ギルドの初期対応
「ロバート大丈夫?」
正体不明の影の逃走劇から一夜明けて、朝になった。
街はもう騒がしくなって、怒声まで聞こえる。
「ああ、だが取り逃がした」
「ロバートが逃がすなんてねぇ。ロバートの監禁癖も収まってきたのかしら」
そう笑うのはアリサだ。
アリサは早朝に帰宅したロバートを迎えて、お茶を振舞った。
そしてロバートの要求どおりに、シュウジを席に加える。
「変な風にいうな!別に監禁するために使ってるわけじゃない」
「監禁?」
シュウジの疑問にアリサが応える。
「そうそう、ドローワールドは自分の空間をつくり相手を閉じ込める聖術なの。犯人の拘束向けだから結構重宝されてるのよ。
これでも」
「閉じ込めた後はサシだし、使い勝手が悪い能力だ。それより昨日の事件の話に移ろう」
「あ、そうだったわね。その少女は結局どうなったの?」
「女だとは言ってないだろう。少女の特徴は色々あるが決まったわけじゃない」
「そうね。じゃあここでは少女としましょう。その少女に対して我々はどうするの?」
シュウジは体を緊張させた。
我々とアリサは言ったのだ。
これは私情ではなく、ギルドの総意としてどう対応するかとしてアリサは発言した。
これは仕事の話なのだ。
その雰囲気にロバートは動揺もせずに話を続けた。
「簡潔に言えば、ギルドはギルドとして犯人を追いたい。そういう風に警備隊のやつらと話した。認証するのはアリサだが、後
日正式にアリサに依頼があるはずだ」
「つまり、警備隊との合同捜査?本当に依頼が来るの?」
ロバートは頷く。
「ちょっとツテがあってな。その人との話でギルドでも捜査をやっていいと言ってくれた。報酬の交渉も後日だが・・・」
「犯人が行方を眩ませる前に足取りを掴んでおきたい、と?」
「そうだ。犯人を見たのが俺だけである以上、俺を使ったほうが良いって話だ」
「警備隊にも賢い人がいるものね。いつもうちを頼ってくれれば」
「頼られても困るものもあるだろう。できなければそのまま警備隊からの評価に直結する」
「何だってやれるわ。それが私達の存在理由だもの。具体的には?」
「まだ、あっちは調査を始めたばかりだ。分かっていることは何も無い。とりあえずはこちらの独自調査になる」
「こっちの独断を許す見返りは?」
「手柄だ」
「高くつくわよ」
そう言ってアリサは紅茶を口につける。
「アリサの名前はあっちだって知っている。覚悟してるだろう」
シュウジは話についていけないことを自覚した。
だが、その話自体はシュウジは分からなくていい。
何故、自分がここに呼ばれたかがまず問題なのだ。
「で、分かっていることは?」
「さっき話した風貌だけ」
「ロバートは何するつもり?」
「とりあえずスラム辺りをしらみつぶし」
「なるほど、それでシュウジね」
「そうだ」
アリサはロバートの意図を察したようだ。
だが、シュウジにはどういうことなのか分からない。
「どういうこと?」
「さっき言った条件で絞ると、相手は聖術師であり、少女かどうかは分からないが年齢が若い可能性が高い。それに当てはまる
場所と言えば・・・」
シュウジはピンと来た。
「未登録聖術師がいるスラムか学園か・・・」
「そう。学園の生徒も範囲に入る。だからギルド員や予備生で学園関係者が学園を探る。あそこは外からじゃ接触しにくい場所
だからな」
アリサがお茶を置いた。
体をシュウジに向けて、まっすぐ瞳を見つめられる。
「シュウジ。だから予備生である貴方を呼んだのよ。でもやるかやらないかは貴方次第よ。できないと思うならやらなくいい」
ロバートもその言葉に同意する。
「そうだ。お前は経験が無いといってもいい。他の連中は多少は鼻が利くがお前は判断がつかない事も多いだろう」
「・・・・」
シュウジは黙り込む。
自分にできるのだろうか?
