが俺を信じていないように見えるんだ。だから俺は『目に見える形の信頼』が欲しいだけなんだ。」


そういってイザヤは自分の胸をトントンと二回つついた。

ヒョウは黙っていた。その通りだからだ。たとえ安全な場所をくれようとも、いい職業をくれようとも、一度騙された事も含めてヒョウはまだ完全にはイザヤを信用していない。

ここにいたら嫌でも人間不信になってしまう。

だが、それを表に出せば連れて行っては貰えない。つまり、イザヤの言う『条件』とやらに乗るしかない。

では、どうやって信用を勝ち取る?

あのイザヤにうまく嘘をつける気がしない。言ったとしても顔に出てしまいそうだ。

『目に見える形の信頼』と彼は言った。

思い当たる物が一つだけあるが…

……でも…あれは、……どうすれば…。


ヒョウは深く、深く考えた。

やがてため息をつくと首からあの金色の時計を取り出してイザヤにかけてやった。

ヒョウなりの信用の取り方がこれしか見つからなかった…これしかなかった。

イザヤが満足げに頷く。


「東に一日だけいるつもりなんだろ?それが終わったらサッサと返せ。」


「オイオイ。信用は一日だけか?せめて半年だ。」イザヤがズイッとこちらに近づいてきた。


(コイツ、調子に乗りやがって。)


「……三日間なら考慮してやる。」ヒョウは踏み込まれるのを嫌がるように一歩後ろに下がる。


「嫌だね。三ヶ月。」そんなことをお構いなしに一歩を踏み込んでくるイザヤ。


「…一週間。」また後ろに下がるヒョウ。


「二ヶ月。」さらに一歩踏み込んでくる。


「二週間、二週間だけだ。」そこでヒョウは立ち止まった。これ以上は無理だと言わんばかりに。


「んふ、連れてってやんねーぞ、一ヶ月♪」イザヤは両手をヒョウの肩にそれぞれ置き、胸にある時計を揺らした。


目と目が目の前だ。


「………分かった。」

ヒョウはまた大きな、ため息をついた。そして絶対…絶対に壊さない事をイザヤに約束させた。(返答が軽すぎて不安だ。)


「よしよし。じゃあ用件は済んだしたからそろそろ行くか。」


「えっ、もう行くのか?」

イザヤは頷く。いくらなんでも早すぎる気がする。

ヒョウは少ない荷物を整理しイザヤの後を付いていくと、先ほどの馬小屋の前にはカズと数人のイザヤの部下がいた。

カズがイザヤに近づくいて「手はずは整えました。」と言う。


(先ほどの変な誤魔化しはこれだったのか。)


どうりでここに来たばかりのペーペーな医者であるヒョウに教えるハズがない訳だ。

イザヤとその場にいた部下が全員馬に乗ると一匹だけ馬が余った。

「はて?」と思いながらもヒョウはカズの後ろに乗ろうとすると、

「おい。お前のはあっちだ。」とカズは空いている馬を指さした。

そこには他の馬よりも少し小さいが元気そうな茶色の馬が一匹いた。


「…えっ、俺の?」


「そうだ。お前為にわざわざ昨日借りに行ったんだからな。早く乗った乗った。」

カズに背中を蹴られ、馬の前に立つとムシャリと自分の馬に髪の毛をかまれた。

……痛い。


「サプライズなのに全然コイツ喜びません。」と部下達が口々に言った。


そこでヒョウはふと、違和感を覚えた。


(……待てよ。馬を昨日から用意してあったということは俺は元から行く手筈だったのでは……?)


