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坊ちゃまのメイド  作者: くまきち
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エピローグ ~そして八年後……~

「ほら。次はこっちの皮を剥いとくれ」

「はーい」


 シャリシャリと渡されたジャガイモの皮を伝説の剣で剥く元勇者。


 「嫁に行かないなら働きな!」と言われ、魔物千匹を切り刻んできた腕前と切れ味は、ここに来てからはめっきり野菜にしか発揮されていない。


「坊ちゃま元気かなあ」

「今頃、イイ女捕まえてヨロシクやってるよ」

「相手ごと斬り刻んでやるっ」

「あんたが切るのは野菜だよ。ほら、次はこっち切りな」

「はーい」


 たまーにレインから近況が届くだけで、それにも坊ちゃまのことは皆無だ。徹底的に分断されている。ひどい。


 せっかく同じ世界の同じ種族で生まれ変わったのに、大魔導師とか言われてるけど手ぇ抜いたんじゃないの?と、城で暮らす王女をぶちぶちと(なじ)っていく。


「おや、あれは城からの定期便じゃないかい?」


 田舎には不釣り合いな豪華な馬車がこちらに近付いてきたのが見えた。


 きっと中には王女付きの近衛騎士団長がいるだけで、渡す物も最近城下で流行ってるお菓子とか自分の周りの近況だけしか書いてない手紙なんだ。


「おい、出迎えはないのか?」


 待っているのはそれじゃないんだからと、いつものように無視して背中を向けたら馬車が止まり、知らない男の人の声が響いた。




 ……違う、知っている。


 まだ少し幼さの残る声だけど、この三百年間、一時たりとも忘れたことのない声だ。


「リーデリッヒュ?」

「日に焼けたな、アリア」


 「ジャガイモが!」と、せっかく剥いたのに籠ごと落としそうになるアリアの手から母親が奪い、そのまま二人きりにしてやろうと家の中に入った。


 黒い髪に黒い瞳は変わらず、身長は頭一つ分だけわたしよりも上に、それでも縮まらない歳の差。


 八年経ったということは坊ちゃまは十五歳。対する自分は二十七歳。肌はガクッと衰えてきたし、毎日の農作業と家事で手は荒れている。


 それでも変わらずに微笑んで、約束を守りに来てくれた人が手を伸ばす。


「待たせたな。これでも急いだんだ」

「遅いですよ」

「すまぬ」


 手は荒れているしお肌も曲がり角になったし適齢期なんてとっくに過ぎたのに、こちらを見つめる瞳に躊躇(ためら)いは見えない。


 一歩だけ近付いて、そっと手を重ねた。




「昔と逆ですね」

「ああ」

「……本当に。三百年もなんて長すぎですよ」

「すまん」


 土とホコリだらけの服でも気にせずに、ただ約束を果たしに来てくれた人。


「……バカ」

「うん」


 『次に生まれ変わったら一緒になろう』なんて約束を律儀に守って、こんなところまで迎えに来るなんて。


「本当にバカね、リーデリッヒュ」

「何度も言うな」




 「あれまあ。本当に迎えに来たよ、父ちゃん」「そうみたいだな、母ちゃん」という声を後ろに聞きながら、八年分の隙間を埋めるようにきつく抱き合った。




「よし。このまま城へ行くぞ、アリア」

「城!?」


 なんでと言う声に少し照れた笑顔を向けて、馬車まで引っ張るように駆けていく。


「決まっている。結婚式だ!」

「結婚式ぃ!?」

「レインも待っているぞ。ああ、その前にドレスを用意しなければ」

「ちょっ、待ってリーデリッヒュ!」


 勇者を嫁にした魔王の話は、この後人々の間に広まっていくことになる。




 城で花嫁を待つかつての同僚は、輝く金の髪を揺らして静かに紅茶を飲んでいた。


「あー、やっとくっついた。めでたしめでたし」


 とても晴れやかな笑顔で、「これで肩の荷が下りた!」と思いっ切り腕を伸ばす。

 そんな王女に向かって、騎士団長が拳を握って禁断の言葉を言い放った。


「じゃあ次はレイン様ですね!」

「誰が男と結婚なぞするかぁっ!!」


 ガシャーンッとテーブルごと茶器をひっくり返し、王女に生まれ変わった大魔導師は、誰よりも強大な魔力を駆使して逃げ回り、生涯独身を貫くことで変な噂が流れるがそれはまた別な話。


 『めでたしめでたし』?


 最後までお読みいただき、ありがとうございます。


 半分熱に浮かされながら打ち込んだお話なので、前回よりもコメディ色が強いです。

 少しでも笑っていただけたら幸いです。

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