周りは自分より力のあるものばかり、もし殺人を犯すような相手で、しかも実力者なら目をつけられた時点でアウトだろう。
命をかける覚悟が無ければ引き受けられない。
ただ、今回は戦うものではないという気楽さもある。
「俺に・・・できるだろうか?」
不安な声にロバートが語りかける。
「シュウジ。たとえ相対したとしても、この世は強い者が勝つのではない。勝った者が強いのだ。そして腕っ節だけが強さでは
ない」
アリサが微笑んだ。
「ロバート君は優しいなぁ。私からも一言いい?」
「?」
シュウジが疑問符を浮かべて、アリサの次の言葉を聴く。
「できないと思うならやらないほうがいいわ。やる気が無いならギルドはあなたを必要としない」
アリサは笑顔でそういった。
シュウジは驚いて何も言えなくなる。
ロバートも少し驚いたようだったが口を開くことはない。
ギルド員ならば常に頭の片隅において置かなくてはならないことだからだ。
アリサはそれ以上語らずに、こちらの反応を待つ。
必要ない・・・か。
「一つ聞いていい?俺に声をかけた理由って」
学生でギルド員は他にも数名いる。
調査事態ならその学生達に依頼すればできなくはない筈だ。
次の事件が起きないとも限らないこの状況では、すばやい対応が求められ、人手は多いほうがいいかもしれない。
だが、自分は予備生以下という現実が確かにある。
「それは、ロバートに聞いて」
「あ、ああ。お前なら大丈夫だと踏んだからだ。あえて危険を冒さない。それはギルドに属するものなら何よりも優先すべき事
柄だ。つまり自分の身は自分で守れると思った」
なるほど。
2人は期待してくれているのだろう。
さっきの言葉もアリサなりの優しさなのだろうと考えるようにする。
期待に応えられるかどうかが試されている。
シュウジが口を開こうとする瞬間、アリサが口を挟む。
「シュウジ君。あなたもしかして自分が期待されてるって思ってる?それとも私の言葉すら優しさって考えてる?残念ながらそ
れは違うわ。他人から期待されてるなんて無理に思うおうとしてる姿なんて滑稽よ?ていうか気持ち悪い」
「えっ・・・」
アリサは紅茶を飲み干して、変わらず笑顔で言葉を続けた。
「って思う人もいるから、気をつけてね」
シュウジは困惑した。
アリサの言葉の真意が分からないからだ。
いや、真意なんて分かろうとしているのがおこがましいのか?
人の言葉を優しさと捕らえるのはそう難しいことではないとシュウジは経験で知っている。
相手の事を尊敬しているなら特に。
そして何かを言われたときに、"優しさ"と捕らえることはいけないと言われた。
本当にそうなのだろうか?
自分は力がない。
だから人に助けてもらわなければ生きてはいけない。
人の言葉を優しさと捕らえたほうが良い時だって多いはずだ。
そうして、他人に引き込まれずに自分を救っていける。
そのことのどこが悪いのか!?
そのことは否定されるようなことなのか!?
「アリサさん!!」
シュウジが叫ぼうとした時ロバートが口を開いた。
「はいそこまで!!シュウジ。朝早くからすまなかったな。もう行かないと講義に遅れるんじゃないか?」
「あっ・・・」
そこで今の時間を気づく。
そろそろ行かなければ危ない時間だ。
「シュウジ。返事は待ってるから少し考えてみろ。俺はお前の力も必要だから頼ってるんだ」
「あ、ロバート君ずる~い」
「お前は黙ってろ。ともかく細かい話をアリサにしておくから動き出すのにもうちょっと時間がかかる。ゆっくり考えろ」
「・・・・」
シュウジは無言になる。
そしてシュウジは学園に向かった。
ギルド支部から出るシュウジは後ろを一度も振り向かずに歩いていく。
ギルド支部に残ったロバートとアリサはシュウジを見送る。
見送りの2人は玄関にもたれかかっていた。
そこで残ったアリサとロバートが会話する。
「あれじゃあ、ショックで一時立ち直れんぞ。俺なら」
「でもアレぐらいしないと、私の可愛いシュウジくんが死んでしまうわ。ショック療法よ」
「ショック療法は意味違わないか?それにしても唐突過ぎだ。あーあ、ああいうのって後から来るんだよなぁ。意味が分かりだ
して」
「そうね。分からなかったらそれまでだけどね」
「うわ。さすが警備隊も道を譲るアリサだな。切れ味が違う」
「茶化さないでよ。でも、あの落ち込んでる姿ってそそる物があるわよね」
「若さだよなぁ」
そう言い合いながら妙齢の2人は仕事の話をするために席に戻った。
アリサ仕事顔編。
ロバート君は厳しくなりきれない系の青年なので良く苦労してます。
アリサは厳しい物言いで何人か被害者を出したりしてます。警備隊の人とか。
警備隊は街独自の自衛部隊。
簡単にいえば、市長の私兵。