バガッと振り返るとイザヤはすでに馬で軽快に夜を駆けていた。


*      *


「眠くないか?」カズが後ろからたずねた。ヒョウは頷く。

今、ヒョウ達は馬から下りて歩いていた。

東にある連続殺人事件の最新の被害者の家に向かっている所だ。

ヒョウは西の方向を見ると変わりない天井からやわい一筋の光が見えた。朝方だ。

カズとヒョウとイザヤ。離れた位置にはあと2人イザヤの部下がついてきている。

イザヤはここでも(自国も然り)顔を見せた事がない。彼曰く、そちらの方が都合がいいからだそうだ。


目的地につくと服の上から腕にスカーフをつけた東の部下が一人いた。

イザヤが手を上げると部下は一礼をして火山岩で出来た家の中を通した。イザヤの顔を知っている所を見ると随分高い位にいる部下なのだろう。


部屋はとても荒れていた。

衣服や物が溢れ、食べものがゆかに落ちて、そのまま腐っていた。心なしか異臭もする気がする。


「あ~…こりゃあれだな。荒らしだな。」

イザヤが呟いた。

ヒョウはキョロキョロと辺りを見ていると赤く染まった床の上に茶髪の長髪で腕にスカーフをつけた男が一人うつ伏せで倒れていた。出血は首からしているようだ。ヒョウは近づいて脈を取る。


(死んでる……。)


ヒョウは嫌というほど血を見すぎてすっかり不感症になったが、やはり見ていて楽しい物ではない。血の量からしてかなりの出血だった。失血死だろうか。


イザヤは部下に事件の詳細を聞いていた。


「ここにいた奴はスレッドと言って頭首を尊敬していてまぁまぁ仕事ができる奴でした。部下とも仲が良かったみたいですね。」


「あー…あの下っ端復讐劇の根源な。」


「死亡時刻は二日前の夜で、死因はナイフで首を切られての失血死。顔を変形させられるほど殴られ、更に銃で何発も撃たれています。そうとうギャングに恨みがあるみたいですね。第一発見者は彼の部下で彼はスレッドと死亡前にサケヤで飲んでいたそうです。スレッドがサケヤの前で別れる姿は住民にも見られたそうです。部下は明け方まで店で飲んでいるというアリバイを持っています。」


「……。」イザヤはため息をついた後に、腕を組んで考え込んだ。ここまでは他の被害者と変わらない。どれも金品を盗られナイフで首を切られている。

しかしギャングを狙うにしては危険過ぎる。金を盗るだけが目的ならなぜわざわざ銃を所有しているギャングを狙うのだろうか。


(確かに普通の奴らより金は持ってる。スレッドも中側近で金の蓄えはある方だが、ギャンブル癖があってすぐ金は消えていた。そんな奴狙うか普通。

………逆に考えて、ギャングを狙う事に目的があるのだろうか。)


けれどそんな事をして何になるのだ。だがこれだけ似たような殺人を繰り返すのだからきっと何かしらの理由があるに違いない。


「足跡がある。」


後ろで声がしてイザヤは振り返った。

そこには床に見ていたヒョウがいた。

彼の側までいくと、確かに靴の跡があった。


「多分…男。金があるギャングの物だと思う。普通の住民は靴を履かない。後は、俺みたいに落ちてきて靴を盗られたかのどちらかだ。」


「ハイハイまた買ってやるから昔の事で拗ねんなって。でも女の可能性だってあるからな。忘れんなよそこ。」


「ギャングが何人も殺されているんだろう?そしたらそこに出入りできる男の方が有利だ。」


「女でも男に媚びれば行けなくもない。」


「…君は女が嫌いなのか?」


「まっさかぁ。大好きだよ、だって可愛いじゃん。」


イザヤはおもむろに立ち上がると外に出た。

外には洗濯物を運んでいる女が二人いた。

そしてイザヤは突然、二人にナンパのように話かけた。


(おい…仕事はいいのか?)


ヒョウは呆れながらも放っておき、他に手がかりになる物を探した。

たっぷり1時間使い、ようやくイザヤが帰ってきたと思いきや唐突に、


「んじゃ、そろそろ時間だわ。俺は行くぞ。アンタは?」と、首元のシャツのボタンが二つ外れた状態で聞いてきた。


(自由すぎる。色んな意味で。) 


