第1話 断罪の刃
グランヴェイル王国、王都大聖堂。
その最奥にある祈りの間に、悲鳴が響いたのは夜半のことだった。
「開けろ! 聖女様に何があった!?」
扉を蹴破って駆け込んできたのは、王都を守る騎士団の一団だった。先頭に立つ騎士が掲げた松明の炎が、部屋の中の光景を照らし出す。
床に座り込んでいたのは、若い女――魔法使いリゼット・アーレンスだった。世界最強とまで噂される魔力の持ち主が、腕の中に一人の女性を抱きかかえている。
聖女セラフィナだった。
白い法衣に広がる血の染みは、すでに黒く乾きかけている。それでも、セラフィナの顔はどこか穏やかで、まるで眠っているようにしか見えなかった。
「まさか……本当に……」
騎士の一人が声を震わせる。信じたくない、という顔をしていた。国の希望とまで呼ばれた聖女を、目の前の女が手にかけたというのか。
「リゼット・アーレンス! 貴様、聖女様に何をした!」
怒声が飛ぶ。槍の穂先を喉元に突きつけられても、リゼットは何も答えなかった。抵抗する気は最初からないようだ。
一人の騎士が恐る恐る近づき、セラフィナの首筋に指を当てる。長い沈黙のあと、絞り出すように言った。
「……脈が、ありません。お亡くなりになっています」
その言葉が、静まり返った空間に広がる。
隊長格の騎士がリゼットの前に膝をつき、低い声で問いかけた。
「なぜだ。なぜ、聖女様を殺した!」
リゼットはゆっくりと顔を上げる。
なぜ殺したのか。その理由を知るものは自分しかいない。
――それでも、絶対に言うことはできない。
たとえこの先、聖女殺しとして断罪されようとも。聖女が最期に告げた真実だけは、決して口にすまいと、リゼットは唇を固く結んだ。
騎士たちの手によって、リゼットの両の手首に拘束具が嵌められた。
セラフィナと交わした約束を果たすために、リゼットは静かに目を閉じ、これから長い戦いが始まることを覚悟した。
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それでは、また別の作品でお会いできますように。




