第76話
闘技大会から二週間ほど経過。
「はい、そこまで」
今日は野外で基礎訓練してからの摸擬戦を行った。
ティンファとアキトの実力は、最初こそアキトが上だったが……今では拮抗、いや……ややアキトが上だ。
アキトは、尻餅をつくティンファに手を差し伸べる。
「うー、また勝てなかったぁ」
「いや、危なかったよ。かなりギリギリ……ティンファ、すごく強くなってるよ」
「でもでも、アキトにまだ一度も勝てないしー」
ティンファは、アキトの手を掴んで立ち上がる。
最初こそ険悪だったが、今ではライバル、切磋琢磨する同士、友人……みたいな関係だ。
ちなみに、今日はスキルなし、武器だけの訓練だ。
俺は二人に近づいて言う。
「さて、二人ともだいぶ動けるようになったな」
「「はい!!」」
鬼ごっこでは子供を全員捕まえ、パンの配達はもう確実に行えてタイムを競うようになり、武器にパンを乗せての移動はダッシュしたり障害物を置いても難なくこなせるようになっていた。
コツを掴んだのと、互いに『こいつには負けない』って気持ちがうまく働いてる。実にいい傾向だ。
そろそろ、実戦訓練かな。
「さて、明日から本格的に魔獣との戦いを訓練に入れる。この二週間、きっちりと基礎をこなして身体は作れたし、スキルを使用しての戦術も頭に入った。あとは、実戦を積み重ねて練度をあげていく」
「ついに、ついに魔獣との戦いですね!!」
「……よし」
ティンファは興奮し、アキトはグッと拳を握る。
その前に、確認することがあった。
「さて二人に質問。お前たち、魔獣と戦ったことは?」
「いやいや、あるわけないですよ」
「ボクもないです。その……見たこともほとんどないです」
「そうか……」
さて、ここで最初の試練がやってくるな。
◇◇◇◇◇
その日の夜。
俺はカムド、ショコラを誘って町の酒場にいた。
「明日、二人を連れて魔獣と戦う。相手は……ゴブリンかな」
「……ついにか」
「最初の試練がくるわね……」
カムド、ショコラも理解している。
冒険者を目指す上で、決して避けては通れない道を、二人は歩む。
カムドは言う。
「で、どうなんだ? 二人はその……」
「ライバル、冒険者同期、仲間、友人……他に言い方あるか?」
「ふふ、あなた心配してるのよね」
ショコラがクスクス笑う。
俺は察し、エールを飲んで笑いながら言う。
「はっはっは。ティンファが妊娠したら、冒険者引退ってか」
「「……」」
「す、すまんかった」
カムド、ショコラに睨まれたので素直に謝った。
ショコラは言う。
「アキトくんはいい子だし、ティンファと『そういう関係』になってもいいけど……妊娠はちょっとまだ早いわね。ああ、私が言っても説得力ないけど」
「ぐううう……ショコラ、お前の親父、義父さんの気持ち、今ならすげえぇぇ理解できる。ブン殴られたけど、もしティンファが妊娠なんかしたら……う、おおおお」
葛藤するカムド……まさに、アキトとティンファは若いころのカムド、ショコラみたいな雰囲気がある。まあ、ティンファはお子様だから恋愛とかわかってなさそうだけど。アキトも冒険者として戦いたいのか、学ぶことしか頭にない。
「まあ、俺も一緒にいるし大丈夫だって。野営の時は別々のテントに寝させてるし、ティンファには絶対にテントで着替えるように言ってある。水浴びさせる時もタオルと着替えを必ず確認してから行かせてるし」
ラッキースケベなイベントは発生していない。
でも……俺の指導が終わり、二人がチームを組むのか個々で活動するのかわからんけど、二人で一緒にやっていく可能性はある……その後のことまでは責任持てんぞ。
すると、カムドが思い出したように言う。
「魔獣退治で思い出したが……最近、タクニキ王国周辺で魔獣が増えてるらしいぞ」
「そうなのか? 原因は?」
「そこまではわからん。アルノー、お前がいるなら大丈夫だとは思うが……」
「アルノー、気を付けてね」
「おう。あ、すんませーん、おかわりくださーい」
この時、俺は考えもしなかった。
もっと真剣にカムドの言ったことを考えておけばよかった……と、後になって後悔することになるのだった。