「…行く。」そうして二人は家を後にした。


*     *


向かった先は、東の頭首の住まいだった。

イザヤの家と似たような廃墟を再利用していて丈夫そうだった。

到着すると眼鏡をかけたあの大男に案内される。これから西と東で金貨を取引をするらしい。それまでヒョウは外で待っている必要があった。


「よう、クソ眼鏡。こんな清々しい朝にお前の顔を見ることになるたぁな。」カズは皮肉交じりにそういった。


「全く同感です、西なんかがこっちに来なければ今でもベットでのんびりとしていられたのに。」


「んだとぉ!バカにしてんのか!?」


「していないように見えますか?」


「あぁ!?」今にも取っ組み合いが始まりそうな二人をイザヤはどうどうと止めた。

どうやら二人の仲はあまり良くないようだ。

会談室と称される部屋にイザヤと用心棒としてカズが付いていった。


ヒョウはその間眼鏡の男と会談室の扉から少し離れた所で二人は向かい合いながら事件について話していた。


「スレッド…ですか。彼は頭首をよく慕っておりました。少しギャンブルと女癖はありましたけど。恨み…ですか?

ここの世界はそう言うものでしか成り立っていないので、なんとも言えないです。」 


「それもそうですね。」ヒョウは頷いた。


「あの人も中側近だったのに…残念です。」


「中側近?」ヒョウは言葉の意味が分からずたずねた。


「あぁ、ご存じありませんでしたか。説明不足ですいません。この地下世界のギャングはカースト制度のようになっているんです。頭首の下が『側近』、頭首直々に仕える者です。その下が『中側近』、その側近に従い動く者。その下が『下側近』、用は下っ端ですね。」

では、よく東の頭首の隣でみるこの人はきっと側近なのだろうなとヒョウは思った。


「事件の被害者は全員、側近か中側近のどちらかでした。」


「なるほど…中側近になることは難しいんですか?」


「そうですね。あの方も十年かけてやっと中側近になりましたから。」


「へぇ…じゃあ側近になる事もスゴイ大変なんですね。」ヒョウは眼鏡の大男に視線を向けると、彼は少し照れたように顔を伏せる。


「いえ、大変ではありません。喜ばしいことです。尊敬している人が多い中で、あの人の側にいることが出来るのですから、命なぞ惜しくはありません。」

眼鏡の大男から多大なる忠義の念を感じる。命を懸けられるほど大切な存在がいるとこんなに真っ直ぐになれるものなのかと、ヒョウは少し羨ましくなった。


「西の頭首と東の頭首って仲良くないんですか?」


頭首()は中途半端な人間を嫌います。あの方からみて西(ウェスト)はギャングに成りきれていないと言います。」


(ん?あのイザヤがギャングに成りきれていない?)


確かにギャングと言ったら欲しいものは何があっても奪い取るという感じだが、彼の場合はギャングというよりも詐欺師だ。


「私もあまり深くは分かりません。ここだけの話、あの曲がったことがお嫌いな頭首が何故わざわざ西(ウェスト)の趣味に付き合うのかが分かりません。」


この人はイザヤの事をあまりよく思っていない事を言葉のトゲからすぐに悟った。

すっかり話題を連続殺人事件に取られてしまったが、ヒョウはここに来た目的を思い出し彼に問う。


「そういえば、最近外の世界からきた東の仲間って今こちらにいますか?」


「……え?誰ですか?」


「地上から落ちてきた奴がここにいるという話を…イザヤから。」


「それはきっと南の話ですね。」


「………………。(騙された。)」


ならば南に行くしかない。無駄足になってしまったが、場所を知れただけまだ良かった。


「またそんな下らない戯れ言を言うなんて西(ウェスト)はこれだから…」眼鏡の男はブツブツと不満を口にする。 


するとその時、会談室の向こうから足音が聞こえた。眼鏡をかけた大男はピクリと反応すると、ドアのはじに立ちドアを開けようと手をかける。



(さて、今日もどんな無惨な姿だろうか。)

西と東が共にいるのだ、きっと前と同じ事をしているだろう。

初めてイザヤの性癖を知ったときの傷を思い出した。

まだその時の傷すら癒えていないのだから、きっと今回はもっと恐ろしい事になっているに違いない。


なんてことを考えている内にドアが開いてイザヤが姿を見せた。

彼は………








無傷だった(!)



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